短編夢小説
しあわせなおんなのこ



主人公設定:−−−−−
その他設定:お好きなゼルダシリーズでどうぞ



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そうだよ、彼女は哀れなまでに幸せだったのさ。
なにせ恋をしたのだからね、周りの皆も呆れ返ってしまっているよ。

ミコト、君が恋をした相手は勇者リンクかい。
やめといた方がいい。だって彼の周りは素敵な女性ばかりだし、君なんて彼女達に比べれば焼き損じたミートパイさ!
ああすまない、ミートパイは言い過ぎだったかな。

今日もリンクを眺めているのかい、懲りないねえ。
第一、 彼はハイラルに平和を取り戻す為に戦っているのだから、わざわざ君の相手なんかしてられないんじゃないのかい。
そう言っても聞き入れないのだから本当に、恋とは厄介なものだね。

ねえミコト、君は今、自分が幸せだという事が理解できているかい?
恋に夢中になるなんて幸せじゃないと出来ない事なんだから、リンクに話し掛ける勇気が出ないと嘆いて涙を流すのはおやめ。

ああ、今日もいい天気。
カエルが嬉しそうに鳴いているじゃないか、潤って仕方ないんだろうね。

ところでミコト、君はいつ仕事に行くんだい?
いくら食べ物が幾らでも取れるからって働かないのはいけないよ。
また今日も通り掛かるリンクを物陰から眺めていたみたいだけどね、ミコト、リンクに話し掛ける勇気が無い君は本当に幸せ者なんだよ。

……睨むなよ、本当の事を言ったんだから。
いくら君がリンクに恋をしたって、きっと話し掛けた瞬間に失恋だね。

え、リンクはそんな酷い人じゃないって?
いくら何でも話くらいは聞いてくれるって?

お笑いだよミコト、君はリンクに恋をしている癖に、リンクの事を何も知らないんだね。
他のみんながそれを聞いたら大笑いするよ。
リンクは絶対に君の話なんか聞いちゃくれないさ、そういう人だもの。
本当に君は幸せ者なんだねミコト、いっそ羨ましくなって来たよ、もう。
わかった、好きにしていいから仕事はしないと駄目だよ。こんなこと見つかったら大変だからね。
分かったらほら、仕事を探しに行かなきゃ。付いて行ってあげるから一緒に行こう。

本当にしょうがないなあ、君のような幸せ者は今まで見た事が無いよ。
ほらほら、もうリンクは行っちゃったから、待ってても来ないから。
また明日にでもチャンスを掴めばいいじゃないか、今日の所は諦めな。


++++++


今日もリンクを待っているようだね、ミコト。
さあミコト、君はいつになったらミートパイ……あ、さすがにこれは言い過ぎなんだったか。
まあいいや、ミートパイから脱却するのかな。

一つ訊きたいんだけど、君は鏡で自分の顔を見た事ないんじゃないかい?
まあた、そうやって事実から目を背けて怒るのかい? いい加減理解しな。
おお我らが主よ、哀れな少女ミコトをどうか救いたまえ、彼女が早く、この哀れで幸せにも程がある叶わぬ恋を諦めるよう取り計らいたまえ。

あ、これは本格的に怒ってしまったかな。
でも本当にいい加減にしないと駄目だよ。

ああ、今日もいつもと変わらぬ素晴らしい日だ。
森は褪せ山はくすみ湖は濁って行くのだからね。
そのうち万邦命運尽き果てて、もっと幸せな時代がやって来るよ、多分。
さあミコト、祝おうじゃないか。共に祝福の炎を上げようじゃないか。
こんな時くらいリンクの事は忘れてしまえ。皆が気を悪くしてしまう。

……ん? 何か騒がしい。
向こうで皆が何か騒いでるみたいだけど何だろう。
ちょっと見て来るね。


…………。


リンクだよ、勇者リンクがやって来たから皆、あんなに騒いでいたんだ。
これは僕らもじっとしてなんかいられないかな。

ってミコト、いきなり駆け出してまさかリンクの所へ行くのかい!?
ああ、どうせ止めたって聞かないんだろうね、哀れで幸せなミコト!
さあ大変だ、彼女が勇者リンクの元へ行った。愛の告白でもする気かな?
それは無理だよ、絶対に叶わないさ。
まるで強風吹き荒れる崖の上から崖下の針の穴に糸を通す程の不可能さだ。

やれやれ、これでまた一人減ってしまう訳だ。
やっぱり幸せな時代なんてやって来ないみたい。
そんな中でミコト、君の幸福な様子は際立って滑稽ですらあったよ。

彼女がどんな末路を辿ったのか予想はつくけれど、一応この目で確かめるのが礼儀ってものさ。
さあ、我らがレディは……あーあー、あんなに血塗れになってだらしなく肉や内臓を飛び散らせて。

結局彼女は最後まで、自分がモンスターだなんて気付かなかったんだね。
なんて哀れで幸せな子だったんだろう!
じゃあ逃げるとしようか、これ以上は付き合う謂われも無いからね。

勇者に恋をした、哀れで滑稽で幸せな怪物少女の物語は、これでおしまい。





−END−



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