短編夢小説
平原にて



主人公設定:−−−−−
その他設定:オリジナルのゼル伝



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自然ゆたかな平原を、緑色の服を着た青年が馬に乗って渡っていた。
たまに陸から空から襲って来る魔物を、剣や弓で撃退しながら城下町を目指すが、まだ遠い。


「まずい、矢が無くなって来た。さっきのダンジョンで使いすぎたかな。薬も無いし、出来るだけ怪我せずに行きたいけど……」


そう思い遥か前方に遠く見える王城を見据えていたら、そちらから一台の馬車が走って来た。
後ろに白いテントの荷台が付いた行商人の使うホロ馬車。
今や魔物の出現する危険地帯となった平原を、護衛も無しに渡る行商人なんて心当たりは一人だけ。
青年……リンクは助かったとばかりに、その馬車の方へ馬を走らせた。


「おーいミコト、矢と薬、在庫あるかー?」
「はいはい常連さん、たっぷりありますから買って行って下さいよ!」


少しふざけたような商売口調で笑う少女。
彼女はミコト、若くして一人で行商をしており、その行動範囲は国内を広く埋め尽くしている。
魔物を倒す為に各地を転々としているリンクは、店の無い地域に行く事も多くあって彼女の商品に非常に助けられていた。

矢と薬、ついでにミルクを買って代金の100ルピーを払い、近くの木陰で一休みするリンク。
ミコトも側に寄って馬車を降り、リンクの愛馬を撫でてから隣に座った。


「まったく、またロクに準備しないでダンジョンに行ったんじゃないの? 何があるか分からないんだから、アイテムの準備は怠っちゃダメよ」
「分かった分かった」
「分かったなら何度も同じ事を繰り返さない、あと人の説教を聞く時はミルクを飲まないっ」


リンクがミコトと出会ったのは旅に出て、初めて平原に出た時だ。
荷物を狙われてモンスターに襲われていた所を助けてあげたという訳。
それからずっとなので、二人の付き合いは割と長い。
ミコトはリンクが心配らしく、色々と世話を焼いてくれていた。
商品を特別に値引きしてくれたり、特別な場所へ出入りする為の通行証を工面してくれたりと様々だ。


「ホントに……。リンクは命を懸けてるんだから、油断しないでよ。リンクが魔物を倒してくれなきゃ私の夢が叶わないし」
「ミコトの夢? 初耳だな、一体なんなんだ?」
「……」


ミコトの夢。
一つは数年前モンスターに両親を殺された時に失った、自分の家を建て直す事。
今は主に宿屋や馬車で寝泊まりしていた。

そして、あと一つ。
これはリンクに出会ってから出来た夢だ。
リンクの恋人になりたい……いつかは結婚したい。


「……お金を貯めて、そして家を建てるの。モンスターに壊されない平和な世界になったら。そして未来の旦那様と一緒に住む」
「なるほど、平和で良い夢だ。ミコトはしっかりしてるから、いいお嫁さんになれると思うよ」


そう言うリンクの妻になりたいが……、あっさり言われるなんて、脈は無いのかと沈むミコト。
ただ自分がリンクと近しい存在だとは思える。
既に友達だし、親友と呼んでも良さそうな立ち位置に居れる幸せがあった。

ミコトは息を吐いて晴れ渡る空を見上げた。
モンスターが巣くい、世界が危機に陥っているとは到底思えない美しい空。
今は周りにモンスターの影も無く、リンクと二人きりでゆったりと出来る幸せを噛み締めている。


「いいお天気……」
「だよなぁ。モンスターが居るなんて信じられない」


リンクのお陰で平和が近付いているのは確実。
異変があった村も山も湖も全てが、彼の活躍で元の安泰を取り戻した。


「一人で事件を解決して回るなんて、凄い知恵と力と勇気よね、リンク」
「なにも俺一人で解決した訳じゃないよ。色んな人や動物が力を貸してくれた。もちろんミコトにも凄く助けられたよ」
「私、役に立った?」
「うん。一番ミコトに助けられたかもしれない」


リンクの言葉に、つい顔が綻んでしまう。
好きな人の役に立てるなんて嬉しい事だ。

さて、と息を吐いて、立ち上がり埃を払うリンク。
休憩も終わりだ。
未だ完全な平和が訪れない現状を見れば、あまりノンビリとしていられない。
気を付けてねと心配そうに言うミコトに、リンクは笑顔を見せる。


「大丈夫だよ、ミコトの言う通り、休息もちゃんと取ってるから」
「旅に出る時、特にダンジョンに行く時は?」
「アイテムの準備をちゃんとする、な。じゃあ、行って来るよミコト!」


手を振り、愛馬に跨って自分とは逆方向に駆けるリンクを見送るミコト。
彼への想いを胸に秘め、今日も彼女は平和を願って仕事に打ち込んだ。





*END*



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