短編夢小説
be born again……



主人公設定:−−−−−
その他設定:世界観はオリジナルなゼル伝。最後に少しだけ時オカ要素有。



++++++



何故私は蘇ったのか。
分からない。が、
これは復讐のチャンスかも知れない。



++++++



「気が付いた……よかった」
「……」


目を覚ますと、そこは心地良いベッドの上だった。
目の前には自分を覗き込む1人の男。
金髪に青い瞳、緑の特徴的な服は……。


「貴様っ……!」
「な、何だよ!」
「何故ここに居る!」
「待て、落ち着け! とにかく君が誰なのかを教えてくれ!」
「ふざけるな、私は……」


瞬間、自分の体の異変に気付く。

柔らかく白い肌。
細く頼りない体。
“牙”も“爪”も無い。


……何だ?
これではまるで……、

“ニンゲン”ではないか。


「気が動転してるのか? 大丈夫だ、君をどうにかしようなんて考えてないからさ」
「……」


何故こんな事になってしまったのか分からない。
ただ呆然と己の手を見つめる事しかできなかった。
今、自分の身に何が起きているのか……理解したくないと言うよりは、ただただ頭が付いて行かないばかり。
そんな彼女にお構いなく男は名乗る。


「君、名前は何て言うんだ? 俺はリンクだ」
「……」


個別に付いた名前など、そんな“ニンゲン”のような物はない。
彼女達には種類を分ける名前しかない。


「どうした? 警戒しなくてもいいって」
「……名前は、無い」
「無い……?」
「……」
「ゴメン、何か嫌な事思い出させたか?」


勝手に解釈されたが疑われるよりマシだ。
復讐のチャンスかも知れないのだから。
男……リンクは、名前が無いんじゃ不便だよなと困った顔をする。
しかし、ふと近くの本棚から本を取り出しページを捲った。


「……ミコト、なんて名前はどうだ? この小説のヒロインなんだけど」


そんなこと言われても興味など湧かなかった。
だが怪しまれないためにも受け入れた方がいいと彼女は考える。
“ニンゲン”は個別の名があるのが当たり前のようだから。
了承を出し、彼女は「ミコト」となった。

ミコトは以前、いわゆるモンスターだった。
人々を襲い、苦しめ、我が物顔で生きていた。

しかしある日その天下が崩れる。
勇者が現れたのだ。
ミコトはその勇者に倒された。

【勇者 リンク】に。

それが何故“ニンゲン”の姿になっていたのだろうか。
気付くとこの姿で、しかも自分の命を奪った男に助けられていた。
屈辱だがこれはチャンスでもある。

……しかし。
爪も牙も強い能力も無くしたミコトに素手でリンクを殺せる力は無い。
“ニンゲン”とはなんと脆弱な生き物なのだろうと嘲笑するミコト。
何とか復讐のチャンスを掴まなければならない。


「しかしどうする、君、家はどこなんだ」
「家も無い」
「そうか……」


……今だ、今しかない。
そう思ったミコトは意を決して口を開いた。


「……お前。お前は、旅をしているのか?」
「ん? あぁ、そうだよ」
「ならば私を連れて行ってくれ」
「え!?」


リンクは驚いているがそれは当然だ。
偶然助けた少女に旅に連れて行けと言われたのだから。
驚くリンクに抗議する間を与えないように、行く当ても無い、助けて貰った恩返しがしたいと告げるミコト。
それはミコトにとって屈辱的な台詞だった。
自分を殺した男に恩返しだなどと想像するだけで虫唾が走る。
しかし復讐のチャンスを掴むにはリンクに近付くのが一番の近道。


「俺の旅は危険だ。危ない所に行くし、モンスターとも戦わないといけない」
「大丈夫だ。戦いは……、少し経験があるし、危ない橋も渡ってきた」


リンクはミコトの話を聞き、彼女の雰囲気がどこか普通の人と違うのはそう言う事だったのかと納得した。
出会ったばかりの少女を連れて戦うのもどうかと思うが、頼りになりそうな気はするし何より彼女自身が望んでいる。
そして彼女に身寄りが無いのを憐れに思い、リンクはミコトを連れて行く事に。

しかしそんなミコトが考えるのはリンクへの復讐。
これで少しはリンクを油断させる事ができる。
初めは信用させる為に彼の手伝いをし、隙が出来た時に命を奪う。
絶対に倒すとミコトは強く心に誓い、リンクの旅に同行した。


++++++


ミコトはリンクに長ナイフを貰い、それを武器にした。
“ニンゲン”の武器を使うのは初めてで初めは戸惑ったがすぐに慣れた。
モンスターとしての元々の戦いの才がミコトの中に残っていたようだ。
リンクと共に敵(中には、かつてミコトと協定を結んでいたモンスターも居た)を倒し、ダンジョンでは二人で協力して謎を解く。
彼らの冒険は至って順調だった。


「ミコト、有難う。君が居てくれて俺は本当に助かってる」
「……そうか」
「君が居てくれるから、俺はこんなに進めた」
「満足するには早いぞ。まだ、根本的な解決はしていない」


言ってからミコトはハッとする。

自分は今、何を言った?

リンクはミコトの言葉に頷き決意を込めた強い瞳を輝かせる。
駄目だ。早くリンクを倒す方法を考えねば、このままでは居られない。

……「このままでは居られない」?

それは一体何故か。
自分の命を奪った男と馴れ合う自分が許せないからか。
そうだ、そうに決まっている。
まさか自分がリンクに親しみを感じているなどと思いたくなくて、ミコトは必至で自分に浮かびかけた感情と思考を否定する。
自分を殺した仇にそんな感情を抱く訳にはいかない。
何とか気を落ち着かせようと目を閉じて深呼吸した瞬間、焦ったようなリンクの怒鳴り声が辺りに響いた。


「ミコト!!」
「!?」


リンクの叫び声で我に返ったミコトが見たのは、今にも自分に牙を剥こうとしているモンスターの姿だった。
しかも“ニンゲン”になる前の自分と同じ姿の、つまりはミコトの仲間。
話など聞いてくれる筈がない。ミコトは今“ニンゲン”なのだから。
避けるのが間に合わず、身構えたミコトを庇うようにリンクが飛び出して来た。
モンスターの牙がリンクの体を深く抉る。


「逃げろ、ミコト!」


深い傷を負いながらリンクはモンスターに対峙する。
しかし傷のせいでいつもの動きが出来ていない。
下手をすれば倒されてしまうだろう。

……それでいい筈だ、それがミコトの目的なのだ。
ミコトは自分を庇うように立っているリンクの背中にナイフを向ける。

刺せ、それで終わる。

しかしどうしても体が動かない。
ここは諦めてまた次回の機会を窺った方がいいか、そう思いこの場はリンクを手伝おうとしたミコト。
だがその瞬間、モンスターがリンクに襲いかかった。
傷のせいかリンクの反応が遅れる。


「リンク!!」


無我夢中で気を振るいモンスターを斬りつける。
気付けばミコトの目の前には、かつての仲間が倒れていた。


「ふぅ。有難うミコト、危なかった……」


リンクは笑顔で礼を言うがミコトはただ呆然とするだけ。
憎き仇を助ける為に同胞を殺した、その事実を認めたくない。
同時にリンクが助かってホッとしている自分も。
なぜ自分は仇の命を助けてホッとしているのか、かつての仲間が仇に襲いかかった時、無我夢中でかつての仲間を斬ったのか。
リンクが死ぬと思った瞬間、今までの楽しかった冒険が思い出されて……。

………楽しかった?


「……私は……」
「ミコト? どうした、君も怪我したか?」
「あ……」


今、確かに自分はリンクとの冒険を「楽しかった」と表現した。
憎き仇と共に過ごすのが楽しかったなど、あってはならない。
ましてかつての仲間を殺してしまったのに……。


「……っ」
「おい、大丈夫か!?」


ミコトはこの憎い男を助ける為に仲間を殺した。
……いや、仲間ではない。
彼女はもう彼らの仲間ではないのだ。

……じゃあ誰の仲間だと自問するミコト。
自分が“ニンゲン”である事に違和感を感じ、共感できるモンスターからは倒すべき宿敵“ニンゲン”に見えている。


「(……私は……!!)」
「おい、ミコト!」


気付けばミコトは走り出していた。
逃げたい。
あの男から、今自分を取り巻く全ての事から逃げてしまいたい。
怪我をしているリンクはミコトを追いかけても追い付けない。


「ミコト、どうしたんだ! 行くな!!」


声は届いている筈なのにミコトは止まらない。
全てから、逃げてしまいたかったから。


++++++


「ミコト……、どこに行ったんだ……」


傷の手当てを終えたリンクはミコトを探して走り回っていた。
色んな町や村で彼女の特徴を伝えるも、なかなか手掛かりが掴めない。

そんな彼に進展があったのは、とある村に立ち寄った時。
村人たちにミコトの特徴を伝えて知らないかと訊ねると、一人の少年が村のずっと北にある湖で最近見かけたと言う。
少年の言葉に従い湖へ向かうリンク。
早く逢いたい、どうして彼女が自分の元を去ったのか知りたい。
リンクはただミコトに逢いたいという想いと、どうすれば彼女が自分の元に居てくれるのかを考え、駆けた。


++++++


一方ミコト。
あれから数日、彼女はずっとリンクと会わないよう各地を転々としていた。
しかしそうしながら考えるのはリンクの事。

彼は今なにをしているのか、無事でいるのか、もう自分の事など忘れて旅を再開しているのか。
そんな考えはこの数日何度も頭に浮かんで来る。
その度に、自分は何を考えているのかと苛立ちを覚えた。
気が付けば自分はリンクの事を考えている。

こんな事は……。


「ミコト!!」
「!?」


聞き覚えのある声。
振り返れば、そこに居るのは自分の仇。

……仇。

その単語にミコトの胸が痛む。
それで間違いない、それ以外の存在ではない筈なのに、一緒に冒険するうちそう考えるのが嫌になっていた。
自分の命を奪った憎い存在であるはずなのにとずっと悩んでいる。
リンクはそんなミコトの感情を知ってか知らずか、切なそうな表情で彼女に歩み寄った。


「ミコト、どうしたんだ。どうして俺から逃げたんだ」
「来るな……」
「頼む、教えてくれ! 俺は君を……」
「来るなと言っている!」


リンクに貰ったナイフを向け、ミコトは彼を睨み付ける。
反射的にリンクが立ち止まった。


「ミコト……」
「私は…、貴様を殺す為に同行していた! それ以上近付けば殺す!」


リンクは呆然とミコトを見ていたが、ふっと表情を和らげた。
瞬間的にカッとなって彼を怒鳴りつけるミコト。


「何がおかしい!」
「俺を殺したいんだろ? なのに、近付くな、近付けば殺す……なんて、矛盾してないか?」
「……!」


ミコトは遠回しに本音を言ってしまったようだ。
復讐をしたいのにどうしても出来ない。
憎い相手に感化される自分が許せなかった。

加えてリンクを前にすると起こる信じがたい感情。
それを当人に知られたくない、だからリンクには会いたくない。
しかし殺したくもない。
そんな想いがミコトの中で渦巻いていた。


「ミコト、教えてくれ。どうして君は俺を殺したいんだ?」


ミコトの言葉の矛盾を指摘したものの、彼女が全く嘘を言っているとは思えないリンクは直接彼女に問いかける。
ここでそれを話してしまえばリンクはミコトを警戒し、ひょっとしたら倒そうとし、ミコトの計画は全てが水の泡になってしまう事だろう。
それなのにミコトは全てを話したくて仕方なくなってしまった。
これを全て話せば自分は楽になれるような気がして。

ミコトはついに、自分の事を全てリンクに話した。
かつてハイラルを脅かすモンスターだった事、そしてリンクに殺され、何故か人間として蘇り、チャンスとばかりに復讐の機会を窺っていた事。


「分かったか? 私はモンスターだった。しかも貴様に殺された」
「……ミコト」
「自業自得だと笑うか? しかし、私の種族の繁栄の為にやっていた事。貴様ら“ニンゲン”だって自分達の住処を得る為に私達を殺すだろう?」


だからとやかく言われる筋合いは無いと、リンクにナイフを向ける。
別に今そんな事を言いたい訳ではないのに強がってしまう。
そうでもしないと自己を保てないような気がしていた。


「まぁ、だから私が殺されたのも、貴様等の自衛手段だったのだろうが……。それでも、貴様を恨むのは止められない」
「じゃあ、どうして今まで俺を殺さなかった?」


至極当然な疑問。
ミコトはその質問にギクリとしてしまう。
機会など幾らでもあった。なのにリンクを殺さなかった。
まさに葛藤していた内容を問われ押し黙るミコト。
こうなってはモンスターとしてのプライドをすべて捨て去り、自分が感じたままを素直に言わなければならないのだろうか。

殺したくない。
暫く共に旅をするうち、何故か頭に浮かんだそんな考え。


「なぁミコト、俺さ、君が居なくなって凄く後悔した。どれだけ心配して探したか……」
「……後悔? 私が居なくなって?」


妙な単語に引っかかりを覚え、ミコトはリンクに問いかける。
リンクの方は暫く躊躇っていたのだが意を決して切り出した。
もう二度とミコトに会えないのではないかと思って後悔してしまったと。
それで心配ならまだしも、後悔とは意味が分からない。
ミコトは疑問に感じたままをリンクに問う。


「何故それで後悔する」
「……ったく……。だから! 君に好きだって言えばよかったって、後悔したんだよ!」
「……」
「分かるだろ、君の事が好きなんだよミコト!」


リンクの告白に、つい反射的に嬉しいと思ってしまうミコト。
それに気付いた瞬間、自分の中の何かが音を立てて崩れて行く感覚がした。
それはモンスターとしてのプライド……、いや、かつてモンスターだった自分の全てだろうか。
かつての自分の過去を全て己で否定してしまったような気がして、ミコトはつい意地を張ってしまう。
が、その言葉には今までのような強さは籠っていなかった。


「私は……、お前を、殺す為に……」
「なら殺せばいい」


リンクは武器を捨てて真っ直ぐにミコトへと向かって行く。
その瞳には迷いも恐怖も感じ取れない。
むしろミコトの方が驚き、迷い、怯えていた。
向けたナイフは引っ込みがつかないが、小刻みに震えている。


「来るな……来るなっ!」
「刺せばいいだろ? 簡単に死ぬと思うぞ」


リンクはミコトが突き付けたナイフの切っ先に触れる寸前で止まった。
これで一歩踏み出せばリンクを殺す事が可能だ。
しかしミコトは少しも動けない。
ナイフを引っ込める事すら出来ずに顔を俯けて小さく震えている。

そんなミコトを見かねてリンクが一歩踏み出した。
ナイフが刺さると思い、青ざめたミコトが小さく悲鳴を上げるが、リンクは彼女の持つナイフを払い落とした。
そのまま固まっているミコトに抱きつく。


「俺と出会った頃の君の気持ちと、今の君の気持ちは同じなのか……?」
「……それは……」
「君が俺を恨むのも仕方ないと思う。でも君は俺を殺そうとしない……」


どうすればいいんだ、と問いかけられ、ミコトも困り果てた。
自分はどうしたいのか。
リンクを殺したいのか。
この男を護る為に、かつての仲間まで殺してしまった。
今更この男を殺して何になるのか。

……いや、それより自分がどうしたいかだ。
自分はリンクを殺したいのだろうかと考え、ミコトはついに自身の本音へ辿り着く。


「………たくない」
「ミコト?」
「殺したくない……」


一緒に旅をし、共に過ごす内に芽生えた信じがたい感情。
それがリンクと同じものかは分からない。
でも共有できるのならしてみたいと思った。
この感情がリンクと同じなら嬉しくてたまらない、それは今のミコトの正直な気持ち。


「私は、モンスターだった頃の記憶が全て残っている。だから“ニンゲン”の事はよく分からない」
「大丈夫だ、ミコト。俺が教えてやるから。俺は君と生きたい」


リンクが微笑む。
それにホッとしたような初めて見せる笑みを浮かべ、小さく礼を告げたミコト。
そんな彼女がリンクの腕から逃れ、一歩下がった。
そして何故か不自然に屈む。
リンクが妙な雰囲気に気付きミコトの名を呼んだ。

………瞬間。

気付くのが遅ければ、確実に死んでいた。


「どうしたんだ!?」


先程リンクに落とされたナイフを拾ったミコトが、そのままリンクを斬りつけたのだ。


「……言っただろう? 私はモンスターだった頃の記憶を全て残している」



だからお前への憎しみも、いつまで経っても消えないんだ。



「頼む、リンク……! 私を殺してくれ!!」


ミコトの懇願にリンクは動揺する。
ミコトはモンスターだった頃の記憶も感情も消えていない。
“ニンゲン”への侮蔑も、リンクへの憎しみも。
そんな感情が渦巻く中、小さく芽生え、そして成長したリンクへの想い。
憎しみと愛情に挟まれ、どうしていいか分からなかった。

リンクを殺したくない。
殺したくない。

でも、憎い。

憎い、憎い、憎い、憎い。


「ミコト……!」
「剣を取れ、リンク! 私を殺せ!!」


憎い、リンクが憎い。



でも、愛しい。



リンクは迷っている。
彼女の望みを叶える事が彼女への愛情なのか、彼女の意志を踏み倒してでも彼女を生かす事が正しいのか。


「……リンク、お前は先程、自分を殺せばいいと言ったな?」


ミコトが突き出したナイフに躊躇い無く向かって行ったリンク。
しかし彼には世界を救う使命がある筈だ。
聞けばリンクはミコトの様子から見て、あれなら本気で刺せはしないと踏んでいたようだ。
戦い続けていた経験から本気の敵意や闘志は感じ取れるらしい。
流石のリンクも、まさか好きな女の為に使命を捨てる事は出来ない。
しかしそれを聞いたミコトは表情を硬くする。


「そうか、なら……。私はお前を殺す」
「ミコト……!?」
「死にたくなければ、私を殺せ」


ミコトはナイフを構えリンクに向かって行く。
反射的に放棄した剣を拾うと、ミコトのナイフを受け止めた。
リンクの責任感を逆手に取った脅し。
優しいリンクの事だからミコトを殺そうとする筈が無い。
ならば後は彼の勇者としての責任感に付け込むしかないだろう。
世界の為に死ぬわけにはいかない、ならば本気で殺そうとするミコトを殺すしかない。


「やめてくれ、俺には無理だ。君を殺すなんて……!」
「じゃあ死ぬのか! お前が死んでも、私はもう生きないぞ!」


まだ頑なに殺そうとしてくれないリンクを更に脅す。
これで、自分が死んでもミコトさえ生きていてくれれば、などとは言わせない。
ミコトを殺して生き残るか、ミコトに殺されて2人で死ぬか。
しかしリンクには世界を救う使命がある。
自分が死んだらこの世界はどうなるのか。


「リンク、私はお前が憎いんだ。……なのに愛しい! どうしていいか、全く分からない!!」


モンスターと人間の確執は簡単に消えない。
ミコトはそれを背負っている。

ミコトは泣いていた。
リンクへの憎しみと愛情に押し潰されそうになりながら。

ミコトのナイフがリンクの隙を突き彼の喉元を狙い定める。
瞬間、リンクは迷っていた剣を一閃させた。
確かな手応えがリンクを絶望に陥れる。
残酷に斬り裂かれたミコトの頼りない体。
しかし倒れたミコトは穏やかに微笑んでいる。


「ミコト!!」


血溜まりに沈むミコトの上半身を起こし、リンクは必死に呼びかけた。


「俺……、なんて事を…」
「仕掛けたのは、私だ。それに、お前は、私の望みを……叶えてくれた」


これで憎しみと愛情のせめぎ合いから解放される。
リンクへの憎しみも愛も、どちらも紛れも無く本物だった。
それはミコトの心の中で互いを締め付け合い息の根を止めようとする。
これでようやく、彼女は解放されたのだ。


「ミコト、俺は、本当に君の事を……」
「誰も……お前の気持ちを疑ってなどいない」


分かっていた、先程のリンクの言葉は偽りなどではないと。
そして今もその気持ちは変わらずに持っていてくれていると。
それを反芻して確認できた安心感か、急速にミコトの体から力が失われる。
もう最期だと判断したミコトは、リンクに精一杯の笑みを向けた。


「……リンク、もし……また、私が生まれ変わる事があったら……」
「……」
「その時は……きっと、恨みなど忘れて、お前の傍に……居よう」
「ミコト!!」


ミコトが目を閉じた。
もう二度と目覚めない、片道の旅に出る為に。



どこかで再び、旅路の途中で出会う事があるのなら、その時は確執を忘れ、お前の完全な味方として、お前の傍に居よう。

約束する。



傾きかけた太陽に染まる湖のほとり、愛した少女を失った勇者の慟哭が響いた。


++++++


そして、どこかの世界、いつかの時代。
森の中を妖精が飛ぶ。
美しい光の球体に美しい羽のついた妖精。
急いだ様子の妖精は、森の民が住む村の一軒の木の家に入る。
家の中に居るのはベッドで寝ている1人の少年。


「リンク……! 起きて! 起きなさい!」
「う〜……ん……」
「……え?」


起こした少年の顔を見た妖精ナビィは、どこか懐かしさを感じた。
しかし、それどころではないと思い出し、少年を森の主であるデクの木の元へと連れて行く。

“邪悪なもの”に蝕まれたデクの木を助ける為、その中へ入る少年、リンク。
どこか不安そうだ。


「大丈夫、ナビィがついて行くから。一緒にデクの樹サマを助けよう!」


ナビィの励ましに、リンクは微笑んで彼女を見る。
その笑顔にもどこか既視感を覚えるナビィだが、今はそんな事を考えている場合ではない。
そんな彼女の考えは知る由も無く、リンクは尚も嬉しそうに、心強そうに微笑んでいる。


「手伝ってくれんの?」
「うん! だってナビィは……」


何故か、この言葉を言いたかった。
今日会ったばかりだが、ずっとこの言葉をリンクに言いたいとナビィは思っていた。


「ナビィは、リンクの味方だよ!」





−END−



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