短編夢小説
ある秘密基地にて



主人公設定:アルファサファイア連載の夢主(18歳のトリップ主)
その他設定:ユウキの性格はリメイク前に近め。14歳設定で実に思春期。



++++++



昼間だというのに夜かと見紛う程の曇天だった。
嫌な予感がしたがそれを振り切って進んだものだからさあ大変。
暫く歩いていると雨が落ち、瞬く間に土砂降りに。
ボールから出しているジュカインが手をミコトの頭の上に掲げてくれるが、残念ながら叩き付けるように降る雨を凌ぐには足りない。

雨は119番道路の中途半端な位置で降り始めた。
先へ進むにも後へ戻るにも遠く、こうなっては進むしかない。


「あーもう服の中まで水浸し……」


愚痴った所で雨が止む訳でも服が乾く訳でも無いが、口に出して溜まる鬱憤を晴らさなければ気分が沈む。
早くヒワマキシティへ行ってポケモンセンターの部屋を借り、シャワーでも浴びなければ。

容赦無く叩き付ける雨は滝のように降り始め、恐怖を覚える程の豪雨となった。
ふと道の脇の草むらに目をやると、大きな草の塊を発見する。
よく見てみれば入り口のような穴が開いており中に入れるようだ。


「ジュカイン、あそこで雨宿りしよう! もう耐えられない!」


あまりの豪雨に、ミコトの全身は水に浸かったのと変わらないほど濡れている。
慌てて入った草の塊の中は、意外にもそこそこの広さがあった。
外の豪雨が嘘のように一切の浸水が無く、ミコトは安堵する……が、乾いた空間に来れば、今度は自分の濡れ具合が気になる。

リュックは防水加工がしてあるので中の荷物は無事のようだ。
リュックを傘代わりにすれば少しはマシだったかもしれないが、かなりの豪雨なので意味は無かっただろう。
下着までびしょ濡れで非常に気持ちが悪く、ミコトは思い切って服を全て脱いだ。
すぐさまタオルを出して全身を拭いてから着替えを取り出し、服を着始める。


「はあ〜……降り始めないうちに引き返せば良かったね」


ミコトの言葉に苦笑するジュカイン。
これはミコト自身の判断ミスで、だからこそ悔しい。
ジュカインはずぶ濡れでも平気のようだが、これで彼が病気にでもなったりしたら申し訳ない。


「ジュカイン、大丈夫? タオル貸そうか?」


ミコトが心配そうに話し掛けると、ふるふる首を横に振った。
草タイプのポケモンである彼は雨に濡れるくらい平気なのかもしれない。
それより早く服を着ろと、地面に置いてある着替えを顎で示された。
今ミコトは下着姿。
先程までずぶ濡れだったし、早く体を温めないと風邪をひいてしまう。

服に手を伸ばした瞬間、凄まじい閃光が辺りに走った。
すぐさま聞こえる雷の爆音にミコトが軽く悲鳴を上げる。


「ひいっ!? す、すごい雷……ヒワマキ目指さなくて良かった」


ここに避難しなかったら間違い無く途中で鳴り始めただろう。
不幸中の幸いにほっとしていると、突然人の声が聞こえてきた。


「ああっ、良かった着いた……!」
「えっ」


聞き覚えのある声だな、と思った瞬間に入って来る見知った少年。
水に浸かったようにずぶ濡れの彼は、下着姿のミコトを視界に入れた途端 目を見開いて動かなくなる。
同時にミコトも固まって動かなくなり、数秒間そのままだったが、ハッと我に返った少年……ユウキが出て行こうとしたのをミコトが慌てて引き止めた。


「ま、待ってユウキ君! 外 土砂降りだよ!」
「……ごめん」
「ごめんじゃないって! あっ、と、すぐに服着るから!」


ユウキが外を向いている間に慌てて服を着て、もう良いよと声を掛ける。
躊躇いがちに振り返った彼は気まずそうにしながらミコトの側まで来た。


「私、向こう向いてるからユウキ君も着替えなよ」
「そうする」


相変わらずな筈のぶっきらぼうな態度が、いつもより顕著に感じる。
そんな態度やムスッとしたような表情は照れから来る反動で、ミコトもきっとユウキが照れているのだろうとは分かった。

暫く後、「いいよ」と声を掛けられて彼の方を振り返る。
タオル片手に頭を掻いている様子を見て、何だか笑えてしまった。


「……なに笑ってんの?」
「ううん。私もユウキ君も見事にずぶ濡れだったなって思って」
「そう言えばミコトさん、髪、まだけっこう濡れてるけど」
「ああー……拭いてる間にタオルが駄目になっちゃって。仕方ないからヒワマキのポケモンセンターまで我慢しようかなと」
「それじゃ風邪引くだろ。バシャーモ」


ボールからバシャーモを出し、小さな炎を出させるユウキ。
途端にその周囲がほんのり温かくなり、体が冷えていたミコトは喜び勇んで近寄った。


「ああ、生き返る……! ユウキ君、バシャーモ、ありがとう!」
「ジュカインは大丈夫?」
「濡れても平気だったみたいだけど……ジュカインこっちおいで?」


少し遠巻きにしているジュカインに、こっちに来るよう誘ってみる。
彼は炎が苦手ではあるが、進化前は博士の研究所で一緒だったし、バシャーモの事は信頼しているだろう。
ひょっとしたらずぶ濡れなのを気にしているのかもしれない。
バシャーモと違いボールの外に出ていたジュカインは今もずぶ濡れだ。

ユウキが立ち上がり、タオル片手にジュカインに近寄る。
彼のタオルはミコトのタオルほど駄目になっていないらしい。
水分を拭ってあげるとジュカインはユウキと一緒に来た。
やはり濡れているのを気にして近付かなかったようだ。


「ミコトさん、まだこいつボールの外に出してるんだな」
「あはは……どうにも甘えちゃって。もうポケモンは平気なんだけどね」
「オレにはジュカインがボールに入りたがってないように思える」
「あ、それもあるよ。ボールに入るよう言っても入ろうとしないんだ。ポケモンセンターで回復する時とか、バトルで負けた時ぐらいしか入らないよ」
「……それ、四六時中ジュカインと一緒って事?」
「うん。寝る時も一緒に寝てるし」
「ぶっ!」


突然、ユウキが息をつっかえるように吹き出した。
笑われたのかと思ったが、彼は焦ったような顔をしている。


「ど、どうしたの」
「いや……別に」
「そんなに変だったかな? ユウキ君は一緒に寝たりしない?」
「そういうのは、あんまり」
「お風呂とかも一緒に入ったりしないの?」
「ぶっ!」


またも焦ったような顔で吹き出すユウキ。
一方そんなユウキを、バシャーモとジュカインが微妙な顔で見ていた。
彼が何を考えているのか大方 分かるらしく、その顔のまま溜息を吐く。

黙ってしまったユウキとそんな彼に気まずい思いをするミコトを放っておけず、そろそろ助け船を出すかと相棒達が動き始めた、その瞬間。
またも凄まじい閃光が辺りを包み、先程よりだいぶ大きな雷鳴が轟いた。


「ひきゃあっ!?」
「うわっ!」


びくりと体を震わせたミコトは、思わず隣に居たユウキに抱き付いてしまう。
夢中な為かぴったりと体がくっ付いている事などお構い無しのミコトだが、ユウキの方はそうもいかなかった。
それなりに見目が良くそれなりに体型の良いお姉さんに抱き付かれては、思春期真っ直中の少年はたまったものではない。


「やだ恐い、さすがに恐いっ!」
「ちょ、っと、落ち着けよミコトさん!」
「だってあんな大きい雷だよ!? 落ちたらどうしよう!」
「高い木はもうちょっと離れた所にあるし、この辺は大丈夫だって!」
「ユウキ君は平気なの?」
「そりゃ外に居たら恐いけど、こういう場所なら別に平気だろ」
「ううう……強いね。私ムリだよ恐い……さすがにあんな大きいのは……」


頭を抱えるように耳を塞いで、地べたに座ったまま蹲ってしまったミコト。
困り果てたユウキはジュカインとバシャーモに助け船を求めるが、彼らは何とも言えない微妙な顔のまま目を逸らした。

もう一度かなり大きな雷鳴が轟き、再びミコトは悲鳴を上げて体を大きく震わせる。
何故か相棒達は助けてくれる様子が無いし、ユウキは腹を括ってミコトの背中を撫で始めた。


「ほら起きろよミコトさん。……その、オレがついてるから」
「ユウキ君……」
「雷が収まるまでここに居るし、そしたら一緒にヒワマキへ行こう」
「……うん」


ようやく落ち着いてくれたようだ。
蹲っていた上半身を起こし、座り込むミコト。


「ユウキ君には情けないところ見せっぱなしで、助けられてばっかりだね。私の方が年上なのに情けないなあ……」
「経験とか恐い物に年齢って関係ないだろ」
「それもそうか……ありがとうユウキ君、頼りにしてるよ」


半泣きだったのかミコトの頬はほんのり朱に染まっており、照れくさそうに目元を拭って微笑みながら言う。
その姿は、頼りにしているという言葉は。
ユウキを奮い立たせるには充分過ぎた。

(ユウキにとって)丁度良いタイミングで再び巨大な雷鳴が轟き、ミコトの体が跳ねた瞬間に彼女を抱き締める。
そのまま背中をぽんぽん叩いてあげると、震えていた体が落ち着き始めた。
まだまだ豪雨は続き、雷は鳴り止みそうにない。
暫くくっ付いていて欲しい……と言いそうになったミコトだが、年下の男の子にさせる事ではないと思い直し、礼を言って離れようとした。
が、ユウキの方が放してくれそうにない。


「ユウキ君?」
「……見てられないから暫くこうしててやるよ。恐いんだろ?」


向こうから言わせる形になってしまい、有り難さと恥ずかしさが一気に襲い掛かる。
けれど再び轟いた雷鳴に完敗したミコトは、そのまま甘える事に。

そうしてぐるぐる考えるミコトのすぐ側でユウキは、思いがけず幸運を運んでくれた雷雨へ密かに感謝する。
照れて強がりつつも異性に興味津々、なんて年頃に現れた妙齢の女性は、ユウキに憧れを抱かせるには充分だった。
しかも一ヶ月程度とはいえ、一つ屋根の下で暮らしていた訳で。
これで意識するなと言う方が無理だ。

ミコトを抱き締めたまま、ユウキはちらりと相棒達の方を見た。
相変わらず何ともいえない微妙な顔のまま大人しくしているが、ふと彼らもユウキ達の方に目をやる。
しー、と人差し指を顔の前に持って来て黙っているよう示すユウキを見て、はいはい分かりました……と言いたげな顔でそっぽを向くのだった。





−END−



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