短編夢小説
教えて医療少女



主人公設定:医療少女(スマブラ夢主)
その他設定:スマブラ世界



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「恋とは、どういうものだ?」
「……」


珍しい者が訪ねて来たと思った。
スマブラファイター達が暮らすピーチ城の医務室、Dr.マリオの助手をしているミコト。
今はドクターが乱闘に行っているので一人で医務室に居た。

そんな静まり返る部屋にやって来たのはミュウツー。
自身の怪我や病気で来た事が一度も無い彼がついに調子を悪くしたのかと思い、問答無用で椅子に座らせてミコトも着席した直後の事だった。


「……えっと、どうしたのミュウツー。どうしてそんな事わたしに訊くの?」
「お前なら知っていると思った。恋をすると動悸や息切れが起きたり、眠れなくなったり赤面症になったりと、病のような症状が表れると聞いたのでな」
「……」


確かにそういう症状が出る事もあるし、恋は病だと昔から言うが。
かと言って本当に病という訳じゃない。
医者も匙を投げるのが恋の病だ。


「病気みたいな、というだけで本当に病気じゃないの。わたしじゃ恋についての事は分からないわ」
「つまりお前は恋をした事が無いのか」
「えっ」
「恋をした事があるなら教えられるだろう。つまりお前は……」
「ど、どうして突然 恋の事なんて知りたくなったの? 何かあったんだよね?」


思わず遮ってしまった。
ミコトは現在10代後半、恋人が出来たかどうかに関わらず、恋というもの自体をした事が無いというのはどうにも恥ずかしい。
ミュウツーは何事も無く平然とした様子で。


「生物の感情の中で、恋が一番複雑だという説を知った。私は作られた生命体……恋を知れば他の生物に近付けると思っただけだ」
「……」


ミュウツーがこの世界に来たばかりの頃、こうして他人を気にする事など殆ど無かったように思う。
仲間達と付き合ううちに、他者との差異が気になったのだろうか。
しかしミコトは。


「わたしね、ミュウツーと他の皆との差って、他の皆と変わらないと思う」
「つまり私が感じている差異は、一般の生物における個性のレベルだと」
「まあ、そういう事になるのかな。恋って教わるものじゃなくて落ちるものだから、実際に自分が恋に落ちてみないと分からない事も多いよ」
「落ちる……?」
「え、えっと……もう不可抗力っていうか自分じゃどうしようもないっていうか、そういう感じの……何というか、……そんな、感じの」
「お前は恋をした事が無いんじゃなかったのか」
「な、無いよ! 想像とかよく聞く説とか、そんな話だから!」


自分一人だけが恥ずかしがっている現状に更に恥ずかしさが募る。
ミュウツーは性別が不明らしいが、声からしてオスのように思える。
少なくとも周囲やミコトはオスだと思っており、今はまさに異性と恋愛の話をしているような状況だ。

ミュウツーは相変わらず平然とした様子だが、ふと一つ息を吐いた。
思わず彼を見たミコトは……唖然とする。

ミュウツーがうっすらと微笑んでいた。
今まで彼の笑顔など見た事が無いミコトは驚いて、じっと彼の顔を見つめながら訊ねてみた。


「ミュウツー、どうしたの?」
「何がだ」
「笑ってるから。何か楽しい事でも起きた?」


自分が笑っているとは思わなかったらしいミュウツーがハッとしたような顔をする。
少しだけ視線を下げて何か考えているようだったが、ややあって顔を上げ、真っ直ぐにミコトを見ると口を開いた。


「今、どうやら私は安心したようだ」
「安心?」
「お前が恋をした事が無いと聞いて、とても安心した」
「……」


それは、そういう意味だと思って良いのだろうか。
今までミュウツーを仲間としか思っていなかったミコトの方が、何故かドキドキし始めてしまう。
どうして急に……と思ったが、恋は“落ちる”ものだと自分が言ったばかり。


「……ねえミュウツー。どうしてわたしが恋をした事が無いと安心するの」
「お前の心が誰のものでもないから……ん? これか?」
「え」
「ひょっとすると、これが“恋”というものなのか」


自覚させてしまった。半分わざと。
ミュウツーは相変わらずの態度だが、何か納得したような雰囲気。
彼が自分の出自を気にして他者の感情を知りたいのであれば、仲間として協力してあげたい。
しかしミコトはその感情を向けられている当事者な訳で……。
自覚させてしまってから再び悩み始めてしまうミコト。


「ミコト、どうしたらいい」
「どうしたら、って、言われても……」
「私はお前に恋をしているらしい。自覚したら次はどうするべきなのだ?」
「……告白、してみるとか」
「私の気持ちを伝えるのか。しかしお前はもう知った」
「それはそうなんだけど、もっとちゃんと告白しないと」
「告白とは感情を伝える事が目的なのだろう? もう達成したが」
「形式とかトキメキとか、そういうものが必要なの!」
「そうなのか。確かに難しいな、恋というものは」


ミコトが半分キレたような態度になっても、根気よく付き合うミュウツー。
もはやどちらが相談を受けている立場か分かり辛くなったが、彼はうんざりするような事も無くミコトのアドバイスに素直に従っている。
相変わらず正面からミコトを見据えるミュウツーは、提案の実行に掛かった。


「ミコト、私はお前に恋をした」
「……」
「いや、これでは駄目か? こういう時は確か……。私はお前の事が好きだミコト。愛している」
「わーーーーーっ!!」


もう耐えられない。
異性(だと認識している)上、憎からず思っている相手にこうして告白されて、意識しない者など誰一人として居ない。
例外なくミコトも爆発してしまい、思い切り叫んで立ち上がった。
顔を真っ赤にして、酸素不足の金魚のように口をぱくぱくさせて。
何か言おうとしても高鳴る心臓につっかえたようになって出て来ない。


「……何事だ」
「あ、だ、あ、う、」
「言葉が出ないのか」
「……」


これだ。ミュウツーの方が平然としているから、恥ずかしがっている自分がおかしい気がして余計に恥ずかしくなる。
先程からこのパターンばかりでいい加減に疲れて来た。


「(なんとかミュウツーを照れさせてやれないかな)」


すっかり目的が彼の相談に乗る事からすり替わっている。
状況が始めの頃から一変しているので仕方ないが。
ミコトは先程の彼と同じようにミュウツーを正面から見据えた。
そして深呼吸すると、一気に告げる。


「わたしもミュウツーの事が好き、大好き! 出会った時から気になってた! もう愛してる!」


沈黙。
ミコトはヤケになっており、さあ照れなさいと強気モード。
随分と長く感じた十数秒の沈黙の後、ミュウツーが顔を俯けた。
彼は椅子に座っているので立っているミコトから表情は窺えない。
ついに照れてくれたのかと思ったが。


「……そうか。お前も同じ気持ちだったのか」
「あ、う、うん……」


正直、告白された事で意識し始めたので、心苦しい。
ミュウツーはそれに気付かないようで、顔を上げると。


「今、私はとても嬉しい。こんなに嬉しいのは初めてだ」
「……」
「恋とは、こんなにも幸せになれるのだな」


その顔は。穏やかに笑むその表情は。
いつにない優しさで紡がれるその言葉は。


「わーーーーーーーっ!!」
「何事だ」


結局、ミコトだけを照れさせ恥ずかしがらせるのだった。





*END*



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