短編夢小説
エンゲージ



主人公設定:医療少女
その他設定:スマブラ。マルス落ち



++++++



「おかしいなぁ。部屋に無いから、どこかに落としたと思うんだけど……」


いつも通りのスマブラファイター達が暮らす、キノコ王国ピーチ城。
Dr.マリオの助手でもあるミコトが何やら不安げな様子で、何かをキョロキョロと探していた。
そこへやって来たのはマルスで、ミコトに気付いて声を掛ける。


「やぁ、ミコト。どうかしたの、探し物?」
「マルス。ねぇ、どこかで指輪を見なかった?」
「指輪?」
「落としちゃったみたいなの。どうしよう、私が貰った大事な婚約指輪なのに」


泣きそうになりながら困り果てている彼女に、あぁ、こんなミコトも可愛くていいなぁと心密かに和むマルスだが……。
最後の最後に、ミコトは聞き捨てならない爆弾発言をかましてくれた。

え? 指輪?
大事な婚約指輪?

婚約? 誰が?
って“私が貰った”って言うならミコトだよね?

ミコトが? 誰と?
婚約? つまり結婚前提?

婚約? 結婚? 結婚!?
ミコトが!?

半ばパニックに陥ってしまい、軽く青ざめながらも、何とか笑顔を作る。


「こ、婚約指輪を失くすって大事じゃないか。僕も手伝ってあげるよ」
「ありがとうマルス! えっと、指輪の特徴は……」


マルスの申し出に、心底嬉しそうなミコト。

うん、いいんだ。
片思いの最後に君の笑顔が見られただけで僕は幸せなんだけど泣きそ。

あんまり良くない感情を持て余しながら、一緒に廊下やらダイニングやらあちこちを探し回る。
指輪は紐を通して首から服の下に提げていたらしいが、どこへ行ったのか……。
探している途中、アイクとピットが武器を磨いている現場に出くわした。


「アイク、ピット君、指輪を見なかった?」
「指輪? いや、見てない」
「見てませんが……失くしちゃったんですか? 僕達も一緒に探しますよ!」


勝手に、僕“達”とアイクを巻き込んだピットだが、アイクは別に嫌がる事も無く、すんなりと捜索に加わってくれた。
折角ミコトと2人っきりだったのに、ちょっとムッとしたマルスは、自分が味わった絶望をぽつりと口にしてみる。


「ミコトが探してるのって婚約指輪なんだよね」
「うん、そうよ」
「……」


婚約指輪と聞いた瞬間、アイクとピットがぴたりと固まるのを確認した。
バッとミコトを見て何かを言いかけたものの、不安そうなミコトが言葉を放った事で叶わない。


「はぁ……見つからなかったらどうしよう。本当に申し訳ないよー……」
「心配するなミコト、俺達も手伝うから、そのうち見つかるハズだ」
「そ、そうですよ! 婚約指輪ですもんね、絶対に見つけましょう!」


まさかミコトに婚約者が居るとは思わなかったのだろう。
何だかマルスはショックを受けた様子の2人が気の毒になり、教えた事をちょっと後悔する。
まぁいずれは分かる事なのだが、もう少し黙っているべきだったかと。

物陰なども探しつつ更に城の中を進むと、マリオとリンクが乱闘の予定を立てている所に出くわす。


「よ、ミコト達なにやってんだ、揃って」
「マリオさん、リンク。あの、どこかで指輪を見なかった?」
「指輪? いや、見てないけど…失くしたのか、意外にドジだなミコト」


笑ってミコトの頭をポンポン叩くリンク。
親しげな様子にムッとしたらしいアイクとピットが、先程のマルスと同じ事を試みた。


「ミコトさん、早く大事な婚約指輪を見つけ出しましょうよ!」
「そうだ。折角の婚約指輪なんだからな」


わざと、婚約指輪、の部分を強調する2人。
予想通り、マリオとリンクは驚愕した様子でぴたりと固まった。
そうね、と笑顔で返事をするミコトに、アイクとピットが冗談を言った訳ではないと悟る。
何だかえらく落胆した様子のマリオとリンクに、アイクとピットは先程のマルス同様、ちょっと教えた事を後悔した。
脱力しつつも、マリオとリンクは指輪探しを手伝ってくれるらしい。


「なぁミコト、部屋には無かったんだよな? いつも首から提げてるならどこかで落としたのか」
「うん。でもリンク、心当たりが全く無くて」
「厄介だね……。その辺にありそうなもんだけど」


唸るマルスに、ミコトも不安な様子を見せる。
やがて広間にやって来た6人は、すぐ中央のテーブル付近が騒がしくなっているのに気付く。
近寄れば、フォックスが何やらカービィの背中をべしべし叩いていた。


「フォックスさん、イジメはダメですよ」
「いや、違うぞミコト! カービィがオレのブラスターを飲み込んじまってさ……」


ブラスターと言えばフォックス愛用の銃だ。
なるほど、カービィもコピーにならず特に美味しくもない物を吐き出そうとしているが、引っ掛かっているようでなかなか出ない。
カービィの体内のドコに引っ掛かる要素があるのかは一切不明なのだが。
そこでふとマルスはある事を思い付き、壁際に立てかけてあったゴールデンハンマー……のレプリカを手にする。


「マルス?」
「カービィ、先に謝る。ごめん、何というか……ごめんね、ホントにゴメン!」
「ぽよ?」


フォックスを退かせ、マルスはゴールデンハンマー……のレプリカを振りかざし、カービィの背中を力任せにぶっ叩いた。


「ぶぇっ!!」
「マルスーっ!!」


驚いたミコトが叫び終わらぬ内に、飛び出たブラスターが絨毯の上をおもちゃのように跳ねて行く。
フォックスはすぐさま駆け寄ってブラスターを己の所有に戻した。


「ありがとうマルス、このまま出なかったらどうしようかと思った」
「あー……。うん、どういたしましてフォックス」
「もしかしてマルス、カービィが指輪も一緒に飲み込んでるんじゃないかって予想してたの?」


成功したのに微妙な反応をするマルスに、ミコトはそう予想を立てた。
案の定だったようで、違ったよ……と乾いた笑い。
そんなやり取りに、フォックスとカービィがきょとんとミコトを見る。


「指輪って?」
「ミコトが婚約指輪を失くしたんだってよ」
「俺達も指輪探しを手伝ってる最中だったんだ」


カービィの質問に答えたマリオとリンクは どことなく意地悪そうだ。
やはりマルス達と同じように、ショックを与える為にわざと言ったらしい。
カービィはともかく、婚約指輪、と聞いたフォックスがぴたりと固まった。


「(フォックスもショックなのか……今夜は失恋男で集まって飲み会だね)」


マルスは心中ではらはらと泣きながら、それでも片思いの最後にミコトの門出を手伝うつもりだ。
カービィとフォックスに指輪の特徴を話し、どこかで見なかったかと訊ねる彼女を見つつ、誓う。

するとカービィが。


「そんな指輪なら見たよ」
「えっ!? どこで……」
「あそこ」


カービィの指差す先にはフォックスの姿が。
一瞬呆然とした後に立てた手を振り、違う違うと無言のまま主張する。


「ななな、何だよ、断じてオレは何もしてな……」
「フォックス、そのブラスター確認してみて」


何かに気付いたらしいマルスの言葉に、フォックスが改めてブラスターを見る。
よく見るとブラスターに細い紐のような物が絡まっていて、辿って行くと指輪に通されていた。


「あ、そ、それ!」
「やっぱりカービィが飲み込んでたんだね、僕の読みが外れてなくて良かったよ」
「と言うか、駄目じゃないかカービィ!」


ミコトを困らせて、とカービィを叱るリンクや他の面々。
どうやら彼女が首に提げていた指輪を外して置いた時、他の物と一緒に飲み込んでしまったらしい。
フォックスからマルス経由で指輪を受け取ったミコトは、叱られてシュンと落ち込むカービィに近寄り、慰めてあげる。


「もういいのよカービィ。大事な指輪をきちんと管理してなかった私が悪いんだから」
「ごめんなさい……」
「しかし、まさかミコトが婚約していたとはな」


話題を変えて気になっていた事を口にするアイク。
それは他の面々も当然の如く気になっていて、相手はどんな奴かと訊ねる。
するとミコトはきょとんとした後、何かを考えてからクスクス笑い出す。


「やだ、違う違う。これはお母さんがお父さんから貰った婚約指輪で、私がお母さんに貰ったの。私が誰かと婚約して、貰った訳じゃないわ」
「……えっ」


そうだ。ミコトは指輪に紐を通し首から提げていたと言っていたが、婚約者から貰った婚約指輪を指に付けないのは変だ。
つまりそれはミコトが婚約した訳ではないという事の証で……。

力が抜けた男達は、その場にへたり込んだ……。


++++++


その日の夕方、辺りが落ち着いたのを見計らい、マルスはミコトの部屋を訪ねてみた。


「ミコト、指輪が見つかって良かったね」
「うん。そう言えばマルスが見つけてくれたようなものね。本当にありがとう、大事な両親の形見だから……」
「そうだね。……まぁ僕は何より、ミコトが婚約した訳じゃないと分かってホッとしたけど」
「えっ」


マルスは微妙に目を逸らして頬を染めていた。
それが本気の度合いを表しているようで、ミコトも恥ずかしくなって来る。


「いつか、さ。君に僕から婚約指輪を贈れるようになってみせるよ。それまで待っていてくれる?」


今すぐ贈る、と言えないのは悔しい限りだが、誠意ある手順という物がある。
ミコトを本気で好きだからこそ ちゃんとした付き合いをしたかった。
そんな気持ちが伝わったのだろう。
ミコトも微妙に頬を染め、恥ずかしそうに微笑んで答えた。


「……うん、待ってる」
「ありがとう。大好きだからね、ミコト」


約束する。

君に、君自身の、君だけの婚約指輪を贈るよ。





*END*



戻る
- ナノ -