短編夢小説
小春日和



主人公設定:強気少女
その他設定:スマブラ



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12月に入ったスマブラ界だが、今日はぽかぽかと暖かい陽気だ。
まるで冬が明けたと紛う程の気候に、広間へ向かっていたロイは思わず大きなあくびをする。
眠たい目をこすって広間の扉を開けるが、室内はシンと静まり返っていた。


「あれっ、みんな出掛けちまったみたいだな。まぁ今日はノンビリするか」


すっかり気が抜けて背伸びをし、ソファーに座ろうと歩いて行く。
……すると、窓からの日差しに照らされたソファーに誰かが寝ているのを見つけた。
日なたぼっこをしていて眠ってしまったのであろうその人物は。


「ミコトか……」


すやすやと寝息を立てる彼女の隣に座り、彼女もしていた(と思われる)ように日なたぼっこに興じる。
ちらりと視線を送ってみるが、ミコトが目覚める気配は無かった。


「グッスリ寝ちまって……可愛いな、ミコト」


優しい日差しに照らされるミコトの頬を軽く撫でてやると、一瞬反応を見せるが目覚めない。
何だか面白くなって何度も彼女を撫でるロイ。
調子に乗り、薄い紅色に染まる頬を両手で包んだ。

このまま顔を近付ければ口付けは容易い。
本当にやりたくなって、ロイは辺りを確認した。


「……誰も居ないな。よし、邪魔が入りませんように」


半分ふざけて祈りつつ、眠れる日だまりの姫にそっと口付けるロイ。
本当に軽く触れる程度だったからか、やはり彼女は目覚めない。
更に調子に乗りたくなったが、さすがにそれはやめておいた。
満足してミコトを放し、ロイはまた気を抜いて小春日和を満喫する。
うとうと微睡みに入り、やがて彼も眠りに就いた。

微妙に目覚めているような不思議な感覚。
眠っているハズなのに、確かに隣で誰かが動いているのが分かる。

……そして次の瞬間、唇に柔らかい感触がして、ロイは飛び起きた。


「!?」
「あ、起こした? 取りあえずお早う、ロイ」


目の前には、にこやかな笑顔を見せるミコト。
あぁ、お早うと言葉を返すが、それより今の感触が気になって仕方ない。
恐る恐る、といった感じにロイは訊ねてみた。


「な、なぁミコト。お前さ……今……」
「ふふ、ご馳走様」
「!!」


つい今さっき自分もした事なのに、やり返された事に慌てるロイ。
あたふたするロイが楽しくて、ミコトは追い討ちをかけてみる。


「お返しだよ、さっきやってくれたじゃない」
「起きてたのか!?」
「うん」


笑顔でアッサリ言ってのけるミコトに、ロイは参ったと手で目を覆った。
そのまま苦笑して、あー……と唸り脱力する。
負けた、完敗だ。


「ったく、寝たフリなんかするなよなー。あー、やられたよマジで」
「ロイが変なイタズラするから、きっとバチが当たったのよ」
「いや、こんなバチなら大歓迎だけど」


冗談とも本気ともつかぬ事をロイは笑って言う。
イタズラとは言えミコトも決して嫌ではない。
と言うかむしろ、こんな事をお茶目に行うロイが大好きだった。

ぽかぽかと暖かい陽気に誘われて、のどかで穏やかな気分になる。
ミコトは隣に座るロイの肩に頭を乗せた。
ロイは何事かと思ったのだが、特に何かある訳ではなく、ただ寄り添いたいだけだと理解する。
しばらくはミコトの好きなようにさせていたが、ふと、半分眠りかけている彼女に語りかけた。


「いーい天気だな」
「うん……」


眠りかけているミコトはロイの言葉に、何となくで返事している。
それに気付いたロイは、また何かイタズラを思いついたらしい。
軽く笑って、ほぼ眠りかけのミコトに構わず次々と話しかけた。


「暖かいな」
「うん……」
「ずっとこうしてたいな」
「うん……」
「腹減ったな」
「……うん……」
「オレのこと好き?」
「……」


あれっ、と、返事の無いミコトを訝しむロイ。
黙っていると規則正しい小さな寝息が聴こえる。
どうやらいいタイミングで眠りに就いたようだ。
ロイにとっては最悪のタイミングで、またやられたと言いたげに脱力する。

ずるりとソファーに座ったまま体をずらすと、肩に乗っていたミコトの頭が落ちた。
柔らかなソファーに頭が落ち、その軽い衝撃を感じて目覚めるミコト。


「……?」
「起きようぜ、そろそろ昼飯だ。みんなも帰って来る頃だと思うよ」
「あぁ、もうそんな時間なんだ……それにしても暖かいね、12月だなんて思えないよ」


ちょっとボーっとしていれば睡魔に誘われる。
ミコトはその誘惑を、頭を振って乗り切った。

窓から入り込む日差しは相変わらず、優しい暖かさで降り注ぐ。
2人っきりの静かな広間に、それは光り輝くカーテンのようだった。


「この分だと、午後はまたいい陽気になるよな。一緒に外に行かねえ?」
「いいね、でもお昼ゴハン済ませてからね。私、寝坊して朝ゴハン食べそこねちゃったのよ」
「ミコトもだったのか、オレも食いそびれた」


言って笑った瞬間、どちらのものか腹の虫が鳴って、また笑いが起きる。
お腹空いたー、と言って勢い良くソファーから立ち上がるミコト。
歩きながら、後ろからついて来るロイに話し掛けた。
振り返る事なく、だがしっかり心を込めて。


「好きよ」
「へっ?」
「さっきの質問の答え」


ミコトが何の事を言っているのか分からなかったが、少し記憶を辿るとすぐに思い出した。


「お前……まさか、また起きてたのかよ!?」


その質問には答えず、笑いながら、そろそろ帰城するハズの仲間達を出迎えに駆け出すミコト。
おい! と声を掛けながら追いかけるロイの背後には、優しい小春日和の日差しが輝いていた。





*END*



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