短編夢小説
ポケモンGETだぜ!



主人公設定:アイクの姉。近親愛
その他設定:スマブラ。アイク落ち



++++++



スマブラファイターが暮らすピーチ城の廊下をピカチュウが歩いていた。
どことなくファイターの彼とは違う感じだ。
色が微妙に薄く、まつげがひとたば控え目に伸びて、尻尾の先が少し丸みを帯びている。
そのピカチュウは広間の扉の前まで来て、疲れたような溜め息を吐いた。


「あぁ、どうしよう。今あたしがミコトだって言っても、きっと誰も信じてくれないよ……」


キッカケは些細な事。
ちょっとした用事でDr.マリオを訪ねたミコトは、彼から小さなアメ玉のような薬を渡された。


「なに、これ」
「ソレは期待の新薬だ。薬というよりはむしろ、パーティーグッズみたいな」
「……薬でパーティーって何か、違う薬が浮かぶ」
「こらミコト、不謹慎だぞ。ヤバいものじゃないから安心しろ」


ミコトも別に不安だった訳ではなく、どんな効果があるのか興味津々だ。
Dr.マリオもスマブラファイターの仲間だから信頼しているし、ちょっと効能を試すぐらいなら何という事も無い。
ミコトは水を受け取り、小指の爪ほどしかない小さなアメ玉のような薬を飲み込んだ。


「まさかポケモンになる薬だなんて、ドクターって地味に天才よね!」


半ばヤケになりながら明るく言って、すぐにまた沈み溜め息を吐く。
だが、いつまでもこうしてはいられない。
うだうだ悩むよりは周りの反応に対応している方がずっと実になる。
ミコトは深呼吸をし、扉に飛び付いて開けた。
開いた瞬間にこちらを見たファイター達が驚いた顔をして、室内のテーブルに居るピカチュウと入り口にいるピカチュウを交互に見比べる。


「あ、あれ? なんでピカチュウが二人も?」
「なに言ってるんだよマルス……ピカチュウならテーブルに居るじゃないか」
「でもあの子もピカチュウですけど、まさか新しいファイターですかね?」


マルス・リンク・ピットの会話に微妙な顔をしてしまうミコト。
ひとまず堂々と広間の中央へ歩いて行き、ソファーにちょこんと座る。
その隣にはアイクが座っていて、少し目を見開いてミコトを見ていた。


「……アイク青年、まさかお姉ちゃんの事を忘れちゃったのかい?」
「……! 姉貴!?」
「えぇぇーっ!!?」


信じがたいやりとりに周りのファイターが叫び、アイクはピカチュウの姿をしたミコトをまじまじと見つめている。
何だか自分が周りを振り回している事に気分が良くなったミコトは、召使いのキノピオが持って来たグリーン・ティーを飲み、ほっと落ち着いた。
取りあえず、経緯を話す。


「ってな訳で、元に戻る方法は今のところ、時間の経過しかないって。戻す薬は開発中。取りあえず今のままじゃ闇魔法も使えないから、護身の為にピカチュウの戦い方を教えて欲しいんだけど」
「……」
「おーい、起きてますかピカチュウくん」


微妙に頬を朱に染めたピカチュウは、何も言わずにジッとミコトを見つめたままだ。
ようやく絞り出した一言は実にストレートで、ピカチュウが男だと思い出させてくれる内容だった。


「か、可愛い……。こんな可愛いピカチュウ、ボク見た事ないよ……」
「えっ」
「どうやら今のミコトは、ピカチュウ族の中でかなりの美少女らしいな」


マリオが可笑しそうに言うと、ミコトも照れくさくなったのか微笑みながら恥ずかしげにする。
ピカチュウの姿とは言え姉が他の男と良い感じになるのがアイクは面白くない。


「じゃ、ピカチュウくん。あたしにピカチュウの戦い方を教えてくれるかな?」
「いいともー! もうジャンジャン訊いちゃって、何でも教えちゃう!」


ピカチュウも男だったらしい。可愛い子に対しては実に対応が違う。
そんな態度に楽しくなって微笑んだミコトを、近くに居たフォックスが楽しそうに抱き上げた。
抱え込み、ふわふわした毛並みを優しく撫でる。


「普通のピカチュウとは違うよな。可愛いよ、なかなか見ない感じだし」
「なんか照れるなぁ。てかフォックス、くすぐったいからやめてよー」


きゃっきゃと笑いながら、端から見ればイチャイチャしているように見える二人の行動。
つまり今ならピカチュウの姿であるミコトに触りまくっても絶対に怒られたりはしないハズ。
いい事に気付いたとばかりに、男性陣がこぞってミコトにすり寄った。
それをアイクは止めて彼女を元に戻そうとするものの、すぐに阻まれる。


「おいお前ら、姉貴を元に戻すから離れろ! そんなにベタベタ触るな!」
「戻すって、時間の経過以外に方法は……」
「じゃあ姉貴が戻るまで、俺が保護してやる」


アイクはミコトを掴もうと手を伸ばすが、それより先にピットがフォックスから彼女を奪った。
素早く広間の入り口の方へ飛び去る彼を、アイクは凄い剣幕で怒鳴る。


「おいピット!」
「い、いいじゃないですか滅多に無い機会だし! ねぇミコトさん、暫くピカチュウの姿で居て下さい」
「うーん、確かにいつ戻るか分からないし、それまではピカチュウ生活を楽しみたいか」


そこまで言った所で、猛烈な勢いで駆けて来たマルスがピットの腕に抱かれていたミコトを奪う。
他のファイターが唖然としている間に、叫びながら広間から出て行った。


「君達みたいな何考えてるか分かりゃしない男達にミコトは渡せないね!」
「何考えてるか分からないのはお前も一緒だろ!」


突っ込みを無視してマルスは外の方へ向かい、それをアイク・リンク・ピットの三人が追う。
残されたファイター達は呆然として、誰もが思っている心配事をルイージとメタナイトが代弁した。


「彼らさぁ、まさかピカチュウの姿のミコトにまで妙な手出ししないよね」
「分からないな、あの4人ならやりかねん……」


凄く、心配だ。



ミコトを抱いたまま逃げるマルスと、それを追うアイクたち三人。
後ろから迫るリンクに追いつかれそうになったマルスは、懐から何かを取り出しリンクへ投げた。
至近距離だった為、避けられずに胸元にそれが貼り付いてしまったリンク。
ちかちか光るピンクの球体が包まれた、ガムみたいなこれは、まさか……。


「ってチューインボム!」
「うわわわ、リンク先輩こっちに来ないで下さい!」


一定時間で爆発するボム。
リンクはアイクかピットになすり付けようと、マルスをほったらかして二人を追い回す。


「悪いアイク!」
「な!? ピット、早くこっちに来い!」
「イヤに決まってるじゃないですかあぁぁ!!」


もう大パニックで、アイクになすり付けられたボムが今にも爆発しようとした瞬間、逃げていたピットが滑って尻餅をつく。
ハッとしたのも遅く、背後から鬼のような顔をしたアイクが駆けて来て……。
爆発寸前でチューインボムをなすり付けられたピットは、哀れ派手に吹っ飛んでしまったのだった。
それを見ていたミコトは苦笑も出来ずに、呆れた声で逃げるマルスと話す。


「何やってんの……」
「ミコトさんを奴らの毒牙に掛からせてしまっては、未来の夫として面目が立ちません!」
「それはそれは、まぁ一方通行な事で」
「そんな意地悪を言わないで下さいよ」
「姉貴とイチャつくなマルスっ!!」


上記の会話がイチャイチャしているように聞こえたのだろうか、アイクは猛烈な勢いで向かって来る。
その背後にはリンクで、マルスは覚悟を決め、二人を相手にする事にした。

マルスは前方からかかって来る二人を纏めて吹っ飛ばそうと剣を振るうが、大変な事に気付く。
もう剣を振りかぶった腕は止められず、その切っ先にはアイク……が手にしていたスマートボム。
衝撃を受けたスマートボムは、四人全員を巻き込んで爆発したのだった……。

ボロボロになりつつ地面に突っ伏した四人、そのままの状態でミコトは震える声を絞り出す。


「な、何すんじゃあ、このあんぽんたん」
「死なば……もろともだ。分かるだろ姉貴」
「心中なんざしたくないんですけど……あたしは」
「姉貴と心中……それもまた、ふ、ふふ、ふ」
「もうヤだキモいコイツなに」
「お前の弟」


最後のツッコミはリンク。
ミコト、マルス、リンクが倒れ伏す中、一人起き上がったアイクは、すぐさまピカチュウの姿をした姉を抱き上げる。
念のためにマルスとリンクを一回ずつ踏みつけてから、勝ち誇った笑みで部屋へ戻って行った。


「取り敢えず姉貴は、元に戻るまで俺と一緒に行動する事だ。もちろん、風呂も寝るのも一緒だぞ」
「……まぁ、別に構いやしないけどね。今あたしはピカチュウの姿な訳だし」
「一緒に風呂入ってる時か一緒に寝てる時に姉貴が元に戻るように一緒に風呂入ってる時か一緒に寝てる時に姉貴が元に戻るように一緒に風呂入ってる時か一緒に寝てる時に姉貴が元に戻るように……」
「やっぱヤダあぁ!!」


どれだけ抵抗しても、ピカチュウの姿では力が敵うハズも無く。
と言うかその前に、元の姿でもアイクには敵わない。

その後ミコトがどれくらい経って、そもそもどんな状況の時に元に戻ったのかは全く不明だが、
顔を赤くしたり青くしたり忙しそうなミコトと、対照的にご機嫌なアイクを確認できれば、おおよその察しはつくというものである……。





*ご愁傷様END*



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