短編夢小説
同窓再び



主人公設定:−−−−−
その他設定:−−−−−



++++++



思いがけない再会にヒュウは複雑な顔をしていた。
いや、彼女が出て行く時に放った言葉を信じれば、いつかはこんな日が来ると予想は出来たが。
得意気な表情を浮かべる馬上の女性は、ヒュウに似た紫の髪をしている。

彼女の名はミコト……。
ヒュウの父であるカナスの兄の子で、つまりはヒュウの従姉妹。
昔カナスの兄の妻は、闇魔法に耐え切れず精神に異常をきたしたため、ミコトを連れて別居していた状態だった。
だが結局、精神は良くならず自殺してしまう。
その後、ミコトは祖母ニイメの元を訪ねヒュウとも共に暮らしていたが、山の隠者と呼ばれたニイメの孫だというのに闇魔法の才能どころか魔力すら持っていなかったミコト。
十四歳になったある日、騎士か傭兵になると言って出て行ってしまった。


「久し振り、もう十年ぐらい会ってないわね。どう? 今の私。騎士にはなれなかったけど傭兵になったのよ。私の噂、聞いた事あるんじゃない?」
「あぁ、いや、ミコトって名の紫の髪した傭兵の噂は聞いてたが、まさかお前の事だなんて微塵も思ってねぇよ……はは……」


もちろん嘘だ。
ミコトという名の傭兵の噂を聞くたび、ずっと彼女を思い浮かべていた。
立派なパラディンになったミコトを未だに呆然と見ているヒュウは、取り敢えず敵対せずに同じ軍で働ける事に安心した。


「ロイ様に雇われて随分と活躍したのよ。これからヒュウにも見せたいわ、私の華麗なる活躍を!」
「……」
「……ちょっとヒュウ、私の話、聞いてるの?」


ヒュウは相変わらず呆然としているだけで、ミコトの言葉に反応しない。
どうかしたのかと、馬から下りたミコトが近寄ったのを皮切りに、弾かれたように走り去る。
残されたミコトは代わりのように呆然としていたが、何よあれ、と言いたげに顔を顰め、ヒュウの後を追って行った。


++++++


「あーっ、畜生、おれって情けねぇなぁ……」


ミコトから離れた駐屯地の天幕の側、ヒュウは盛大に溜め息を吐きながらガックリ座り込んだ。
闇魔法の習得を諦めて理魔法を選んだ、それ自体は恥じる事も無いしお互い様だが、なぜか後ろめたくてマトモに接せない。
何となく疲れた様子で魔道書を担ぐように持ち、自身の肩をトントンと叩いた時だった。


「見ーっけ!」
「うおっ!」
「あはははは、ヒュウの逃げ先なんて私にはお見通しなんだからね」


背後からミコトが現れ、お茶目に脅かしてから隣に座り込んだ。
こうやって側に寄るのも久し振りで、繋がりを感じられて嬉しく思う。
ふとミコトは、ヒュウにイタズラっぽく訊ねてみる。


「ヒュウ、私が綺麗になったから驚いて、上手く接せないんでしょ?」
「は、はぁ!? んな訳ねぇだろ。第一、見ただけじゃお前だって事さえ気付いてなかったっつーの」
「あれ? それ何だか、あまりに綺麗になってて気付かなかったって、遠回しに言ってる気がする」


口じゃ勝てない。クスクス笑うミコトに、ヒュウは降参したと言いたげ。
だがミコトが綺麗な大人の女になっていて驚いたのもヒュウの事実。
そしてミコトも、ヒュウが大人の男になっていて、見た時は驚いた。

しかし、やはり中身はそうそう変わらないようだ。
二人で話しているとそれを強く実感する事が出来てお互いに嬉しくなる。
闇魔法の最高位たる女性の孫でありながら、闇の素質を継がなかった二人は弱点も似ていた。


「あははは、やっぱりお婆ちゃんは相変わらずスパルタなのね」
「おれはな、お前がおれを置いて逃げたと思って泣いたんだぜ。一人でオニババアの餌食になって死ぬかと思ったっての!」
「私だって、傭兵団に入らず一人で戦場を渡り歩いてたから、苦労ならそれなりにしてるよ」
「……そうだな。家で色々やってたおれよりも、戦場渡り歩いてたミコトの方が苦労してるよな」
「ヒュウって、相変わらずお人好しよねぇ」
「何だよそれ……」


久し振りの会話を堪能していると、ふとミコトが真剣な表情になって、ヒュウを見つめた。
思わずドキリとしたヒュウが目を逸らす前に、言いたかった事を告げる。


「お母さんは闇魔法に耐えられず、精神に異常をきたしたから……。私はそうならないよう精神面も集中して鍛えたわ」
「ん? でもミコト、お前早いうちから闇魔法を諦めてたじゃないか」
「ヒュウが使う闇魔法に負けないようにしたかったの。でも結局、あなたは理魔法にしたみたいだけど」


こいつ、前は“あなた”なんて使わなかったよなぁと、ヒュウは妙な部分の変化に感心する。
ミコトは、闇使いになったヒュウと再会した時の事を危惧していた。
熟練する前の、抑える術が完璧に出来ない彼の側に居ては自分も母のようになるのではないかと。
両親はそれが原因で別居・死別となったのだから、自分は何としてでもそれを避けたかった。


「私、次にヒュウと再会した時は、あなたに好い人でも居ない限り、側に居たいと思ったの。今まで離れてた分の埋め合わせも兼ねてね」
「……別に、好きなヤツなんて居ねえよ」
「やっぱりねぇ」
「やっぱりって何だよ、やっぱりって!」


やはり、中身まではそうそう変わったりしない。
昔のような調子に戻った二人は、たわいない事を言って笑い合う。
ヒュウの側に居たい、そう願って己を鍛え続けたミコトの行動も、戦争中の再会で無駄にはならなかったようだ。


「じゃあ、戦場ではパラディンの私が前衛になるから、ヒュウは後衛から魔法で援護してね」
「な、何か情けねぇ……」
「戦略として当たり前なんだから、つべこべ文句言う必要も恥じる必要も全く無いわよ!」


久々の再会を果たした二人は、戦場でも名コンビぶりを発揮し大いに活躍したそうだ。





*END*



戻る
- ナノ -