短編夢小説
rainy world



主人公設定:医療少女
その他設定:スマブラ



++++++



「止まないなぁ……雨」


スマブラ界、とある街。
もう7月に入ったと言うのに、遅れて来た梅雨が明ける気配が無い。
朝は晴れていたから出掛けて来たミコトだが、帰る頃になって雨が降って来た。

バス停までは遠いしタクシーもなかなか通らない。
この雨では自分も買った服もずぶ濡れになってしまう。
全く止む気配の無い雨に怒りさえ覚えそうだ。
もう電話をかけて城から迎えに来て貰おうかと思った矢先、誰かがミコトに声を掛ける。


「ミコト……?」
「? ……ロイ!」


ロイだった。
普通に傘をさして、道端に突っ立っている。
そういえば彼はミコトよりも先に出かけていて、思い出せば行き先は同じ街だった。


「何やってんだよ……。あ、まさか傘が無くて帰れないとか?」
「あはは、まさにビンゴ……」


苦笑いするミコトに、入れよと傘を差し出すロイ。
ミコトは喜び勇んで彼と同じ傘に入った。
そのまま一緒にバス停までの道を歩く。
人もまばらで雨によって視界が効かない為、2人っきりのように思えてきた。


「ほんと、いつになったら止むんだろうね」
「別にまだ降っててもいいけどな。ミコトと相合い傘出来るしさ」
「もう、急に何を言い出すの」


少し照れてしまい苦笑しながら言い返す。
ふとそこでミコトは、ロイの右肩が傘からはみ出ている事に気付く。
一本の傘に2人も入ればいっぱいになってしまう。
しかしロイは傘をミコトの方へ傾け、彼女を完全に傘の中に入れていた。
ロイの右肩はびしょ濡れになってしまっている。


「ねぇロイ、傘もうちょっとそっちにやりなよ」
「ミコトが濡れるだろ」
「ロイが濡れてる」
「オレはいいんだよ」


ロイは頑なに傘を動かそうとはしない。
ミコトはやれやれと溜め息をついて諦めた。

いつもこうだ。
ロイはミコトの事になると普段以上に頑固になる。
自分の為にやってくれているのは分かるが、何だか与えられっぱなしで心苦しくなってしまう。

更に歩いてバス停が見えて来た。
後は横断歩道を渡り、もう1つ横断歩道を渡って少し歩くだけ。
そろそろバスが来そうな時間帯で、のんびりしていると1本乗り遅れてしまいそうだ。
別に次のバスに乗ればいいのだが雨の中あまり待ちたくない。
早く帰りたくて2人は小走りでバス停を目指した。
信号が青になり、横断歩道を渡る。


瞬間、激しいブレーキの音が聞こえた。


「あ……」
「っ!?」


信号無視の車が2人目掛けて突っ込んで来た。
ロイはとっさにミコトを突き飛ばす。
ミコトはよろけて車の範囲から外れるが、ロイはその場から動く暇がない。


「ロイっ!!」


恐怖に叫んだミコトの目の前で……。



ハンドルを切ってロイの横を通り過ぎた車が、水たまりの水を盛大にロイにひっかけて行った……。


++++++


「ちくしょー、あの車っ! 信号無視した上に水ひっかけて行くとか喧嘩売ってんのかよ!?」


横断歩道から離れた建物の下に避難した2人。
バスにはすっかり乗り遅れてしまった。
頭からびしょ濡れになってしまったロイは、大層ご立腹のようだ……。

ミコトは苦笑しながらホッとして喜ぶ。
もし車が避けなかったらと考えると恐ろしい。
ミコトは必死な想いでロイに縋りつく。


「助けてくれて有難う。でも、もう無茶なんかしないで。ロイに何かあったりしたら、わたし……」
「ミコト……」


ロイは泣きそうな顔をするミコトを、そっと抱き締め……ようと手を延ばしたのだが……。
今ロイは頭からびしょ濡れだ。
ミコトの背に回そうとして途中で止まった手は、引っ込みがつかなくなってそのまま。
ミコトはそんなロイの手を不思議に思う。


「ロイ? 何、この手」
「あ、いや、えっと……」


かなり格好悪い。
しかし先程突き飛ばした時に傘から出た為に、ミコトも雨に濡れてしまっている事に気付く。
もうヤケになったロイは、悪いと思いながらもびしょ濡れのままミコトを抱き締めてしまう。


「わっ! ちょ、ちょっとロイっ」


突然抱き締められて慌てるミコトだが、ロイは離そうとしない。
周りに人は居ないものの照れくさくてしょうがない。
絶対にお前を置いて死んだりしないからと、顔は見えないながら真剣な口調が聞こえて来る。
ロイの誠実な言葉にミコトは嬉しくなってロイを抱き締め返した。


「わかった。約束ね」
「おう。つーか死ぬわけないって。お前と結婚してオレ達の子供に囲まれながら何十年も過ごして、更にオレ達の孫から“歳を取ったらお祖父ちゃんとお祖母ちゃんみたいな夫婦になりたい”って言われるのがオレの予定だからな」
「なにその幸せ家族計画!」


ロイの幸せたっぷりな未来予想図に、ミコトは笑いながら突っ込む。
しかし本当にそうなって欲しいとも思った。
そう言えば頭から水たまりの水を被ってしまったロイはびしょ濡れ。
このままでは体が冷えて風邪を引いてしまう。
タオルが無いかと持ち物を探るが、ハンカチぐらいしか持っていない。


「どうしよう、何か拭くものないかな…」
「いいよ別に。それよりミコトが風邪引くって。何か拭くもの……。俺の服で拭くか? あ、一応言うけどシャレじゃねぇからな……ってミコト?」
「……」


そこでミコトは思いつく。
拭くものならある。
ミコトは買ったばかりの服を取り出し、ロイの頭にかけて拭き始めた。


「お、おいミコト! それ買ったばっかの服だろ!」
「いいからじっとして」


さっきの傘の事といい、彼から与えられっぱなしだったミコト。
これでちょっとはお返しが出来ると、惜しむ事なく買ったばかりの服をタオル代わりにしていた。


「……悪いな、有難う。お前もちゃんと拭かないと、風邪引くぞ」
「うん」
「ま、風邪引いてオレに付きっきりで看病してほしいんなら別にいいけど」
「もう、すぐそんな事言うんだから」


言いながら2人、顔を見合わせて笑う。

その後、建物の下で雨宿りしながら次のバスを待っている2人。
何となく無言のまま。
不意にロイが口を開いた。


「なぁさっきオレが「お前と結婚して……」とか言った時に、お前……何にも否定しなかっただろ」
「え?」
「それでいいのか?」


期待と不安の入り混じった質問。
いいのかと訊かれても、ここですぐに返事するべきか迷ってしまう。
……しかし確かに先程、自分はそれでもいいと思ったはずだ。
ならばそう伝えるべきだろう。


「……うん、いいよ」
「マジでっ……!? うわ、凄ぇ嬉しい!!」


ロイは大喜びでもう一度ミコトを抱き締める。
降り続ける雨はまだ、止みそうにない。





*END*



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