短編夢小説
未来を懸けた鬼ごっこ



主人公設定:ミルラの姉
その他設定:−−−−−



++++++



「ミコト!」


行軍中の一時の安らぎを満喫していたミコトの元に、エイリークが慌ただしくやって来た。
何事かと訊ねるミコトに彼女は、逃げて下さいと告げる。
ミコトがエイリークの必死さをぽかんと見ていると、彼女の後ろから凄まじい砂煙が上がっているのが見えた。
あれは……まさか。


「ミコト!!」


ルネス王子と!
フレリア王子の!

プロポーズ大決戦!!
(子供番組風に)


++++++


「姉様、お水です」
「あ、ありがとうミルラ……」


荒い息を吐きながら水を受け取るミコト。
体力のある(有り余っている)男2人から逃げるのは容易ではない。
あまり竜の姿になるのを好まないミコトが、いっそのこと竜になって飛んで行くなり、ちょっと2人に痛い目を見て貰うなりするのを考える程に。


「エフラム達は、姉様の事がだいすきなんですね」
「私も好きよ? ああやって毎日追いかけ回したり、公衆の面前でプロポーズ大会開催しなきゃね」


そう、ミコトはルネス王国の王子エフラムとフレリア王国の王子ヒーニアスに、毎日のようにプロポーズされ追いかけ回されている。
落ちついてと告げても効果など無く、周りの者に2人の暴走王子を止められる者も居ない。


「さて、休憩もしたし行かなきゃね」
「まだ追いかけられているのですか?」
「うん……。さて、誰に匿って貰おうかな……」


ミルラに別れを告げ走り去るミコト。
ちなみに彼女が居なくなった後、エフラムとヒーニアスがミルラの元へ辿り着いた……。


++++++


逃げた先にルネスの将軍ゼトと騎士フランツが居るのが見えた。
慌てて駆けて来るミコトに気付き、2人は怪訝な表情をする。


「将軍、あれはミコトさんですよね。必死に走って来ますが」
「そうだな。ミコト殿、どうされた?」
「匿って下さーい!」


ミコトは迷わず一番手前に居たフランツの後ろに隠れ込んだ。
馬も大きいからバッチリだ!
密かに憧れていたミコトに密着され、フランツは真っ赤になって慌てる。


「エフラムとヒーニアスが来たら、上手く追い払ってね! お願い!」
「えっ!?」


まさかそんな事まで頼まれるなんて思ってもいなかったフランツ。
いくらミコトの為とは言え、主君や世話になった国の王子に逆らえるだろうか?
いや、そんな事できる訳がない。
フランツはゼトに助けを求めるが……。


「……よかったなフランツ。ミコト殿に頼られて」
「……あの、将軍……」


彼は笑っているのだが、心は少しも笑っていない。
おそらく。
将軍の嫉妬が恐ろしい物だと知ったフランツに、これからやって来る王子sへの対応を考える余裕など無かった……。


++++++


結局、王子sの顔を見た瞬間フランツを見捨てて逃げるという形振り構わないとっても酷い行動を取ったミコトは、更に逃げて魔道士達が居る所へやって来た。
人が沢山いて何だか安心できる。
初めに声をかけてきたのはサレフで、周りに居た者達もミコトを振り返った。
エフラムとヒーニアスに追われている事を伝えると、ルーテが口を開く。


「動物が追い掛ける対象は主に補食する獲物か縄張り争いの相手です。しかし縄張り争いの相手を深追いする例はあまりありませんから、おそらく貴女を前者と見ての行動でしょう」
「ルーテさん……。王子達はミコトさんを食べる気なんですか?」
「おそらくは」


呆れ顔のアスレイに真顔で返すルーテ。
それを見たユアンは楽しそうに、ある意味食べる気だと思うよーと笑った。
そうだねー、と思わずのん気な雰囲気に飲まれかけたミコトだったが、瞬時に思い直して逃げる体勢を整える。


「サレフ、2人が来たら止めて! お願い!」
「承知しました」
「……やめた方がいいと思いますよ」


突然、今まで黙っていたノールが口を開いた。
全員が彼を見る。


「ヒーニアス王子は分かりませんが……エフラム王子の事はリオン様から聞いた事があります」
「え、何? どんなの?」


ユアンが問い掛けるが、ノールは迷っているようで黙り込んで喋らない。
不安になったミコトが声を掛けると、自分の口からは言えない、ただ彼にあまり対峙するのはやめた方がいい、それだけしか言えないらしく、また黙り込んでしまう。
エフラムはどれだけ恐ろしいのだろう。
ミコトは俄然興味が湧いたが、そんな事を試せば自分の身が危険だ。
とにかくお願い、何とかして! と頼むと、彼らは快く頷いてくれる。


「やってみます」
「ミコトさんの頼みですしお手伝いしましょう。ルーテさんも協力して下さい」
「当然です、アスレイ。ミコトを追い掛ける2人の行動原理が私も気になります。放ってはおけません」
「ミコトさん、狼さんに気をつけてね〜」


後を魔法一同に任せ、ミコトは再び逃げた。


++++++


「あれは……誰かに追われてるのか?」
「えっ?」


上空に見回りから帰って来たターナとクーガーが居た。
見ればミコトが必死に走っていて、となれば、既に軍内では恒例になっている王子達との追いかけっこだろう。


「もう、エフラムもお兄さまも懲りないんだから」
「乗せてやるか」


呆れ顔のターナと心配そうなクーガー。
2人はミコトの元まで降りて行く。


「ミコト」
「わっ!? ……あぁ、ターナとクーガーか……」
「乗れ。あの2人が相手だと、日が暮れるまで追い掛け回されるぞ」
「ありがとう……でも」
「どうしたの?」


ヒーニアスは飛行ユニットの天敵・弓使い。
ターナは大丈夫だが、クーガーはヒーニアスに撃ち落とされかねない……。
なら私が乗せてあげると申し出るターナ。
クーガーが少し残念そうにしていたのは内緒だ。
ミコトはターナのペガサスに乗ろうとしたが。


「ミコト!!」


ちょうどミコトにとって不吉な王子sの声が聞こえた。
瞬間、ミコトがペガサスに乗ろうとしていた事も忘れ、つい走って逃げてしまったのは言うまでもない……。


++++++


「駄目だ……、今日はやけに邪魔が入るな」
「エフラム、貴様が私の足を引っ張っているんじゃないのか?」
「お前こそ良い所で邪魔するだろう」


エイリークを振り払い、
ミルラを何とか言葉で押し切って、
ゼトとフランツを上手く言い包め、
魔道士達をかいくぐり、
ターナとクーガーから何とか隠れ、
そしてミコトを見失ってしまった2人。
ミコトを見つける事が出来ず遂に言い合いを始めてしまう。


「一目会った時から決めていたんだ。ミコトは俺の嫁にする」
「それは私も同じだ。ずっと心に決めていた」


ミコトの意志を完全スルーしている事に気付かない、恋する男の大暴走。
やめられない止まらない。


「まぁ、そう怒鳴るなよ」


突然のんびりした声が聞こえ、そちらに目を向けるとジスト達傭兵が居た。
丁度いいとばかりにミコトの行方を訊ねるが、こっちには来ていないようで見ていないという事だった。
ならば用は無いとばかりに立ち去ろうとする2人だが、そこへヨシュアが声を掛ける。


「まあ待てよ王子、賭けでもしないか? アンタ達がミコトを見つけられるかどうか……コイツで」
「裏」
「早いな」
「それに、こんな時は気が合うのね」


同時に同じ答えを出した王子達がおかしかったのか、テティスがクスリと嬉しそうに笑う。
ヨシュアは気にする事も無くコインを跳ね上げた。
結果は……。


「……残念だな。表だ。今日は見つからないだろう」
「そんな筈は無い!」
「今日中に見つけて、決着をつける!」


王子sは再びミコトを探して走り去って行った。
もう一直線に猪突猛進、いつもの戦上手な2人からは想像できない。
エフラムは、らしいが。
あれじゃ本当に今日は見つからないだろうなと苦笑しジストが合図すると、近くの茂みからマリカに伴われたミコトが出て来た。


「隊長、もういい?」
「あぁ、お疲れさん」


王子が完全に居なくなった事を確認し、ミコトは心底安心したようにホッと溜め息をつく。
追いかけ回されいい加減に疲れていた。
ありがとう、本当に困ってたのと礼を言うと、テティスが笑う。


「そんな事言って、実は嬉しいんでしょ? モテモテでちょっと羨ましいわ」
「え……」
「そりゃ、モテて悪い気はしないよな?」
「あ……じゃあ、どうも有難う、私はこれで!」


茶化されて真っ赤になったミコト、すぐに誤魔化して走り去る。
そんな彼女を傭兵達は微笑ましく見送った。


++++++


昨日も今日も、きっと明日も、決着がつくまで繰り返される騒動。
……正直、好かれるのは割と気分がいい。
よく考えれば2人とも王子だし良い男だと言える。
しかし追い掛け回されるのは勘弁だ、恥ずかしいし疲れてしまう。
ミコトが、今日何度目か分からない溜め息をついたその時。


「見つけたぞ!!」
「!!」


エフラムとヒーニアスが凄い勢いでミコトの元へ走って来た。


「ミコト! この戦いが終わったら、絶対ルネスに来い。……いや……何が何でも俺が連れて帰る!」
「駄目だミコト、フレリアに来い。私の妃として永住すると良い」
「……」


暫く固まった後、走って逃げ出すミコト。
まだまだ決着はつきそうにない……。





*END*



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