短編夢小説
あなたに届け



主人公設定:敬語少女
その他設定:スマブラ



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いつもと変わらぬ午後、何となく庭に出て、他の仲間達がわいわいと騒ぐ様子を見ていたアイク。
腕を組み少々気だるげに立っていたが、ふと隣に気配を感じ目を向けた。
隣に来ていたのは、どこかから派遣されて来たという少女ミコト。
何やら体をアイクに向け爪先立ちをしている。
放っておこうとしたのだが、小さく唸りながら何度も繰り返すので気になって問い掛けてみた。


「ミコト、どうした。一体何をしているんだ」
「あ、いえ……。何と言いますか…ちょっと」


歯切れが悪い。
ますます気になって、どうしたんだ、と強めに訊ねると、ミコトは怒られたようにシュンとなりつつ答えてくれた。


「アイクって、身長が高いですよね。その上、筋肉が逞しくてガッシリした体つきですし」
「まぁ鍛えてるからな。それがどうかしたか?」
「筋肉は、別に付かなくていいのですが。どうしたら身長が伸びるのか知りたいんです」


先程から背伸びしてアイクに近付けようとしていたらしいが、当然、そんな事で背が伸びたりする筈はない。
背伸びしても額がアイクの首辺りに届く程度で、今から彼に届く程伸ばすのは不可能だろう。


「俺と同じくらいの身長にしたい訳じゃないよな」
「はい、違います。せめてもう少し身長を伸ばせないかと思って……」


確かにミコトは女性としても少々小柄だが、気に病む程ではないとアイクは思っていた。
だから何故彼女がこんなに身長を伸ばしたがるのかを疑問に思う。
そもそもアイク自身、身長を伸ばす為に何か特別な事をした訳ではない。
鍛錬をしながら成長に任せていただけで、背を伸ばす方法など訊かれても答えようが無かった。


「遺伝とかあるしな、無理に伸ばそうとしても伸びるものじゃないだろう」
「……無理、でしょうか。すぐには不可能だと分かっているんですが……」
「いや、まぁ、そうだな。栄養あるもの食ってしっかり運動して、睡眠を充分取るだけでも違ってくるんじゃないか?」


しょんぼりしてしまったミコトに慌てて繕うように喋るアイク。
彼女が落ち込んだり悲しそうにするのは、どうにも苦手で少し焦る。
アイクが言った方法は実にシンプルだが実際彼がやった事はそれ位だ。
男女の成長の違いもあるのだし、ミコトに効果が表れるかは不明だが。

そしてミコトもアイクの提案に、その位しか方法が無い事を悟っていた。
スポーツを続けた人の身長が伸びたという話を聞いた事があるし、駄目もとで実践する価値はあるだろうか。
健康で規則的な生活をするのが何よりだろうが、いつ任務が来るのか分からない以上、それを約束する事は出来なかった。


「ミコト、何でそんな身長が気になるんだ? 確かに小柄だが、気に病む程でもないだろう」
「……それは、その」



また、俯いて声を小さくしてしまうミコト。
そんなに深刻な理由があるのかと心配になるアイクだったが、彼女の口から出た理由は……。


「童顔な上に身長が低くて…明らかに年齢より小さな子供に見られるんです。それがちょっと嫌だったから、身長が伸びれば解消されるかなと……」
「なんだ、そんな理由か」
「そんな理由かって……これでも結構深刻に悩んでるんですよ!」


ミコトは怒るが、アイクにとってソレは全く問題だと思えなかった。
見た目で判断しナメてかかる相手には実力で返してやればいい。
甘く見て痛い目に遭うのは相手なのだし、それは自業自得というものだ。


「気にする必要は無い、お前は今のままで充分だ」
「……そう、ですね」


言いつつ、微妙に納得してなさげなミコト。
絶対にまだ言ってない事があると確信したアイクは、じり、と1歩寄り相変わらずの無愛想な面をミコトに近付けた。
驚いたミコトは近寄られた分下がろうとするが、すぐに体を掴まれてしまい叶わなかった。
近付けられた顔には何だか威圧感がある……。


「ミコト、他にも身長伸ばしたい理由あるだろ」
「……ありません」
「いいや、あるな」
「あ、ありませんよ」
「あるだろ」
「ありま」
「絶対ある」


最後は有無を言わせぬ格好で認めさせるアイク。
しかしこれを認めたという事は、やはり他に身長を伸ばしたい理由があるのだろう。
何をそんなに気にしているんだと訊ねてみれば、再び俯いたミコトは躊躇いがちに口を開いた。


「この前アイクと一緒に居た時、仲間達から言われたじゃないですか」
「? 何か言われたか?」
「い、妹みたいって。アイクと兄妹みたいだって言われたのが、何だか嫌でしたので……。身長が伸びれば少しは童顔も治ると思ったんです!」


ミコトの言葉にアイクは少々呆気にとられる。
それはつまりアイクの妹だと思われるのが嫌だという事で、それを嫌がるという事はつまり……。

辿り着いた考えに、アイクは我ながら調子が良いと苦笑してミコトの頭を優しく叩いた。
そのまま頭に手を乗せてやれば、子供扱いされたと思った彼女が不機嫌そうな視線を向けて来る。


「そんな事か。別に奴らはお前が俺の妹じゃないと分かっているだろう」
「それはそうですが、やっぱりそう見えてしまうのは嫌ですし、街を歩いたりして他人に見られた時まで兄妹のように思われてしまうのは……」


ミコトはきっと、その願いに深い意味など込めてはいないだろう。
ただ漠然と、アイクにとって自分の存在が妹のようだと思われるのを嫌がっているだけで。
妹ではなく1人の異性として見てほしいとミコトは思っている……、なんていくら何でも早とちりすぎだろうか。


「そうか、そんな理由で身長を伸ばそうと。愛想が無い割に可愛い事を考えつくんだなミコトは」
「笑わないで下さい……! 愛想が無いのはアイクだって一緒でしょう!?」


顔を赤くし、普段はなかなか出さない大きめの声で反論するミコト。
そんな彼女が見られただけで何を言い返されようがアイクはご機嫌だ。
だが、やはり気にしているらしいミコトを宥めてやろうと、アイクは話題を続ける事にする。


「ミコト、お前は他人の目が気になるんだな」
「……普段は気にしないよう努めていますが、やはりいざとなると気になってしまうんです」
「そうか。だが、俺が理解しているという事実だけじゃ足りないのか?」
「え?」


仲間や他人から見たら、自分達は兄妹のように見えるかもしれない。
だがアイクはミコトを妹のような存在だと思った事は一度も無いのだ。
アイクには既に妹が居るからという事もある。
だがそれだけではない、まだ気になるという程度のレベルだが、確実にアイクはミコトを一人の異性として見ている。


「お前は俺の妹みたいな存在じゃない、全く違う。俺はそう理解しているが…それじゃ足りないか」
「い、いいえ。アイクがそう理解して下さっているのでしたら、何も言う事はありません」
「そうか、ならいい」


これでミコトも、気に病む程ではない身長に関して悩む事が減るはず。
詳しくは話さないが彼女は他に任務もあるようだし、悩みに捕らわれて失敗するような事が無ければいい。
ミコトもアイクに言われた事で心が軽くなった。
アイクに少しでも届きたいと思っていたが、物理的な意味ではないとようやく気付けたようだ。

これからは、違う意味でもっとアイクに届くよう近付いていきたい。
ミコトは心中で、そう願うのだった。





*END*



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