短編夢小説
愛馬捜索大作戦!



主人公設定:エリウッドの妹
その他設定:−−−−−



++++++



「……あにうえ……」
「ミコト。どうしたんだ、元気が無いね」


進軍を続けるエリウッド達の一団、とある地で駐屯する事になり野営の準備をすませていた。
一息ついていたエリウッドの元へ妹のミコトがやって来たのだ。
元気のない様子に心配するエリウッドだが、彼女の口から出た言葉は……。


「……ウィアが、いなくなっちゃった……」
「えっ……!?」


ミコトの愛馬であるウィアが居なくなってしまった…というものだった。
よくミコトに懐いて、繋がずとも逃げ出す事なんかなかったウィア。
しかし今になって、しかもちゃんと繋いでいたのに居なくなってしまったそうだ。
盗まれた可能性も否定できないと、エリウッドも捜索に協力する事に。
こうしてミコトの愛馬であるウィア探しが始まったのだ。
まずは手始めに近くに居たリンとヘクトルに訊ねてみる事にする。


「ねぇリン、ヘクトル! 私のウィア見てない?」
「あ? どーしたよ、逃げられちまったか?」
「居なくなったらしい」


どうやらリンもヘクトルもウィアを見かけてはいないらしい。
確かに繋いでおいたのにどうしたのだろう。


「ミコト、そんなに落ち込まないで。私たちも手伝うから」
「そーそー。すぐに見つかるだろ」
「うん……、ありがとう2人とも」


リンとヘクトルにも協力してもらう事になり、
手分けしてウィアを探す事にする。
フェレ騎士達に訊ねようとしたのだが、あいにく偵察に出ているらしい。
取り敢えず近くに居たキアランの騎士達に声を掛けてみた。


「あの、キアラン騎士さん……ケントさんとセインさんだったっけ?」
「はぁい! 何かご用でしょうか、このセイン、姫のお役に立てるのでしたら……」


声を掛けられて間髪を入れずに声を張り上げ、
ミコトの手を掴んで跪くセイン。
が、すぐに隣に居たケントに足を踏まれ、うめき声を上げてうずくまる。
そんな彼を無視してケントが頭を下げた。


「ミコト様、何かご用でしょうか」
「うん、あのね。ウィア……わたしの馬を見なかった?
 鞍にフェレの家紋が入ってる白馬なんだけど……」
「家紋入りの鞍をつけた白馬、ですか」


考え込むケントだが、やはり分からないらしく、申し訳ありませんと頭を下げる。
知らないのなら仕方がないと、ミコトは立ち去ろうとするのだが、
瞬間、セインが立ち直って再び声を張り上げた。


「いよっし! このセイン、ミコト姫がお困りなのでしたら力を尽くしましょう! 探すぞー!」


ミコトやケントの言葉など待たずに馬に乗り勢い良く駆け出すセイン。
あらら、とミコトがケントを見ると、苦笑して自分も馬に乗った。


「相棒の暴走は私が謝罪致します、私も探すのをお手伝いしますので」
「本当!? ありがとう、きっと早く見つかるわ!」


満面の笑みを見せる姫にケントも微笑みを返し馬で駆け出す。
ミコトも次なる手掛かりを探そうと、駐屯地を駆けていく。
すると目に入ったのは、同郷同士で話をしているらしいギィとラス。


「おーい、ギィ、ラス! わたしの馬見なかったー!?」
「? あれって、フェレの……ミコト様だっけ。何やってるんだ?」
「馬を探しているのか」


駆け寄って事情を話すがやはり2人もウィアを見てはいないらしい。
諦めて他を当たろうとするミコトに、ギィが声を掛けた。


「待てよ、おれも探す!」
「え? ホント?」
「あぁ、困ってる女がいるなら黙って助けるのがサカの民だ! なぁラス!」


ギィの言葉にラスも無言で頷く。
ミコトは嬉しくなって、ギィの両手を握って飛び跳ねた。
突然の事に、うわ、と小さく声を上げるがミコトは気付いていない。


「あっりがとー! 頼りになるー!」
「あぁ……う、うん、任せろ!」


耳まで真っ赤にしているギィを特に気にする事もなく、ミコトは後を任せて走り去る。
呆然としていたギィは、ラスに肩を叩かれようやく我に返った……。

更に愛馬を探して走り回るミコト、次に目を付けたのはウィルとレベッカ。


「ねぇ、2人とも! わたしのウィア見なかった?」
「あ、ミコト様」
「ウィアって、ミコト様の愛馬ですよね?」


そうそう、と頷くが、やはり2人も知らないらしい。
探すのを手伝ってくれないかとミコトが今度は自分から頼むと、
ウィルもレベッカも承諾してくれた。


「えっと、ウィアは白馬でしたよね」
「そうそう。鞍にフェレの家紋が入ってるよ」
「じゃ、おれ達は向こうを探します!」


反対方向を探すのを任せ、ミコトはウィアを探して更に走り回る。
こんなに沢山の人が探すのを手伝ってくれているのに、見つからないなんて…。
どこに行ってしまったのか心配で泣きそうになる。
暫し立ち止まって気を取り直し、ミコトが再び走り出そうとした瞬間、
背後にあった木から声が聞こえて来た。


「ミコト様!」
「あ、マシュー!」


木の上から声を掛けたのはマシューで、ミコトが気付くと木から飛び降りる。
彼はヘクトルに命令されてウィア探しを手伝ってくれているそうだ。
しかし上から探してみたところ、野営地には見当たらなかったそう。
いよいよ本当に盗まれたのかと絶望に染まりかけるミコトだが、
そこでマシューは、天馬騎士に手伝いを頼んでみてはどうかと提案した。
幸い偵察に出ているのはフェレ騎士のみだそう。
何だか大きな話になって来てしまった。
しかし他の人にしてみればただの馬だろうが、自分にとっては大切な相棒なのだ。
ここは迷惑を承知で頼むしかない。


「分かった、フロリーナ達に頼んでみるね」
「はいはーい、ミコト様お気をつけて」


何故か、にこやかに手を振るマシューが気になったが……。
ミコトは自軍の天馬騎士であるフロリーナとフィオーラを探す。
やがて見つけて、すぐに声を掛けた。


「フロリーナ、フィオーラ、ちょっとお願い!」
「ミコト様?」


何だか必死な様子で駆けて来るミコトに、
何事かとそちらを向くフロリーナとフィオーラ。
愛馬が居なくなったと話を聞いて、顔を見合わせる。


「お願い、迷惑かもしれないけど……たかが馬でも、
 ウィアはわたしにとって大切な相棒なの、探すのを手伝って!」
「ミコト様……」


必死な様子のミコトに、2人は優しく微笑む。


「そんな、迷惑だなんて。ミコト様の大切なパートナーでしたら、
 喜んでお手伝いさせて頂きます。ね、フロリーナ」
「はい。ミコト様、私も、天馬のヒューイは大切な友達で……居なくなったら悲しいです。
 ミコト様のお気持ち……すごく分かります」
「フロリーナ……フィオーラ……。ありがとう!」


快く承諾してくれた2人に、ミコトは嬉しくなって満面の笑みを向ける。
早速、フィオーラの天馬に相乗りさせて貰い、3人で空へ舞い上がった。


「うわーっ、高い! 実はわたしね、天馬に乗ってみたかったの!」
「ふふ、そうでしたか。……さぁ、野営地には居なかったようですし、探しながら少し遠出しましょう」


そのまま地上を見渡して##NAME2##を探しながら進むミコト達。
一方野営地では何やら騒がしくなっていた。
エリウッドが飛び去る天馬を見送りながら、近くに居たリンとヘクトルに指示を出す。


「2人とも、ミコトは離れたから準備を進めてくれ。僕はフェレ騎士を呼び戻しに行く」
「OK。私は女の子たちを集めてから始めるわ。
 フロリーナたちが上手く戻って来られるといいんだけど……」
「俺も準備するか。気付かれなきゃいいんだが」


何やらミコトに内緒でコソコソと何かを進めているらしいが……。
今はまだ、分からない。

一方、天馬で空を進むミコトたち3人。
注意深く地上を見渡すものの、どこにもウィアは見当たらず本当にどうしたのかと不安だ。
すると前方から誰かがやって来た。
見れば竜騎士のヒース。


「天馬騎士さんと……貴女は確かフェレの姫君」
「あ、ヒース。どこかで白馬を見なかった? 鞍にフェレの家紋がある……」


ミコトの愛馬だという情報を聞いて、あの馬……と言いかけるヒースだが。
フィオーラとフロリーナが何やら目配せをすると、
あぁ、今日か。と呟き、ハッとしたようにしてミコトを招く。


「先ほど、向こうの花畑でそんな馬を見ました。宜しければご案内しますが」
「本当!?」
「ミコト様、行ってあげて下さい。私とお姉ちゃんで、野営地の皆さんにお知らせして来ます」


フロリーナの申し出に少しだけ迷ったが、
野営地では何人もウィア探しを手伝ってくれている。
見つかったのなら、彼らが無駄に捜索しないよう知らせるのがいいだろう。
伝言をお願いして空中でヒースのドラゴンに乗り移り、
ミコトはすぐさま案内して貰った。



++++++



一方、野営地に戻って来たフロリーナとフィオーラ。
急いで何かの準備をしている者達の所へ行き、手伝い始める。


「間に合ったわね、フロリーナ、フィオーラ」
「リンディス様、ミコト様が帰って来るまでに、間に合いますか……?」
「大丈夫よ、帰りは馬と一緒だから少し時間が掛かるわ」


やがてエリウッドも偵察に出ていた騎士たちを連れて戻って来た。
周りに敵の心配は無く、これなら安心して準備を進められそうだ。


そしてミコト。
野営地へ行く道すがらに通った所にあった花畑で、
ウィアがのんびりと佇んでいるのを発見する。


「ウィアっ!」


ヒースが飛竜を降ろし、ミコトと相棒を再会させた。
泣きそうな笑顔で愛馬にすがりつくミコト。
微笑ましい再会にヒースも優しい顔で見守る。
ふとウィアが鞍に何かを載せている事に気付いたミコト。
見れば綺麗な小箱で開けてみると手紙が入っていた。
読んでみると、それは。


「えっ……? ね、ねぇヒース……これ……」


困惑した視線を向けて来るミコトに、ヒースは笑顔を向けた。
手紙の内容は……。



++++++



ヒースに付き添って貰いつつ、ウィアと共に野営地へ駆け戻ったミコト。
辿り着くと仲間たちが一所に集まっている。
ウィアから降り立った瞬間、仲間たちは満面の笑みで一斉に……。


「誕生日、おめでとう!」
「おめでとうございます!」


パーティー会場のようにされた野営地に、響く祝いの言葉。
呆気に取られて、もう一度ウィアの鞍に乗せられていた手紙を確認する。
書いてあったのが今回の出来事のネタばらし。
ウィアが行方不明になったのは、エリウッドの提案で仲間たちが仕組み、
ミコトを野営地から遠ざける為だったらしい。
そしてそんな事をした理由。
それは、まさに今日がミコトの誕生日で、祝賀会の準備をする為だったからだ。
本来なら行軍中にするべきではないだろうが、
続く戦いの中で荒みがちな心を癒す事が出来るかもしれないとみんな承諾してくれたのだ。
軍のリーダーの妹で貴族の姫であるミコトの誕生日ならば、
行軍中に祝っても仕方ないだろう、おそらく。
提案したのがエリウッドなのは……シスコンだという突っ込みはナシだ。


「兄上、誕生日って……」
「そうだよミコト、皆が君の誕生日を祝ってくれる」


激しい戦いが続き、敬愛する父が亡くなり、辛い旅の終わりはまだ見えない。
そんな中こんな風に祝って貰えるなど、なんと幸せ者なのだろうか。
ミコトは嬉しさの余り涙を滲ませつつ傍らのウィアに寄り添った。
そして笑顔で一言。


「本当にありがとう、みんな……わたし、嬉しい!」


ストレートに喜びを表す言葉に仲間たちの顔が綻ぶ。
それはミコトの短い生涯で、1番幸せな誕生日になった。





*END*



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