短編夢小説
family marriage



主人公設定:エリウッドの従妹
その他設定:−−−−−



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エリウッド様は、いつだって私の事を考えて下さってる。
それは分かっているのだけれど……。


++++++


良く晴れた春の昼下がり、ぽかぽかと陽気も良く、テラスでお茶でも頂くには絶好ののんびり日和だ。
だがそんな日であるのにも拘らず、ミコトは不機嫌な様子。
そんな従妹に笑顔で語り掛けるのはフェレ公子エリウッドだ。


「ミコト、どうだい? 今度の縁談は」
「上手くいくわけがありません!」
「……今度は一体何が起きたんだ」
「あ、相手の殿方の……」
「見てくれが気に入らなかった?」
「違いますわ!」


きっと子供扱いされているのだろう。
エリウッドはミコトを見てはクスクス笑う。
しかし実際に現在ミコトは14歳、歴とした子供だ。
縁談なんて早い……と思っていたが、彼女の母は15の時に嫁いだらしく、ミコトにもそろそろ縁談をと勧められている。
しかも今回の相手は……。


「父上も母上もどういうおつもりなのかしら。相手の殿方、わたしより30も年上なんです! まるで親子でした!」
「それは……また……」
「笑わないで下さい!」


結婚は一生の死活問題、失敗なんてしたくない。
まして出戻りなどしたら両親に大恥をかかせてしまう。
一生を懸けた一大事なのに笑うエリウッドから顔を背けるミコト。
彼はすぐ真顔になって、笑ったりして済まなかった、と謝る。
そして再び話題を振って来た。


「ミコトは結婚したくないのかい?」
「…結婚自体をしたくない訳ではありません。ただ30も年上の殿方と結婚なんて出来ませんわ」
「でもこの間縁談が入ったのは、君と同じくらいの少年だったじゃないか」
「あんな過度のマザコン、願い下げです」


我が儘だとは思う。
第一、王侯貴族の娘の縁談なんて親同士が勝手に進めて当人に選ぶ権利なんてないのが主流だ。
そうなる所をミコトの両親は彼女に選ばせてくれているのだから、ここは早々に縁談を決めてしまうのが親孝行、そして家の為と言うものだ。


「でも私……納得がいきませんの」
「もしかして、好きな人でも居るのかい?」
「え……」


まさかそんな風に思われるなんて思ってはいなかった。
特に好きな人が居る訳でもないから尚更。
好きな殿方など居ないから結婚自体に納得がいかないとミコトは言う。
父や母には申し訳ないがまだ14歳、心が全くついて行かない。
第一、蝶よ花よと育てられ、男性との交遊なんて従兄のエリウッドと幼なじみのヘクトルのみだ。
それ以外の男性はよく分からない。


「じゃあ、僕かヘクトルと結婚すればいいよ」
「……はい?」


突然の提案に、ミコトは呆気に取られた。
エリウッドはいつも通りの笑顔だ。


「僕なんてどうだい?」
「……!」


そう、いつも通りの笑顔。
余裕たっぷりの。


「か、からかわないで下さいまし!」
「あ……ミコト!」


急に恥ずかしさがこみ上げて来て、ミコトは逃げ出してしまった。

それからと言うもの、エリウッドはミコトに自分との縁談を勧めて来る。
本心は何を考えているのか分からない笑顔で。
従兄妹なら結婚できたような気もするが、幼い頃から兄妹のように育って来たので、今更そんな事を言われてもただ戸惑うばかりだ。
今日もエリウッドはミコトに自分を売り込んで来る。
いつも笑顔のエリウッドが真剣な表情になるので妙に胸が高鳴ってしまうのが事実なのだが。


「で、ミコト。僕との縁談はどうなんだい?」
「どう、と言われましても……。余りにも突然で、頭が混乱していますの」
「そうか……そうだったね」


…そうだった? 何が?
ミコトの疑問を浮かべた視線に気付いたのか、エリウッドは少し照れた、しかし真剣な様子で答える。


「僕は、小さい頃から君の事が好きだったから、突然なんかじゃなくて……。でも、君にとっては最近言われた事なんだよな」
「小さい……頃から?」


知らなかった。
一人っ子であるミコトは、エリウッドの事をずっと兄のように思っていた。
そんな風に思われていたなんて気付きもしていないし、エリウッドもそんな様子は微塵も見せなかった。
真剣だから君も考えてほしいと、懇願するように言う彼。
何だか意識してみると急にエリウッドが違う風に見えてしまう。

……いや、彼は以前からこうだった。
その事に自分が気付かなかっただけだ。

そしてミコトは考えた。
今までの縁談は全て気に入らないものだった。
しかしエリウッドの事もそんな風に意識した事は無い。

……でも、何も知らない男よりは気心の知れたエリウッドの方がいいかもしれない。
それに身近に感じていたエリウッドの事を自分はよく分かっていなかった。
エリウッドが自分の事を小さい頃から好きだったなんて、全く気付かなかった。
どうせ良く知りもしない男と婚約する筈だったのだから、エリウッドの事はこれから知ればいい訳だ。

ミコトはエリウッドに好意を持っている。
それは勿論友人として従兄としてだが、意識すれば気が変わるかもしれない。
どうしても駄目な時は破棄すればいい。
血縁ならば、家同士の対立……なんて事にはなり難い筈だ。
それに……。


「(エリウッド様って、素敵な方かも……)」


改めてエリウッドを意識してみると、やはり慣れ親しんだ彼への考え方が変わってしまうのだった。


++++++


エリウッドに告白されてから数日後、ミコトは前に来た縁談を断ろうと母に話をする事にした。
従兄と縁談を進めるなんて話したら驚くかもしれないが、進める気もない縁談をいつまでも引きずる訳にはいかない。
以前に提案された縁談を取り消したいと告げると、母は、やっぱり、と言いたげに頷く。


「悪い方ではないのだけれど……。さすがに30も年上の方では、あなたが可哀想だと思っていたわ」
「では、お母様……」
「父上には私からお話しましょう。縁談はお断りしておきます」


ミコトは満面の笑みで喜び、お礼を言う。
ついでにエリウッドの事を話そうと、更に口を開こうとしたが…。


「そうだわ、エリウッド様にも謝っておかなければなりませんね」
「……エリウッド様に?」


なぜミコトの縁談を破棄するのにエリウッドの名前が出て来るのだろう。
しかも謝罪しなければならないとはどういう状況か。
ミコトが母に訊ねると…。


「あら、今までのあなたの縁談は全て、エリウッド様が探して来て下さったのですよ」
「……!?」


余りの衝撃に言葉を失うミコト。
てっきり両親が探して来ているものと思っていたから。
……それだけならばまだいい、しかしエリウッドはミコトに自分との縁談を勧めて来ていた。
ミコトの事を小さな頃から好きだったと言っていた。
そんな相手に何故、自分以外との縁談を持ってきたりしたのか。
考えられる事は……。


++++++


翌日。
ミコトはエリウッドに話をする事にした。
その胸に、怒りと困惑を沢山詰めて。
エリウッドに話したい事があると告げ彼を呼び出す。
ミコトが縁談の事を知っているとは知らず、エリウッドは至って普通な笑顔でやって来た。
しかしすぐに、ミコトの様子がおかしい事に気付く。


「ミコト?」
「どう言うおつもりでしたの……?」


怒りに震えた声で絞り出された言葉に、エリウッドはただ困惑するばかり。
ミコトはお構い無しに言葉をぶつける。


「お母様から聞きました、今まで私に来た縁談は全てエリウッド様がご用意したものだと!」
「!!」
「全て嘘でしたのね……。わたしの事を小さい頃から好きだったなんて、ただわたしをからかいたかっただけなのでしょう!?」


目に涙を溜め、騙されたと怒り心頭のミコト。
何よりエリウッドに告白された事で心を動かされた彼女にとって、それが嘘だったとなると女心を弄ばれたショックしか残らない。


「あんまりです、わたしが子供だからって、そんなからかい方…! わたし、本気で考えましたのよ!?」
「待ってくれミコト、話を聞いてくれ!」
「話す事がありますの!? エリウッド様がこんなに酷い方だったなんて、わたし知りませんでしたわ!」


もう嫌になって一気に怒鳴り散らすミコト。
エリウッドに好意を抱いた事が今は悔しい。
言いたい事は言い終えたとばかりに、ミコトは立ち去ろうと踵を返す。

エリウッドは慌てて、その肩を掴んで引き止めた。
放して下さいと強く拒否するミコトだが、エリウッドは必至な様子で話を聞いてくれと懇願する。
もうヤケになったミコトは不機嫌さも隠さずに立ち止まると、そこまで言いたいならどうぞ、と冷たく言い放った。
エリウッドは手を放し縁談の事について語り始める。

エリウッドがは以前、自分の叔父でもあるミコトの父親から、何か良い縁談がないかと相談を持ちかけられたらしい。
その時にミコトを想っている事を打ち明け、彼女が了承するならば縁談を進めたいと話したそうなのだが……。
2人は従兄妹。
法的には何ら問題無いが血が近く周りの反応も気がかりだった為、彼女の父は難色を示した。
エリウッドはそこを何とか説得し、取り敢えず縁談を幾つか持って来て、ミコトが上手くいかないようなら彼女に想いを打ち明ける事を認めて貰うと約束したそうだ。


「その話……お母様は……」
「知らないはずだ。僕と叔父上だけの約束だからね」


……知らなかった。
しかしそうなると、先程エリウッドに言ってしまった酷い言葉の数々が思い出されてしまい、ミコトは顔面蒼白になってしまう。
……さっき、自分は彼に何という事を……。


「わたしっ……! 申し訳ありませんエリウッド様! お許し下さい!」
「ミコト、いいんだ。顔を上げてくれ! そもそも叔父上との約束があったとは言え、僕が縁談を持って来ていたのは事実なんだ。勘違いしてしまうのも無理は無いよ」


低頭平身に謝るミコトに顔を上げさせるエリウッド。
自分は何て事を言ってしまったのだろうと、ミコトには後悔しか出て来ない。
泣きながら落ち込み謝り続けるミコトの頭を撫でつつ、エリウッドはあの言葉の答えを訊く。


「誤解も解けたところで、僕との縁談の事だけど……どうだい?」
「え……」


あんな酷い事を言ってしまったのにいいのだろうかと、ミコトはただ迷って困惑するばかり。
そんなミコトの気持ちに気付いてか、エリウッドは優しさ溢れる笑みを向けゆっくりと言葉を紡ぐ。


「言っただろう? 僕は、小さい頃からずっと君の事が好きだったんだよ。今回の事で君に嫌われたんじゃないかって不安なんだ。……僕を安心させてくれないか?」


エリウッドの本心を知った今、彼に惹かれた事を悔やむ必要は無い。
寧ろ自分が嫌われたのではないかと不安だった。
ミコトは涙を止めると、エリウッドに満面の笑みを見せる。
そして……。


「貴方のお気持ち、わたしはとても嬉しく思います。……この縁談、謹んでお受け致しますわ」
「ミコト……よかった!」


エリウッドは嬉しさの余りに、ミコトに思いっ切り抱きついた。
ミコトは驚いて小さく悲鳴を上げる。
慌てて、しかし抵抗するのも変な気がしてどうにも出来ず、ただ名を呼ぶ事しか出来ないミコト。
しかし本当に嬉しそうなエリウッドの様子に優しく微笑んだ。


++++++


それから。
2人の縁談は順調に進み婚約に辿り着くまでに大した時間は要さなかった。
そして数年後、2人は結ばれる事になる。
さすが血の近い従兄妹同士の結婚と言う所か、ミコトとエリウッドの間に生まれた子は、フェレの血を継ぐ2人にそっくりな男子だった。
成長するにつれお互いにしっかり似てくる息子に、2人は言いようの無い幸福を感じている。

全く同じフェレ家の血が流れる親子3人、仲睦まじく、周りの者達が羨む程の幸せに包まれていた……。





*END*



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