短編夢小説
主夫vs主婦志望!?



主人公設定:アイクの姉
その他設定:−−−−−



++++++



最近、余りにも平和な日々が続くグレイル傭兵団。
今日は久し振りに依頼が舞い込んで、団長と副長、それにシノンとガトリーが戦いに出た。
砦に残っていたオスカーは今から夕食の準備を始める所で、彼の2人の弟も近くに居る。
いつも通りの平和な日々。

が。


「お、お姉ちゃん待ってよ」
「姉貴っ!」


不意に扉の向こうから慌ただしい声が聞こえて来た。
一体何事かとオスカー達3兄弟が扉に目を向けた瞬間、勢い良く扉が開けられる。
立っていたのはアイクとミストの姉、ミコト。
すぐに追い掛けて来たらしいアイクとミストが彼女を止めようとするが、ミコトはオスカーをびしぃ!と指さすと、堂々と言い放った。


「オスカー、今からあたしと勝負して!」
「……は?」


これが今回の騒動の始まりだった。
突然の挑戦状に呆然と立ち尽くすオスカー・ボーレ・ヨファの3兄弟と、ミコト・アイク・ミストの3兄弟。
いや、ミコトだけは堂々と構えてオスカーを睨み付けている。


「……ミコト、取り敢えず……。どうして私と君が勝負しないといけないのか教えてくれるかい?」
「それは、あたしが勝ったら教える」


何だそれ、と言いたげに、オスカーが眉を顰める。
代わりにボーレが突っ込んで来た。


「おいおいミコト。お前が勝たないと分からないって理不尽だろ」
「どうしても、あたしが勝つまで言えないの」


一瞬だけミコトの表情が曇った。
オスカーはそれを見て、けどよ、と文句を続けようとするボーレを止める。
きっと何かあるに違いない、いつも明るいミコトは、そんな顔を見せる事など滅多にないのだから。


「ミコトそう言うんだったら受けて立つけど、一体何の勝負を?」
「え、戦うの!?」


ヨファが驚いてオスカーにすがり付いた。
勝負、と聞いて、やはり心配なのだろう。
まあ殺し合いなどには絶対にならないとは分かるが、ミコトの気迫からしてただ事ではないようにも見える。
そんな緊迫した雰囲気の中、ミストが複雑な表情で口を挟んだ。


「お姉ちゃん、料理で勝負したいんだって」


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「なぁ姉貴、やっぱりやめておいた方がいい。姉貴の料理は美味いが、だからってオスカーに勝てるとは思わない」
「お兄ちゃん、もうちょっと違う言い方してよ」
「……」


こちらはミコト達3兄弟。
歯に衣を着せる事など微塵も無いアイクの正直な言葉に、ミコトは何も反応せず料理勝負の準備を進める。
勝負内容は夕食を作り、どちらが美味しいかを判断して貰うと言うものだ。
夕食の準備をしようとしていたので丁度いいだろう。


「でもホントお姉ちゃんどうしたの? オスカーと料理勝負したいだなんて」
「……あたしの人生が懸かってるの」


こちらを見もせず答えた言葉に、アイクとミストは顔を見合わせる。
……そんな一大事なのだろうか。
確かにミコトからは必死な様子が伝わって来るが……。
アイクは姉に何を考えているのか訊ねるが、言えない、としか彼女は答えてくれなかった。

答える気は無さそうだ。


++++++


「しかしミコトの奴、何考えてんだかな」


こちらはオスカー達3兄弟。
オスカーが勝負の準備を進めている横で、ボーレとヨファが会話している。


「ミコト姉ちゃん、必死そうだったね」
「何を焦ってんだかなー。って言うか兄貴、こんな事して団長達に怒られねぇか?」
「形は夕食を作ってるだけだからね。怒られたら、その時はその時だよ」


笑いを混ぜつつの暢気な答えに、ボーレとヨファは顔を見合わせて苦笑する。
オスカーはミコトと違い事態を深刻には受け止めていないらしい。
ミコトの気まぐれで特に大した事も無いだろう、とボーレとヨファは心中で自己完結する。
が、ふとオスカーが真面目な声で2人に告げた。


「そうだ、キルロイを探して来てくれないか?」
「え? ご飯が出来てからでいいじゃない」
「いや。万が一の時の為だ。確か薬草を摘みに行っていたと思うから」


よく分からないが、兄がそう言う時は必ずその通りにした方がいい。
2人は、キルロイを探しに砦を後にした。


++++++


そして、準備を終えた2人がキッチンに並ぶ。


「……2人とも、すっっごいエプロン似合ってるよ」


褒めているのに少しだけ呆れも浮かぶミストの顔と声。
ミコトもオスカーも、エプロン姿が相当サマになっている……。
勝負などと言う雰囲気は微塵も無く、どう見ても今から仲良く夕飯作りだ。


「有難う、ミスト」
「オスカーよりあたしの方が似合う!!」


ミコトは敵意むき出しでオスカーに突っかかった。
一体どうしてそこまでオスカーをライバル視しているのか。
今まではそんな様相など微塵も見せた事は無いのに。
急に勝負など申し込みだした彼女を見るに、今まで溜めて来たものが爆発したような印象も受ける。

オスカーとしては、何故ミコトがこうも自分をライバル視するのかが分からなかった。
まあ受けた以上ちゃんと勝負はするが。
ふとそこで勝負の前に一つ確認したい事があったと思い出す。
オスカーはミコトの方へ向き直ると、労るように声を掛けた。


「ミコト、本当に勝負は今日でいいのか? 明日とかでも私は構わないよ」
「……は?」


一体何を言い出すのかと怪訝な顔でオスカーを見るミコト。
オスカーは心配そうにしている。
彼が勝負を誤魔化す為に言っているのではないとは分かるが、何故そう言い出すかの理由も分からない。


「……よく分かんないけど勝負はするよ! ちゃんと受けてよね!」
「あぁ。勿論だけど……」


けど、何だというのか。
まだ何かを言いたそうなオスカーに違和感を覚えつつ、ミコトは勝負を始めようとする。
制限時間は一時間、ミストの合図で2人は諸部を始めた。
包丁を手に、まな板の上の食材に取り掛かる。


「(うわ、さすがオスカー手際いいし!!)」


慣れているだけあってオスカーの包丁さばきはかなりのものだ。
いきなりミコトは焦り出した。
絶対負けていられない。
ミコトの人生が掛かってるのだから。

しっかりしなきゃと気合いを入れ直し、包丁を握る手に力を込めた瞬間。
ぐらりと、ミコトの視界が揺れた。
手にした包丁を落としてしまう。


「ミコト!」


オスカーの声が、やけに遠くに聴こえる。
落とした包丁は辛うじて足に刺さらなかったが、ミコトの足の側面、膝から足首にかけてを真っ直ぐに切り裂いていた。


「姉貴!!」
「お姉ちゃん、大丈夫!?」


2人の声も届いていないかのように、ミコトは虚ろな目で前方を見たまま動かない。
やがて扉を開く音と共にボーレが何か言っているのが聞こえたのを最後に、ミコトの意識が途切れた。


++++++


「……」
「お姉ちゃん! よかった、大丈夫?」


ミコトが意識を取り戻すとそこは自室のベッドの上だった。
側には心配そうなアイクとミストが付き添っているものの、自分がいったいどうなったのか覚えていない。
まだハッキリしない意識で虚ろな目を弟妹に向け、口を開く。


「……あたし」
「いきなり倒れたんだよ。寝不足と過労らしいぞ」
「寝不足……」


かなり間抜けだ。
思い当たる事があり、頭を抱えるミコト。
アイクの話によれば包丁を落とした時に足の側面をざっくり切ってしまったそうだが、オスカーがキルロイを呼んでおいてくれたからすぐに治せたらしいが。
なぜキルロイを呼んでおいてくれたのが、非常に気になる。
ミコトが体調を崩していた事など、ミコト自身も気付いていなかったのと言うのに。


「オスカーにお礼言わないとね! お姉ちゃんの事、部屋まで運んでくれたのもオスカーだし」
「えっ!?」


ミコトはミストの言葉に驚いて呆然とした後、ベッドから飛び起きた。
まだ休んでろ、とアイクに言われるが、大丈夫大丈夫と適当に合わせて部屋の出入り口へ向かう。
2人が止めるのも聞かず、ミコトはオスカーを探しに駆けて行った。


++++++


「オスカー、オスカー、オスカー……っと」


そんなに長い時間気絶していなかったのか、空は微妙に赤みが残っている。
このくらいの時間ならば馬の手入れをしているだろうと厩舎へ向かうと、その通りに馬の手入れをしているオスカーを見つけた。
ミコトが声をかけると手を止めて、大丈夫かい、と訊いて来る。
お陰様で、と微笑みかけミコトはオスカーの元へ駆け寄った。


「あのさ、あたしを部屋まで運んでくれたんでしょ? 有難う」
「どういたしまして」


いつも通りの笑顔を向けるオスカーだが、何だか、ミコトにとってはいつもと違うように見えた。
見とれそうになる思考を慌てて振り払い、気になっている事を尋ねる。
どうしてあらかじめキルロイを呼んでおいたのか。
ただそれを訊いただけなのに、何故かオスカーは言い淀んだ。
何かを隠しているのかとミコトが怪訝な顔でオスカーを見ていると、彼はどこか困ったような表情で切り出しす。


「ミコト、体調が悪そうだったからね。料理は刃物や火を使うから、怪我でもしたらいけないと思って」
「ちょっと待ってよ。体調悪そうって、どこが」


自分さえ分からなかった事なのに何故オスカーが気付いたのか。
知らない内に何か余計な事を言ってしまったのだろうか?
オスカーは更に困って、ただいつもと違ってたから、としか言わない。
いつもとどう違うのかさえミコト自身にも分かってはいないのだが。


「あたし、分からないよ。自分だってアイク達だって気付かなかったのに、オスカーってばそんなにいつもあたしの事見てたの?」
「えっ」
「……あ」


とんでもない事を口走ってしまった。
ミコトは慌てるが、声に出してしまったものを無かった事には出来ない。
気まずくなって黙り込んでいると、オスカーが静かに口を開いた。


「……見てたよ、いつも。いや、別に変な意味じゃないんだが」
「……」


それは、どう言う意味か。
ミコトが尋ねるより先に、再びオスカーが口を開く。


「ミコトは、どうして私と料理勝負を?」
「……」


今言うべきかも知れない。
いや、このタイミングで言わなければ、一体いつ言うのか。
ミコトは一つ深呼吸をして気を落ち着かせようとした。
心臓が高鳴って、少しだけ声が震えていた気がする。


「……オスカーより料理上手にならないと、あたしのメンツが……」
「メ、メンツ?」
「オスカーに告白しようと思った……んだけど、例えOKして貰っても、彼氏の方が料理上手って何か悔しいじゃん」
「……それで、わざわざ夜遅くまで料理の特訓して、勝負を?」
「!? な……なんでその事知ってんの!?」
「すまない。この前、夜中に見かけて……」


そう、ミコトはここしばらくずっと、みんなが寝静まった後特訓していた。
勝手に団の食料を使う訳にいかないので、自分のお金で食材を買っていたが。
出来た料理はこっそり近隣の村などに振る舞っていたのだ。

一番肝心な相手にバレていた事に、ははは、と苦笑いするしかないミコト。
……正直、かなり心臓バクバクなのだが。
一応告白したつもりなのだが、オスカーは何とも思わないのだろうか。


「私は気にしないけど、ミコトが気にするなら仕方ない。気にならなくなるまで料理の特訓してあげるよ」
「あ、お願いしまーす」


オスカーの言葉に明るく返事をしてから、ふと首をもたげる違和感。
ノリで返事してしまったが、今の言葉の意味は………。

ミコトは、オスカーと付き合えた時の為に料理の特訓をしていた。
それに対しオスカーは、私は気にしないけどミコトが気にするなら、と、ミコトの料理上達について付き合ってくれるという言葉。
遠回しに断られているのか、遠回しに受け入れられているのか。
どちらとも取れる言葉だ。


「……ねぇオスカー、今のどう言う意味?」
「ん?」
「ん? じゃなくて!」


オスカーは笑うばかりで、ミコトの質問には答えようとしない。
ミコトは痺れを切らして叫んだ。


「あたしは、オスカーの事が好きなんだって!」
「嘘っ!!?」


突然聞こえた別の声に、ミコトとオスカーは驚いて振り返る。
……いつの間にか、お互いの弟妹達がそこに居た。


「マジかよ、いきなり!」
「お姉ちゃん、今の本当!?」
「僕たちミコト姉ちゃんの弟になるの!?」
「ヨファ、それは結婚してからだ。……まぁ時間の問題か」


次々と勝手に喋る弟妹達に呆然とする事しか出来ないミコトとオスカー。
やっとの事で我を取り戻したミコトは、弟妹達に怒鳴る。


「ちょっと、なに勝手な事言ってんの!? OK貰った訳じゃないんだからね!」
「そうだ。そういう事は、ちゃんと私からミコトに告白した後に言わないと」


沈黙。
返答の仕方も間の持たせ方も分からず沈黙するが、今の言葉で決定的になっただろう。
しかしどうにも嬉しすぎて信じられなくて、期待ばっかりしていた自分の幻聴じゃないかとも思えて、ミコトが言葉を絞り出すのにはちょっとした時間を要した。
期待を込めてオスカーを見ると、彼はいつも通りの優しい笑顔。


「……オスカー? 今……、何て?」
「ん?」
「だぁから、ん? じゃなーーーーーい!!」


ムキになって怒鳴り散らすミコトを見たオスカーは、クスクス笑うと、隙を付いて彼女を抱き締める。
ミコトの叫び声と、弟妹達の沸き立つ声が辺りに響き渡った。





*END*



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