恐ろしくも愛しいあなたへ
主人公設定:アイクの姉
その他設定:−−−−−
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正直に言います。
僕も魔道を行く者。
だからあなたの恐ろしさがよく分かります。
あなたは自分が恐ろしくなったりはしないのですか?
僕は、あなたをとても恐ろしい人だと思います。
あなたにもっと近付きたい、もっと近しい存在になりたい、そう思うのに。
僕はあなたが恐ろしくてそれが出来ないんです。
「この文字は……、さっきと一緒。分かるよね」
「はい」
今、セネリオはミコトから闇魔法の古代文を習っている所。
テリウス大陸では多くない闇魔法の使い手な上、自身で作った独自の闇魔法を使う事の出来る彼女。
とある賢者に知識を叩き込まれたセネリオはそれなりに魔道に通じていたが、ミコトの使う闇魔法はオリジナルなだけあってかなり異質の存在。
彼としても非常に興味深かった。
「お姉ちゃん、セネリオ、お茶持って来たよ」
ミコトの妹のミストが、2人分のカップを持ってやって来た。
「少し休憩しようか」
「いえ、大丈夫です。続けて下さい」
「そうじゃなくて」
折角ミストがお茶を入れてくれたのだから……、と言いたかったのだが。
すぐに気付き慌てて意見を変えるセネリオ。
冷たい印象を受ける彼もミコトと彼女の弟であるアイクには懐いている。
昔に飢えて死にかけていたセネリオは、その2人に助けられた事があった。
生まれてからそれまで誰からも手を差し伸べて貰えなかっただけに、2人だけに懐くのも当然と言える。
「にしても、やっぱり闇魔法に興味ある? 使うのは駄目だよ。本気で危ないから」
「分かっています」
カップを傾けつつ、まだ書物に目を通すセネリオ。
ミコトから闇魔法の恐ろしさは聞いているし、自分も知る内にかなり危険な魔法であるのは気付いていた。
もし闇に呑まれてしまえば……生きる屍になってしまう。
そしてミコトもそうならない保証はない。
「まぁ、セネリオが今、闇魔法の勉強してくれてるし。万が一あたしが闇に呑まれちゃったら助けてね」
「……」
ミコトは笑いながら冗談めかして言っているが、セネリオにはとても冗談と言う気分ではない。
もしミコトが闇に呑まれて生きる屍になってしまったら。
彼女以外に闇魔法を知る者が少ない上、独自の魔法を駆使しているので助ける事は困難を極める。
だからセネリオは。
「ミコト、お願いですから冗談でもそんな事は言わないで下さい」
「……うん。ゴメン」
セネリオが本気で心配しているのを悟りミコトは軽く肩を竦める。
ミコトは知らない。
セネリオが闇魔法を知ろうとしているのは、魔道を行く者としての興味や好奇心ではない。
もちろんそんな感情が無い訳ではないが、何よりの理由は。
「でもミコト。もし、あなたが闇に呑まれたら……」
僕が助けますから。
真摯な瞳。
それが自分が闇魔法を知ろうとする理由だと、意思を込めて。
いつかミコトが闇に呑まれてしまうかもしれない。
そうなった時の為に、ミコトを助ける為に。
この世でただ2人、自分が心を開ける者の1人をそんな事で失いたくない。
……それに……。
「ミコトの事……、大切、ですから」
今の言葉は意味が微妙なところだ。
多分伝わらなかった。
しかしセネリオは、今はそれでいいと思っている。
まだ言えない。
ミコトが、ミコトの力が恐ろしくて。
ミコトを守れる力がつくまで言う訳にはいかない。
「……じゃ、その時はよろしくね」
「はい」
頼られている。
ミコトに必要とされている。
それが何にも代え難いセネリオの喜びだった。
嫌われる、必要とされなくなる、捨てられる……そうなった瞬間セネリオは死を選ぶだろう。
結局は自分の為、それは分かっている。
だが誰かへの想いなんて結局は自分の為なのだ。
その中でその人への思いやりを見せればいい。
「じゃあそろそろ、続き始めようか」
「はい」
再び書物に向かう。
すぐ傍にあるミコトの横顔。
あんな恐ろしい魔法を扱うとは思えない。
しかし魔道に通じているセネリオは、時折彼女から禍々しい邪気のような物を感じる時がある。
正直とても恐ろしい。
そんな恐ろしさを感じる程の魔力を持つ彼女を、助けられるだけの存在になるには……。
もっと強い魔力を持たなければならない。
もっと魔道を知らなければならない。
もっと魔道を極めなければならない。
ミコトの魔力は、魔法は、とても恐ろしい。
その恐ろしさを出来るだけ感じなくなるまで魔力を高め、魔道を知らなければとても彼女を護れない。
「セネリオって、ホントに頑張り屋さんだね」
あなたと、僕の為です。
……それはまだ言えない。
彼女の事が恐ろしい今の段階では。
いつかミコトの事を恐れずに護れるようになるまで、心の中にしまい込んでおくしかない。
ミコトの為にも、自分の生きる意味の為にも。
―END―
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