短編夢小説
のんびり行こうよ



主人公設定:アイクの姉
その他設定:−−−−−



++++++



朝、洗濯物を干し終わった後に辺りを散歩していると、キルロイがどこかへ行こうとしているのが目に入った。
また薬草でも摘みに行くのかと思ったが、彼の持つ袋などを見るとそうではないと窺える。
まさかと思い、ミコトは彼に声を掛けた。


「や、キルロイ。今からどこかに行くの?」
「ミコト。ちょっと足りない物があるみたいだから、町へ買い出しに行くんだ」


ほんわかとした微笑みにこちらも和むが、彼の発言はそんなものではない。
キルロイは余り体が丈夫ではないし、辺りで薬草摘みならまだしも、遠めの町まで1人で行くなど迷子になりかねない。


「オスカーがね、料理の材料や調味料が切れてるって言ってたから」
「で、まさかオスカーが買い出しに行けって言ったんじゃないよね?」
「うん、むしろ彼には必死で止められたよ」


当たり前だ。キルロイを1人で遠めの町へ買い出しに行かせるなど、4歳児の初めてのお使いより遥かに危険だ!
じゃあ行って来ますと穏やかに出発するキルロイを普通に見送りそうになり、慌てるミコトの元へオスカーがやって来る。


「ミコト、キルロイはもう行ったのかい?」
「ううん、まだそこに居るけど。あたしが一緒に付いて行こうか」
「頼むよ、どうにも彼の頼みは断り辛くて……」


なんともオスカーらしい。
今日は彼が料理当番、ならば彼の美味しい料理を食べる為に、一肌脱ぐ必要がありそうだ。
任せて! と明るく言い放って、ミコトはキルロイを追いかけた。


++++++


「いい天気だね、絶好の洗濯物日和だ」
「そうだよねー」


のほほんと町への街道を歩くキルロイ。
ミコトも彼のゆっくりした歩調に合わせながら、のんびりと歩みを進めた。
風も穏やかで、日差しもぽかぽかと暖かで、思わず歩きながら眠ってしまいそうになる。


「なーんて、いくら何でも歩きながら寝るなんて芸当は不可能だけどね」
「……くー……」
「って、えぇっ!?」


寝ている。
何の冗談かと思ったが、確かにキルロイは歩きながら眠っていた。
だがやはり寝ていては上手く歩けないらしく、段々と速度が落ちて終いには倒れかかる。
危ない! と叫んで、間一髪でキルロイの受け止めに成功したミコト。
彼の頬を軽く叩いて名を呼びながら起こす。


「ちょっとキルロイ! どこの大道芸人よ、歩きながら寝ないで!」
「……うーん?」
「ほらもう、買い出しに行くんでしょ!?」


眠そうに目を擦りながら顔を上げ、ようやく覚醒してくれたようだ。
寝てたみたいだ、ゴメンねなんて、ふんわりした笑顔で言われては笑って許すしか道は無い。
相手が強く出ればこちらも強く返せるのだが、こんな相手にはどう返していいのかミコトは悩んでしまうのだった……。


「あったかいと、眠くなって大変だね。でも良い夢見ちゃったな」
「悪いね、起こして」
「ううん、もうちょっとで倒れて怪我する所だったみたいだし。ミコト、どうも有難う」


よく聞くとちょっと会話がおかしい気もするが、まぁ相手はキルロイなので気にしていられない。
ぺこりとお辞儀をして礼を言うキルロイに、照れてどうにもくすぐったい気持ちになった。
相変わらずキルロイの歩みはのんびりで、歩調を合わせるのは逆に大変だ。


「ゆっくりねぇ……」
「慌てなくても、町は逃げたりしないからね。のんびり行こうよ」
「まぁね」


時間は過ぎるが。
まぁ余裕を持って出発したので良しとしよう。

だが暫くしてミコトはある事に気付く。
ゆっくり歩いていると、普段は気にも留めず素通りする場所が違って見えて来た。
そよぐ風に、ゆったりと野草が揺れる。
可愛らしい花を咲かせたそれに蝶が止まり、羽休めをしていた小鳥が仲良く飛んで行ったり。
それは何でもない日常の風景なのだが、そのどれもがいつもより印象的。


「ねぇキルロイ、何かいいよねこれ。こんな雰囲気って好きだなぁ」
「でしょ。でもこの辺りはいつもこんな感じだよ」
「あたしが気付かなかっただけか。のんびり歩いて良かったかも」


のんびり歩きを気に入ったミコトに、良かったよとキルロイも微笑む。
こんなに穏やかな気分になったのは久し振りで、彼に付いて来て良かったと嬉しくなった。

やがて町に辿り着き買い物を済ませるが、ふと、ある事が気になって彼に訊ねてみるミコト。


「あのさキルロイ、何で買い出しに行くって言い出したの? オスカーの様子からして、意外に強く主張したんじゃない?」
「あー……。うーん、かえって迷惑かけちゃったかな」
「そうじゃないけど、気になってさ」


キルロイは、普段からもっと仲間達の役に立ちたいと思ったらしい。
戦闘では傭兵団としては珍しい杖使いとして重宝しているが、それ以外ではさして役に立っていないのではと悩んでいたそうだ。
他の団員の体調管理をしようにも、先に自分が参ってしまうような有様。
だから少しでも、普段から役に立つ為に買い出しを申し出たのだとか。


「まったくキルロイは……のんびり行こうって言ったのはあんたでしょ」
「そ、そうだけど」
「キルロイの杖には、普段からみんな助かってるんだから。無理なんかしないで自分に出来る事をしていればいいのよ」


まぁ、ちょっと買い出しくらいなら、そんなに無理ではないだろうけれど。
ただキルロイは人がいいから騙され易いし、ボーっとしているから迷子になりそうで心配だった……。


「心配だし、何かやりたい時はあたしを呼んで。手伝うからさ」
「でも、迷惑じゃ……」
「んな事ないない。あたしだって、たまにはノンビリしたいしね!」
「……うん。ミコト、どうもありがとう」


ノンビリしたい、と自分の用事を主張する事で、キルロイの心を軽くする。
帰り道も相変わらずの良い陽気で、2人はまた、のんびりと歩んだ。




*END*

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キルロイは、やっぱり天然でほんわかしてて、
のんびりしている上に完全マイペースな印象。
傭兵団の癒し系アイドル決定ですね。
今回の歩きながら寝るなんて言うのは、もう完全にギャグですけれど(笑)

だけど彼は彼なりに、自分の立場について悩んだりしているんじゃないかなと思いまして。
そこを元気なヒロインが守り引っ張る的な。
普通のNLではキルロイとワユのカップルが大好きなので、ちょっとそんな状態を目指しました。

まだヒロインとは何でもないのですが、例えカップルになるにしても、絶対に【お友達から始めましょう】ですよね(笑)

ここまでお読み下さって、有難うございます!



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