短編夢小説
medical cooking



主人公設定:医療少女
その他設定:スマブラ



++++++



「困ったなぁ……」


スマブラ界・ピーチ城の医務室で、ミコトはオロオロと狼狽えていた。
傍のベッドには具合が悪そうに横になっているマルスが居る。
……いや、具合が悪いからこそ医務室のベッドで寝ているのだ。

遡ること2日前。
何だか困った様子で、医務室の扉を開けたマルス。
心配して駆け寄るミコトに彼が告げたのは、いつも飲んでいる錠剤を失くしてしまったという事だった。
どうやらマルスは、スマブラ界に来て慣れない空気に体を壊してしまったらしい。
Dr.マリオに診察してもらい、薬を出されていたそうだ。
ミコトはその事に全く気付かなかった……。

今までこのスマブラ界でマルスが元気だったのは薬のお陰だったらしい。
他のファイターは何ともないのに、マルスの神経がか細いのか他の仲間が図太いのか。
自分1人だけが、いつまでもこの世界の空気に馴染めず体調を崩す。
それが悔しくもあって仲間にも言い出せずにいたのだろう。

生憎ドクターは用事で城を留守にして2、3日は帰って来ない。
薬を出してやりたいのは山々だが、どの薬なのか全く分からないので違う薬を出してしまっては大変だ。


「具合……大丈夫? 横になってたら?」
「そうさせて貰うよ……」


すっかり元気が無くなってしまったマルスを医務室のベッドに寝かせ、そして今に至る。
あれから2日、メンバーの皆にはタチの悪い風邪を引いたと誤魔化しておいた。
ドクターとは何故だか連絡が取れない。


「何やってるのかなぁドクター。マルスが大変なのに……」
「ごめんねミコト……」


何かあってはいけない。
この2日間ミコトはマルスに付きっきりだった。
自分の体調のせいで迷惑を掛けているなんて心苦しくてしょうがない。
そんなマルスにミコトは優しく返事をする。


「いいのよ、マルス。病気の時って心細いものじゃない。誰かが側に付いてた方がいいと思うし」
「でも……」
「それに、そうやって自分を追い込むと治り難くなっちゃうよ。わたしは全然迷惑だなんて思ってないから安心して」
「……うん」


ミコトの言葉に、マルスは申し訳ないと思いながらも甘える事にした。
ゆったりとベッドに身を預ける。
それからミコトは医務室で自分の仕事をし、マルスはベッドで休んでいた。

マルスは食欲もすっかり無くなり、この2日間マトモに食べていない。
このままでは具合が悪くなる一方。
それも大きな気がかりになって心配が募る一方だったミコト。
そろそろ何とかしなければと勢いよく立ち上がった。


「ねぇマルス、少し待っててくれる?」
「え?」
「すぐ戻るから!」


ミコトは慌てた様子で医務室を後にする。
そう言えばこの2日間、ミコトは何度か医務室を突然後にした。
大体が30分程度で戻って来るので、さして気にしてなかったが……。
また今回も30分程度で戻って来たミコト。
ただし手に何かを持っていた。良い匂いが医務室に漂い始める。


「ミコト? それは……」
「スープ! マルス最近食欲が凄く落ちてるから。お城のキノピオさん達に教えて貰ったんだ」


ベッドに座ったまま食べられるよう設置されたテーブルに、温かいスープの皿を置くミコト。
何だか食欲を掻き立てられる匂いだ。
食事は許可されているのに食欲が出ない患者用のレシピで、味は非常にあっさりながらとても栄養のあるスープ。

話を聞けばこの2日間、作り方を教えて貰い、仕事の合間に少しずつ仕込みをしていたらしい。
少しずつ作っていたからようやく今日完成した。
マルスは嬉しそうにスープを口に運ぶ。


「美味しい?」
「美味しいし凄く飲みやすい。有難うミコト」
「よかった……。心配だったんだ。マルス、具合は悪いし食欲は無いしで」


ミコトは顔を悲しそうに歪める。
マルスに何かあったらどうしようと、気が気じゃなかった。


「何かあったら、わたしに話してね。……わたし、マルスが薬を飲んでた事も知らなかったし……」
「僕が黙ってたんだから仕方ないよ。今度からはちゃんとミコトに話す」


自分の意地でミコトや仲間達にかなりの心配を掛けてしまった。
仲間達を信頼していない訳ではないのに、どうして言い出せなかったのだろう。
多少からかわれはしても貶める者なんてファイターの仲間には居ない。
これから少しは気をつけようとマルスは誓う。


++++++


そして翌日。
何も知らずDr.マリオが帰って来た。
予想外に時間がかかって〜、と苦笑しながら言う彼。
しかし広間に集まっていたメンバー達に一斉に睨まれ、驚いて1歩下がる。


「な、何?」
「やっと来た! 何やってたんだよドクター!」
「携帯も通じないし! マルス危なかったんだぞ!」


次から次へと詰め寄られ慌てるドクター。
聞けば、うっかり携帯の電源を切っていたらしい。
事情を聞いて謝るドクターに、マルスも済まなさそうに首を振る。


「元はと言えば、僕が薬を失くしたのが原因だし……」
「まぁまぁ。結果的に、マルスが丈夫になったんだからいいじゃない」


そう、この3日、薬を飲まずに苦しい思いをしたマルスだが、そのお蔭か空気に慣れてすっかり元気で居られるようになった。
もう薬の服用は必要ない。
マルスは付きっきりで看病してくれたミコトに申し訳ないと謝罪していたが、彼女が笑いながら宥めるとマルスも安心したようだ。
きっと迷惑だっただろうと思って、ずっと気にしていたらしい。


「マルスの奴はそうなんだよなー、変に気にし過ぎる所があるっつーか」
「お前は気にしなさ過ぎ」


ロイとリンクのやり取りにも笑いながら、ふと、Dr.マリオがいらない荷物を部屋に置いて来ようとバッグの中を探った。
暫く探って、ハッとしたように動きを止め、瞬時に顔を青ざめさせる。

あからさまに挙動不審になるドクターをみんなが怪しんで見つめるが、ドクターは何でもないからと明らかに焦ってイイワケをしていた。
その隙にカービィが背後へ回り、ドクターが手に持っていた物を取り上げる。


「あっ!!」
「? ラムネ?」


カービィがラムネと思ったそれは、受け取ってみると白い錠剤。
それを見たマルスは驚いた声を上げる。


「これ、いつも僕が飲んでた薬だ……」
「えっ!?」


しかも2、3個無くなっている。使いかけだ。
使いかけと言う事は……。
またまた一斉にメンバー達に睨まれ、今度こそドクターは本気で青ざめる。


「いや、悪い、本当に悪かった! 出掛ける前に医務室に来たマルスの薬を、うっかり間違えて入れちゃってたらしい!」
「へぇ〜? じゃあ何にしても、全部ドクターのせいだったんだな」
「う、うん、そうそう。おれが全部悪かった。認めるから許しお助けぇぇぇ!!」


数人のファイターが袋叩きに掛かり、ドタバタと乱闘騒ぎが始まる。
こうしていつも通りの日常が戻って来た事にマルスは感謝せずにいられない。
病み上がりは特にその感謝が身に沁みるようだった。

しかし振り返ってみれば、この数日間、ミコトのお陰で無事に過ごせた。
付きっきりで看病してくれた事に関しては謝られると困るようなので、ここはきっちり感謝の意を示しておく事にする。
彼女にとってもその方がずっといいだろう。


「ミコト」
「なあに?」
「僕が病気に耐えられたのはミコトのお陰だよ。本当に有難う。特に君が作ってくれたスープは凄く美味しかった」
「どういたしまして。実はわたし料理はあんまり得意じゃないから、却って具合を悪くさせないか心配だったんだけど……」
「とんでもない、美味しかったよ」


付きっきりで看病してくれていた時の優しさから母性のようなものを感じていたマルスは、料理が得意ではないという彼女の主張にちょっと驚く。
しかし掛け値なしでスープは美味しかったし具合もあれから良くなった。
ひょっとしたらミコトのマルスを治したいという純粋な気持ちが、料理に何らかの影響を与えたのかもしれない。
心のこもった料理、という言葉はよく聞くが、体感したのは初めてだ。

誰かが誰かを想って一生懸命作った料理。
きっとそれは、どんな薬よりも心に効果がある。

大切な人への、medical cooking。





*END*



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