短編夢小説
never mind



主人公設定:アイクの姉。近親愛
その他設定:FE蒼炎&暁



++++++



「あ、ライ。やっほー」
「ミコトか。何だ、やたら機嫌いいな」


スキップしそうな勢いで歩いていたミコトに声を掛けられて、ライは軽い笑みを返した。
ミコトは、お得意の闇魔法の魔道書を片手にニコニコと機嫌が良い。


「ん? そう言えばお前……何か雰囲気変わったか?」
「分かる? なんと、ついにクラスチェンジしたのでしたー!」
「へぇ! そりゃおめでとうさん、よかったな」


一緒になって喜んでくれるライに、ミコトも更に機嫌が良くなったが……。
さすがにライが頭を撫でて来た時は笑顔が崩れた。
子供扱いされていると思ったミコトは慌てて避ける。

寿命の長いラグズは年齢と見た目が釣り合わない。
ライも見た目の割には年が行っているようだった。
しかしライがミコトの頭を撫でたのは、彼女を子供扱いしているからではなかった。
逆だ。ミコトを意識しているからこそ照れてしまい、それを悟られぬように、わざと軽く振る舞っているのだ。


「悪い悪い、別に子供扱いしてる訳じゃないさ」
「……ならいいけどね」


ミコトも本当に怒っている訳ではないのですぐ笑みを戻した。
ライはそんな彼女に、言いたい事があったのを思い出す。


「ミコトお前、果物好きか?」
「果物? 好きだけど」


ライが言うには、ガリアに自生していて獣牙族がよく口にする果物が、この近辺に実っているのを見つけたらしい。
かなり美味な果物のようで、是非ミコトにも味わって欲しいと言う。
わざわざ採って来てくれると言う嬉しい申し出に、ミコトは喜んで頷いた。

やっぱりライは優しいし親切だよねー、何て言って笑う彼女に苦笑するライ。
確かに世話を焼くのは嫌いではないが。
ミコトだから、ここまで親切にすると言う事を分かって欲しい所だ。
まぁミコトの更なる笑顔が見られそうなので、ライも焦らなくていいかと思ったが……。
突然背後から、殺意に近いものが混じった声が聞こえてきた。


「姉貴、ライ。何を楽しそうに話してるんだ?」


出た。
ミコトの弟で団長で将軍なシスコン野郎アイク。
彼曰わく、“ミコトの弟”が1番に優先されるべき立場らしい。
少々機嫌が悪そうなのは気のせいではないだろう。
ライにとってかなり厄介な相手だ。
まるでミコトの父親の如く、彼女に近付く男を払っていると聞く。


「お、アイク青年。ライがあたしの為に、果物取って来てくれるって!」


ライの好意に全く気付かないミコトは何の躊躇いも無く答える。
瞬間、アイクの額にピクリと青筋が浮かんだのを見て、ライは本能的に命の危機を感じた。


「……そうか、俺も食ってみたいもんだな」
「ざーんねーんでーした、ライは“あたしの為”に取って来てくれるんだよ!」


本当にライの好意に気付かないらしい。
弟へのからかいのつもりで発している言葉が、どんどん周り……と言うかアイクの空気を険悪にしていく……。
しかしアイクが何かを言う前に用事を思い出したらしく、じゃあねー、と走り去るミコト。

後にはアイクとライが残されて、非常に気まずい空気が漂っていた。
そんな空気に耐えかねたのだろう、ライはもう、思い切って率直な話をする事に。


「アイク、お前さぁ、俺がラグズだから反対してる……とかじゃないよな?」


勿論、そんな訳ではない事ぐらい分かっている。
ラグズだから反対するなんてアイクはそんな男ではない。
その通り、それに関してはアイクはすぐに頷いた。


「じゃあ俺のドコが駄目なんだよ、直すから教え……」
「詰まる所、姉貴に近付く男は全て気に食わん」
「……」


駄目だ。このシスコンには何を言っても無駄だ。
しかしこのままでは、きっとこの姉弟の為にならないだろう。
ここはミコトをその気にさせてしまった方がいいと、ライはそう考える。
ミコトと両想いになってしまえばアイクも文句は言えない筈だ。


「アイクなぁ、オレがお前の兄貴になるかもしれないんだから、そう邪険にすんなってば」
「絶対にさせん」
「冷たい事言うなよ弟!」


それだけ言うと、ライは更に文句を言おうとするアイクをスルーして走り去ってしまった。
これは、早めにミコトを落とした方がいいだろうと考えながら。


++++++


数日後、約束通りに珍しい果物を手にしたライがミコトの許を訪れた。
数種類の果物があってどれも見た事のないものばかり。
取り敢えず硬い皮の果物を取ったライがそれを割ると、中から瑞々しい柔らかそうな果物が出て来る。


「ほらミコト、食えよ」


ライが果物を手にしてミコトの顔の傍に差し出す。
……どこからどう見ても「はい、あーんして」状態、しかも手から直接食べさせようとしているが。
ライの動作が余りに自然だった為に、ミコトはその事に気付かない。
嬉しそうな表情で素直に口を開く彼女に、こりゃチャンスだなとライは笑う。

が。

……突然背後からやって来たアイクが、ライの手にあった果物を食べてしまった。


「ちょ、おま! アイク!」
「あー! 何すんのよ!」


アイクは相変わらずの無愛想……だがやはり、機嫌が悪そうな感じ。
2人の抗議も全く意に介さない様子だ。


「あんたねぇっ……! 折角ライが、あたしの為に採って来てくれたのに!」


あたしの為、の言葉に、アイクがピタリと動きを止めた。
またまた険悪になっていくが、やはりミコトは気付かないようだ……。


「姉貴の為に、か」
「何よ、その言い方」


どちらかと言うと下心満載であろうライのこの行動は、まさしくライ自身の為と言えるのではなかろうか。
しかしミコトはライの好意には一切気付かないようだし、それを伝えた所で全くの無駄かもしれない。

大体、最近ミコトとライは親しすぎるような気がしてならない。
ライの方はミコトを狙っているからだが、ミコトも最近、ライとばかり会っている。
もしミコトもライの事が好きなのだとしたら……。


「姉貴はライの事が好きなのかっ!?」
「は……!? な、何よ突然」


急な質問と共に詰め寄って来たアイク。
ミコトは驚いてマトモな返事が出来ない。
ライが止めに入るが、それだけで殺されそうなアイクの睨み付けに思わず怯んでしまった。
アイクの暴走は止まらずどんどん話が進んで行く。


「姉貴に恋人が出来るなんて、俺は認めんッ!」
「お前どんだけシスコンなんだよ、いい加減姉ちゃん離れしろっつの!」


姉を取られたくない弟のワガママ。
ライはアイクの行動をそう思っているようだが。


「あのな、ミコトの立場は、いつまでもお前の姉貴ただ1つだけって訳じゃないんだぞ。恋人が出来て、結婚して……って当たり前の事だろ」
「俺は嫌だ」


余りのシスコンっぷりにライは遂に呆れた。
図体のデカさに似合わぬ子供っぷりだ。
大体この年頃と言えば、家族に反発したりする時期ではないのだろうか。
特に異性の家族ともなれば尚更だ。

両親が死んで姉と妹と3人だけで残されたのだから結び付きが強くなるのも分かるが、これはちょっと異常ではないだろうか。
ライは場の雰囲気を変えようと笑顔で口を開く。


「アイクお前、シスコン男は女にモテないぞー。今から治しとけよ」
「姉貴以外の女にモテるなんてゴメンだ」


……ん?

何だか今、物凄い爆弾発言を聞いた気がして、ライは笑顔のまま硬直して冷や汗を流す。
気のせい気のせいと心中で自分に言い聞かせつつ今の言葉をスルーした。


「なぁアイク、オレ達親友だろ。友の恋路を応援してくれても良くないか?」
「そっちこそ、親友ならどうして俺の恋路の邪魔をするんだ」


……ん?

またまた爆弾発言を聞いた気がして再び笑顔で硬直するライ。
さっきから続くアイクの爆弾発言に、ある可能性が浮かんでしまった。
いや、まさか、と心中で否定しつつも、やはりあの会話の流れでは……。
直接自分の口に出すのが恐ろしくなったライは、遠回しにアイクへ尋ねてみる事にする。


「な、なぁアイク。オレ、お前の恋路の邪魔なんかした覚え無いんだが……」
「じゃあどうして姉貴に近付くんだ。邪魔しないんだったら姉貴から離れてくれ、今すぐ」
「……」


決定的だ。
いや、アイクも直接的には言っていないが決定打は命中してしまった。


「お前さ、まさか、本気でミコトの事を……?」
「本気だ。遊びなんかじゃないぞ、断じて」


訊きたいのは本気か遊びかではなく、本当に本気で実姉に恋をしているのかだったのだが。
言ってくれたから、それはもう構わない。
だがライが、そんな事で納得する訳も無く。


「ア、アイク、実の姉弟なんだぞお前ら!」


本来ならば何よりも先に気にしなければならない事だ。
実の姉に恋をしたなど、世間に認められる訳が……。
いや、ベオクとラグズよりは風当たりが少ないかもしれないが、世間の目は決して甘くはない事をライは知っている。
しかしアイクは何一つ気にする様子も無く、実に彼らしくキッパリと言い放った。


「姉弟だろうが何だろうが関係ないし、気にしない。俺は姉貴が好きなんだ」
「……」


……アイクは種族で差別をする事が無く個人は個人で見る事が出来る男だ。
ベオクだろうがラグズだろうが気にしない、そいつ個人を気に入るか気に入らないかで判断する。
それにはライも非常に好感を持ち、いいヤツだと思っていたのだが。

姉だろうが弟だろうが気にしない、ミコト自身を好きか嫌いかで判断する。
まさか、まさか本当に、そこまで“気にしない”男だったとは……。


「……気にしろよォ……」
「気にするな」
「オレ自身じゃなくてお前に気にしろっつってんだよ!!」


何だか突っ込み疲れて来てしまった。
このままでは流されに流されて、ミコトとの事が無かった事にされてしまいそうで……。

……そこで、ライはハッとした。
いくらアイクが気にしないからと言って、ミコトまで気にしないとは限らない。
実の弟に好かれるなんて困るに違いない!


「おいミコト、お前アイクに好かれたら困るよな!」
「……果物……」


俯いたミコトの呟くような低い言葉に、ライはビックリして彼女を凝視する。
折角、美味しい果物を食べる機会だったのに、何故かぶち壊された。
その事でミコトはアイクへ文句を言い出す。


「もうっ! 2人とも、さっきから何を言ってんのよ!」
「姉貴はライに狙われてるって分からないのか!」
「ライはただ、果物を採って来てくれただけでしょ!?」
「だからそれが……」


言い争う姉弟、ライは何だか違和感ばかりを感じて落ち着かない。
だが確認しなくては始まらないので、半ばビクつきつつもミコトに尋ねる。


「なぁミコト」
「え……なに?」
「お前さぁ、オレとアイクの会話、聞いてたよな?」


聞いていた筈だ。
ミコトの眼前で会話していたのだし、彼女は別に眠ったりもせず言い争うアイクとライを見ていた。
ライの恋路だのアイクの衝撃告白だの、全てを聞いていた……筈だが。


「今そんな事は気にしてらんないの! 果物食べさせてよー!」
「……」


まさに衝撃的な宣言。
目の前で自分を取り合う男2人より果物を食べる事が優先されるとは……。

弟が弟なら姉も姉。
ミコトまでもが“気にしない”女だった……。
しかも違う方向に。


「色気より食い気な姉貴も俺は好きだ」
「そんな事より、さっきの果物どうすんの!?」
「……あぁー……。ミコト、またオレが採って来てやるからさ」


もうこうなってしまっては仕方ないと、ライは腹を括る事にした。
想い人と恋敵がどちらも“気にしない”タイプの者なのだから、自分も“気にしない”ようになるしかない。
そうしなければ、とてもついて行けないのだ。


「ホントに!? 有難うねライ!」
「姉貴、果物くらいなら俺が採って来てやる」
「あー、無理無理。ベオクじゃ登れないような所にあるからな」
「何だと……本当に出来ないとでも思うのか?」
「ちょっとアイク、無理して無駄な怪我なんかしないでよね」


目の前にある全てを受け入れるしか道はない。
ライは覚悟を決めた……。

気にしない、気にしない。





*END*



戻る
- ナノ -