短編夢小説
かたっぽ



主人公設定:アイクの姉
その他設定:スマブラ



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彼女は、僕にとって嬉しくない言葉を何度も何度も口にしている。
でも悪気が無いどころか誉め言葉な為に、やめて欲しいと言えない。


「ほーんと、あたしの弟もマルス君みたいだったら良かったのになぁ」
「僕、ですか?」
「うん。優しくて礼儀正しくて爽やかで、うちのアイクとは大違いだよ。ねぇマルス君、今日からあたしの弟にならない?」


ミコトさんは頻りに僕へ、実弟のアイクとは大違い、弟にしたい、弟になってくれとそればかり。
彼女に恋い焦がれている僕からしてみれば不本意な事この上ない。
だけどついつい文句も言えずに微笑みを返してしまうのは、ミコトさんに嫌われたくないから。
それに弟という立場になりかけているとはいえ、親身な感情を抱いてくれている事に変わりない。
だからこの関係を絶対に壊したくない、今のままで居たいと臆病になってしまって、反抗も告白も未だ出来ないでいた。


「弟になってくれるなら漏れなく、あたしとチーム戦が出来ちゃったりしてー」
「弟にならなくてもチーム戦は出来ますよ。じゃ、行きましょうか」


これで彼女は“素”らしいから、始末に負えない。
ミコトさんに出会ってから既に数ヶ月、僕がこんな調子だから進展なんてある訳がない。
そろそろどうにかしないとなぁ……なんて考えていた矢先に、ミコトさんから声を掛けられた。


「やぁマルス君、おっはよー。今日も可愛いね」
「……おはようございます」


そんなセリフを僕がミコトさんに言えたら、どんなにいい事か……。
って恥ずかしくて堂々とは言えないけれど。

彼女の用件は、今日とつぜん用事が出来てしまったから、自分の代わりに予定していた乱闘に出てくれないかというもの。
1つだけだったし何よりミコトさんの頼みとあっては聞かない訳にいかない。
僕は彼女を見送って代わりに乱闘へ出掛けた。

……で、何というか。
何の因果か対戦相手の中に彼が居た。
あの、その、僕が想ってやまない女性の弟さんが。
調子が出なくて負けてしまったけれど、様子が違って見えたのか彼は心配して事情を訊いてくれた。


「……言ってもいいのかなぁ……。アイクさん、絶対に怒ったりしないで下さいよ」
「分かった、聞くからにはちゃんとする」


一抹の不安は感じたけれども、一番のアドバイスをしてくれるとしたら、やはり小さな頃から彼女と一緒に居る弟のアイクさんしか居ないと思う。
思い切って相談してみたら、思いの外親身になって乗ってくれる彼。


「なる程、姉貴は普段から期待させるような事を言うわスキンシップは激しいわだからな、惚れた男としては堪らんか」
「そ、そんなストレートに言わなくても……。でもその言い方だと、やっぱり彼女は僕を意識している訳じゃないみたいですね」


さすがにスキンシップはそう多くないが、期待させるような事はちょこちょこ言われた事がある。
まぁ…弟扱いされている以上、期待も何もあったものではないけれど。
それを伝えると、アイクさんはキョトンとした後くつくつ笑い出してしまった。
何も笑われるような事をした覚えがないので、僕はちょっとだけムッとして、何ですか、と不機嫌を露わにして訊ねてみる。


「僕、何か変な事でも言いましたか……?」
「いや、実は、姉貴はアレで素直じゃないんだ。想いを伝える価値はあるぞ」


思ってもなかった事を言われ、少し思考停止した。
彼女はこのアイクさんの実姉だし、彼と同じように言いたい事や思った事はズケズケ言うタイプだとずっと思っていたのに……。


「普段はそうだがな。まぁどうせ駄目で元々なんだから、当たって砕け散れ」
「砕けたくも散りたくもありません、断じて!」


でも、アイクさんのお陰で少し勇気が出て来た。
砕け散るのは御免被るけれど、思い切って伝えてみようかと、そう思った。

夕方、街へ出掛けていたらしいミコトさんが城へ帰って来た。
あんなに想いを伝えようかと思えたのに、いざ本人を目の前にしてみると勇気なんて湧いて来ない。
自分の情け無さに疲れて溜め息を吐いた瞬間、またもミコトさんが気軽に話し掛けて来た。


「元気ないぞぅ青少年、悩みがあるならお姉ちゃんが聞いちゃうぞっ」
「いえ、ミコトさんが気にする事ではないので……」


これで、「ミコトさんに恋い焦がれ過ぎて毎日非常に悩んでます」
……なんて言えたらどんなに楽か。

しかし、僕が端から見ても明らかに疲れて元気の無い風だったのか、ミコトさんはちょっと立ち去ると、冷蔵庫から出したばかりらしい冷たい缶ジュースを持って来て僕の頬に押し付ける。
最近暑いからねぇ、なんて言って、僕がバテているだけだと思ったのか。


「元気な時は大いにハシャぎ、疲れた時は大いに休むもんだよマルス少年。無理はしなさんな」
「……ありがとうございます……そうですね、僕、ちょっと休んでみます」
「いい子いい子」


ジュースを渡して僕の頭を撫でるミコトさん。
子供扱いされている感は否めないけれど、やっぱりこの関係は心地いい。
あと少しだけ、ミコトさんと親密でいられるこの関係に甘えていたいとそう思って、想いの告白は後へ見送る事にした。





*END*



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