短編夢小説
love mail



主人公設定:アイクの姉。近親愛
その他設定:ガラケー時代の現代パロディ



++++++



家の居間、ミコトとアイクが2人で居た所に携帯が鳴り出した。
ミコトの携帯が鳴っているようでメールの着信らしい。


「姉貴、携帯」

「あー、多分メールだから開けてみてー」


洗いものをしていて手が放せないらしく、代わりにアイクが携帯を開く。
どうやらミコトは携帯を他人に見られる事に抵抗は無いらしい。
が、それがアイクには面白くない。
本当は自分だけが知っておきたいミコトの事をバラ撒かれているようで。
この様子では誰かに頼まれれば簡単に携帯を見せてしまうだろう。


「姉貴、容易く他人に携帯見せるなよ。特に男には」
「はぁ? 別に簡単に見せたりしてませんー。すぐに焼き餅焼かないの」


洗い物から目を離さずにけらけら笑うミコト。
実際に焼き餅なので図星を指されてムッとするアイク。
気を取り直して彼女の携帯を開きメールを見た。
送られて来たメールに書いてあったのは……。


「アイク、メール誰から?何て?」
「……消した」


余りに勝手なアイクの行動にミコトは暫く呆然としてしまう。
その後、我に返っても当然後の祭りで。


「は……はぁ!? アンタ何を勝手に……! 大事な用だったらどーすんのよ!」
「姉貴には必要ない用事だったから消したまでだ」
「そんな事がアンタに判るの!? もうっ、それ以上弄らないで!」


慌てて食器用洗剤の泡にまみれた手を洗い、すぐアイクに駆け寄って携帯を奪い取るミコト。
確認するが本当に消してしまったらしく新しいメールは見当たらない。
しかし必要ないと判断したからには、弟は内容を読んでいる筈だ。

一体メールには何が書いてあったのか訊ねてもアイクは強情に口を開こうとしない。
意地でも言いたくないといった雰囲気だ。
その通り、アイクにとって虫酸の走る内容だった。
あんな物を姉の目に触れさせてたまるかと訊かれても訊かれても黙ったまま。
だがミコトが何度もしつこく訊いてくるので、とうとう、半ばヤケになりつつ内容を教えてしまう。


「……クラスメートか?」
「へ?」
「メールで、男から。付き合ってくれって」
「……」


考えもしていなかった内容にミコトは暫し、唖然としてしまった。
まぁそれなら弟が怒って消すのも、教えたくないと言うのも少しは分かるが。


「……でも、消す事ないじゃん。いくら何でも、返事せずに放置は……」
「返事する気なのか!?」
「NOってね!!」


早とちりで暴走しそうになるアイクを何とか押しとどめるミコト、どうやって返事しようかと考えを巡らせる。
相手の名前をアイクに尋ねたが、男と言う事しか覚えていないらしい。
大方、男からの告白と言う事が分かった時点で逆上してしまったのだろう。
まさか知っている男に片っ端から、「あたしに告白した?」などと訊くわけにはいかない。恥ずかしすぎる。


「どうしよう……」
「何て言って断る? 弟と付き合ってるからとか?」
「言・い・ま・せ・ん!」


そんな事を馬鹿正直に言ってしまったが最後、瞬く間に学校中、そして町内中に知れ渡ってしまう。
冗談じゃない、絶対に言う訳にはいかない。
妥当な断り方をするなら、好きな人、または付き合っている人が居るとか。
しかしそれだと追求された時に面倒なので、正直に恋愛対象として見れないと言うのが……。
いや、さすがにそれは酷いだろうか。
それもアリだろうが、ひとまずやめておいた。

まさか弟と恋仲だと言える訳もなく、ミコトはどうやって断るべきか考える。
それを見ているアイク、どうやら、告白を断る為とは言えミコトが違う男の事を一心に考えているのが気に食わないらしい。
彼女から携帯を取り上げてしまい、近くのテーブルに放り出した。


「ちょ、ちょっと! 何すんのよアイク!」
「姉貴、こっちに来い」


ソファーに座っているアイクが、横に立ちっぱなしのミコトを手招く。
文句を言おうとしていた所への突然の誘いに、ミコトは面食らって抗議を止めてしまった。
少々テレつつも一応は応じ、無言のままゆっくりと近付いてアイクの隣に腰掛ける。
次の瞬間、アイクに思いっ切り抱きしめられた。


「わ、わ、わ!?」
「……もういいだろ、メールで告るような奴に真剣な返事を返す必要は無い」


アイクはミコトの胸に顔を埋め、抑揚少なく呟いた。
確かにメル友ならまだしも、直接会えるのにメールで告白するのは……。
つい本気かどうか疑ってしまう。文面から本心は読み取り難い。
……直接会える者の筈だ、それ以外の人物にメルアドを教えた覚えなど無い。


「知らない人からの告白だったらどうしよう」
「まさか、ストーカーか!? そうだったらタダじゃおかんぞ、姉貴を狙った事を後悔させて……」
「落ち着いてアイク青年! 犯罪行為は絶対禁止だからね!?」


暴走しそうなアイクを止めるミコトだが、彼の言葉を聞き、本当にストーカーだったらどうしようと不安が浮かぶ。
自意識過剰かもしれないが、メールの差出人が分からない以上、不安なものは不安なのだ。

と、言うか。


「……それもこれも、アイクのせいじゃないの。あんたがメールを消したりしなかったら、差出人ぐらいは分かった筈よ」


自分がメルアドを教えた人物ならすぐに分かっただろうし、万が一、知らない者からの告白なら無視という措置を取れる。
だが知り合いか知らない者かも分からないのではどうしようも無い。


「だから……さっき言っただろうが。メールで告白なんかする奴に、真面目に返事する必要は無い」
「男友達だったらどうすんのよー、仲が険悪になったら責任取ってくれるの!?」
「あぁ。ちゃんと責任取って姉貴と結婚してやる」
「その責任じゃなくて!!」


スッ惚ける弟、ミコトは何だか突っ込み疲れてしまう。
弟の言動が本気かもしれないから、尚更。
その懸念通りアイクは真剣な表情だった。
そしてそのまま更に口を開く。


「第一、 本当に男友達だったとしても、姉貴に恋心を抱いたからには近付けさせる訳にいかん」
「……」


恋愛になんか、まるっきり興味の無さそうな弟。
そんな彼に、恋愛的な意味で好きだと言われただけで驚愕だったのだが。
いざ付き合い始めて蓋を開けてみれば、凄まじい嫉妬と独占欲を持っていた事が分かった。
普段は鈍感でニブいからこそ、いざとなったら燃え上がるような熱い恋愛をするのだろう。

自分もアイクを意識して付き合い始めたからには、その気持ちは嬉しくあるのだが。
誰にも言えない関係である以上、無闇やたらに熱い恋愛感情を出さないで欲しい。


「あんたって本当にさ……あたしの事好きだよね」
「あぁ。当然だ」
「……」


冗談のつもりで言ってもコレ。
何だかもう、何を言っても無駄な気がする。
ミコトは苦笑しながら軽く溜め息をつき、自分を抱きしめるアイクから離れた。


「心配しなくても、あたしはアイク以外を好きになったりはしないよ」


何だかんだ言いながらも弟の焼き餅に気分が良くなり、珍しく素直な気持ちを伝える。
アイクはそんな姉に驚いて呆然としてしまう。
が、すぐに持ち直して、もう一度ミコトを抱きしめた。


「わっ…! ったく、直情的なんだから」
「姉貴が素直じゃなさすぎるんだ。そんな姉貴から、こんな事を言われたら嬉しいに決まってる」
「はいはい」


本当に心底嬉しそうなアイクに何だかミコトも嬉しくなる。
苦笑と共に放たれた言葉は、どこか優しかった。


「あたしには、アンタしか居ないから」
「俺にもな。ずっと……俺が傍に置くのは姉貴だけだ」


赦されない関係かもしれないが、決意は固い。
2人は暫く、静かに抱き合っていた……。


++++++


だがこれで、全てが丸く収まった訳ではない。
肝心のメール告白の返事をどうするべきか。
アイクは相変わらず、放っとけだの無視しろだの言って取り合わない。


「知り合いだったらどうすんのよー……。告白してもシカトする、高慢な自信過剰女って噂流されるかもしれないじゃない」
「姉貴をそんな風に言う奴が居たら、俺がどうにかしてやる」


どうにか、とは、一体どうするのだろう。
この弟がそんな風に言うと、もう暴力沙汰しか思い浮かばない。


「……犯罪は勘弁して頂きたい、アイク青年よ」


うんざりと溜め息をついた所で、ふと家事を思い出したミコト。
アイクに風呂掃除を頼み自分は洗い物に戻ろうとしたのだが、弟が風呂掃除に立ち去った後、置きっぱなしの彼の携帯が目に入った。
イタズラ心を起こし中を見てみるミコト。
受信メールを覗いて楽しみ、次に送信メールを覗いてみると……。
1番新しい送信メールが何も書かれず真っ白なまま、自分宛てに送られている事に気付いた。
しかも送られた時間は、ついさっき。

うっかり何も書かぬまま送信ボタンを押してしまったのかと思ったが送り直したような形跡は無く、しかもこの時間は、確実に自分が洗い物をしていてアイクと2人で居間に居た時間だ。
近くに居たのにメールする意味が分からない。
そこへ風呂掃除を終えたアイクが帰って来た。
瞬間、ミコトが自分の携帯を盗み見ている事に気付き、慌てて取り上げる。


「何してるんだ姉貴!」
「ねぇ、その送信メールの1番新しいの……何?」


静かに発せられた疑問に、アイクはギクリとして黙り込んでしまう。
何とか誤魔化そうとするが…そうすればする程、何かあるのだとミコトは追求して来る。
やがて痺れを切らしたアイクが、謎の送信メールの正体を話し始めた。


「……さっき、姉貴にメールが来ただろ? あの告白。アレ、俺が送ったんだ」
「……は?」


聞けばアイク、初めは自分への告白メールをでっち上げて、ミコトを嫉妬させたかったらしいが……。
ふと考え直し、ミコトに告白メールが来たらどんな反応をするだろうと気になったらしい。
それでミコトが洗い物をして携帯から離れていたのを見計らい、着メロを鳴らしてメールが来たと思わせ、
彼女の目に触れる前にメールを消し内容をでっち上げたそうだ。


「……つまり、アンタの自作自演だったのね……?」
「あぁ。姉貴が珍しく素直になってくれたから、やった甲斐は充分に……」


次の瞬間、ミコトがアイクを思いっ切りひっぱたく音が響いた。
アイクの嫉妬も自分の素直な感情の告白も、全ては弟のシナリオ通りだったとは。

それから暫く、ミコトは弟に指一本触れさせず、そんな彼女をなだめ続けるアイクの姿が目撃されていたらしい……。





*ご愁傷様END*



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