短編夢小説
あこがれ



主人公設定:医療少女
その他設定:スマブラ



++++++



「あの……」


スマブラ界、ピーチ城の昼下がり。
珍しく乱闘にも行かず、メンバー達が長閑に過ごしていた広間の扉を開ける者が居た。
見ればDr.マリオの助手として働いている医療少女のミコト。
何だかオドオドした様子で、開きかけのドアの隙間から中を覗いていた。


「どうしたんだ? そんな所に居ないで来いよ」


ロイの呼びかけに、少々躊躇ってから広間に入って来たミコト。
仲間たちに注目されていると理解するや否や、深々と頭を下げる。
驚くメンバー達に彼女が言った事は……。


「ど、どなたか、わたしに戦いを教えて下さい!」
「えぇっ!?」


裏方で医療に専念するのが彼女とばかり思っていたファイター達は、そんな突然のお願いに酷く驚いた。
聞けば、何があるか分からない世の中、せめて自分の身は自分で守れるくらいにはなりたいと言う。


「確かに、ミコトは戦えないからね」
「そう言う事なら戦い方でも教えてやろうぜ」


マルスとマリオの言葉にメンバー達が頷き、ミコトは嬉しそうに笑ってお礼を言う。
かくして、ミコトの特訓が始まった。


「で、何の武器を使いたいかは決まってるのか?」


アイクに尋ねられてミコトは黙り込んだ。
戦いとは全く無縁だった彼女、武器の事なんて全く分からないのだろう。
ファイター達は次々と、ミコトの使う武器を見繕い始める。
まずはゼルダが魔法を提案するが。


「魔法は……魔力が無いと使えませんね」
「うわー、魔法使うミコトとか見たかったなー。魔女っ子プレイとか期待でき……」


アッサリと脱線するロイに一撃を叩き込んだフォックス。
彼はミコトの傍に進み出て銃を勧めた。


「戦いに慣れてないんだったら遠距離武器が良くないか? 銃とか」
「あ……」
「それなら、弓とかいいと思いますっ!」


ミコトの返答が来る前に、突然ピットが話に割り込み弓を見せた。
ムッとしたフォックスは、弓は力が要るし銃の方が早く扱えるようになるだろ、と反論する。
でも……と更に反論しようとしたピットが全てを言う前に、ミコトが遠慮がちに口を開いた。


「あの……わたし、直接攻撃できる武器がいいです」
「えっ……」


またもや、ミコトの意外な言葉にメンバー達は驚く。
まぁ本人が望んでいるのなら、叶えてあげる方がいいだろうが。
フォックスの言う通り、実戦慣れしていないなら前衛の後ろから攻撃できる遠距離武器の方がいい気もする。

しかしミコトは、我が儘をいってごめんなさいと謝罪するものの、直接攻撃の武器がいいと言って譲らない。
強く主張はしないが……、やはり直接攻撃の武器がいいようだ。
ならばどうしようかとメンバー達は更に考える。


「斧は重いだろうな。軽いやつもあるだろうが、大振りになりやすいから初心者には危険かもしれん」
「だよな、アイク。槍とかいいんじゃねぇ? 剣や斧より間合いを開けて使えるしさ」


ロイの提案に、それがいいと複数のメンバーが頷くが、ミコトは何かを言いたそうに俯いてしまう。
マルスがそれに気付き、同時に重要な事にも気が付いた。


「皆、槍もいいかもしれないけど誰が教えるんだ?」
「え」


そうだ、重要な事を忘れてしまっていた。
ミコトに戦い方を教えるのだから、その武器を使える者が居ないと話にならない。
アイクは剣と斧、マルスやロイは剣…と考えていっても、槍を使える者が居ないのはすぐに気付く。
そんな事にも気付けなかった恥ずかしさにメンバー達は黙り込むが、ぽつりと、ピーチが口を開く。


「と言うか、私たちは普通に剣使いが多いんだから、最初っから剣にすれば良かったじゃないの」
「……」


そんな事にも、気付かなかった……。

ミコトが使えそうな剣と言う事で、マルスが自分の細身の剣・レイピアを彼女に渡す。
後は誰に教えて貰うかだが。
レイピアを渡した直後、マルスが真っ先に名乗り出た。


「ミコト、僕が教えてあげるよ。これでも戦争を勝ち抜いて来たからね」


確かに、教えて貰うのならば実力のある者に頼むのが1番いい。
じゃあお願い…と頼もうかとした瞬間、ロイが2人の間に割り込んだ。


「それならオレだって! 戦争を勝ち抜いたし、将軍だったんだぜ!」
「え、そうなんだ! 凄いねロイ」


思えばミコトは、彼らが元居た世界でどんな事をしていたのか知らない。
ロイの言葉に感心して彼を賞賛するミコトに、何となくムッとしたらしいアイクが割り込んで口を挟んで来る。


「それなら俺だって、将軍になった事ぐらいはある。俺は傭兵団の団長なんだ、ロイやマルスより遥かに多く戦ってきているぞ」
「へぇ、アイクって傭兵団長さんだったんだ!」


今度はアイクの方を賞賛するミコト、そんな彼女を見たロイとマルスが、突然ミコトを引っ張って外へ出たのはすぐだった。
他の剣使いには、口を挟む隙を与えずに……。



ミコトを引っ張って庭へ出たロイとマルス。
後を追って来たアイクも加わり、ミコトを前に睨み合いが始まる。
大方、ミコトに特訓してあげるのは自分だ…とでも言いたいのだろう。


「あ……あの……」
「悪ィなミコト、もうちょっと待っててくれ!」


挟もうと開いた口もロイに止められ、もう途方に暮れるしかない。
どうしようか迷っていると背後から軽い足音が聞こえてきた。
ロイ達3人は全く気付いていないようで、ミコトが恐る恐る振り返るとそこに居たのは……。


「メタナイトさん……!」
「ミコト、まずは間合いを確認するんだ。どのくらいの距離ならば対象に当たるのか、分かっていなければ武器の意味が無い」


いつの間に庭へ来ていたんだろうと考えるが、彼が教えようとしてくれるのだから余計な事は考えるべきではないだろう。
確かに、直接だろうが間接だろうが、言うなら爆弾などの兵器だって相手に届かねば意味は無い。
それは腕の長さや刃の長さによって全く変わる。
取り敢えず手近にある柵を叩いてみようと、ミコトはレイピアを振り上げて思いっ切り叩き付けた。

……振り上げた瞬間、メタナイトが
「待つんだミコト!」
と、言ったような気もしたのだが……。

止める事など間に合わず、レイピアは勢い良く振り下ろされてしまった。
しかし剣を持った事など初めてのミコト、柄を握る力が足りなかったのか、レイピアは振り下ろされた勢いのまま彼女の手を離れて飛んで行った。
そしてミコトをほったらかしにしてまだ言い争いを続けていた、ロイ・アイク・マルス達の中央の地面に思いっ切り突き刺さる。


「……」
「ごっ……ごめんなさい」


呆然とするFE3剣士。
彼ら以上に驚いて顔を青ざめさせるミコト。
暫く時間が止まってしまう。
その後、我に返った彼女が慌てて駆け寄り、地面に刺さったレイピアを抜こうと手をかけた。


「待って、ミコト……!」


マルスが止めるのも間に合わず、ミコトは思いっ切り力を込めて(そうしないとビクともしない)レイピアを引き抜く。

……勢い良く抜けた剣は、刃が周りに居たFE3剣士スレスレに動いた。
再び呆然とする4人、隙を見てメタナイトがミコトの手にあるレイピアを奪い、それでようやく時間が再び動く。


「お前、ひょっとして運動神経鈍いのか?」
「う……。多分、そうかもしれない……」


アイクに手の甲で軽く頭を叩かれ、ミコトは恥ずかしそうに俯いた。
まぁこれくらいならば、この先、鍛錬すれば何とかなりそうだが。


「わたし、よく何もない所で転ぶし階段で1段とばししたら絶対踏み外すし、この前は普通に庭を散歩してただけなのに、いつの間にかお堀に落ちてるし……」
「やめとけ」


まさかそこまでとは思っていなかったようで、FE3剣士とメタナイトは迷わず彼女を止めた。
そんなミコトに武器を持たせては、逆に彼女の身が危ないような気がする。
いや、絶対に彼女の身が危ない。確実に護身どころじゃなくなる。


「まぁ、ほら、人には得手不得手があるから」
「……」


苦笑しながら慰めるマルスに、ミコトは落ち込んでしまう。
しかし何故、彼女は急にこんな事をしたがったのだろうか。
自分の身は自分で守りたいとは言っても……。
しかも直接攻撃の武器。
さり気なく訊いてみるとミコトは……。


「……なって……から」
「え?」
「なんだ?」


顔を赤くして恥ずかしそうに俯いてしまった彼女。
絞り出した声は小さくて、あまり良く聴こえない。
何を言ったのか、4人が更にミコトへ近付くと彼女は…。


「ロイもマルスもアイクもメタナイトさんも……。凄く強くて、剣を使って戦っていたのが本当に格好良かったから。だから憧れて、わたしもちょっとくらいは近づきたいなって……思って」


ミコトにそんな事を言われて嬉しくない訳がない。
思わずニヤつきそうになるのを何とか抑え、彼らは落ち込むミコトを慰めに入った。
まずはロイが彼女に声を掛ける。


「ミコト、そんなに落ち込むなよ。戦えなくたってお前がドクターの助手として働いてくれて、みんないつも助かってるんだし」


すぐに、なぁマルス、と振られ、少々呆気に取られながらもマルスはロイの言葉に頷いた。


「さっきも言った通り、人には得手不得手がある。ミコトはミコトの出来る事をやればいいんだよ」
「ロイ……マルス……」


嬉しい言葉に、ミコトの表情が自然と綻ぶ。
その様子を見ていたメタナイトも口を開いた。


「憧れ……か。こちらとしては、ミコトに憧れたりしているのだがな」
「わたしに……?」


ミコトはDr.マリオの助手として働いている。
怪我や病気をすれば、必然的に彼女に接し世話をされる事になる。
そんな時、彼女の笑顔や励ましの言葉にどれだけの者が救われるか。

何も武器を持って戦線に立つ者だけが「戦っている」と主張できる訳ではない。
彼女のように縁の下で支える者も、戦士たちと共に戦っていると……そう言える。


「でもわたし、何かあっても自分の身すら守れない。どうしたらいいの?」


ミコトはどうにも不安げ。
そんな彼女を更に励ますように、アイクがミコトの肩に手を置き言う。


「不安か? なら俺たちがお前を守る。俺たちの剣術はお前も認めているだろう、安心して守られろ」
「アイク……」


こんなにも、励まして支えてくれる。
戦いは無理だったが、こんな彼らを支える事が出来るとは幸せな事だ。
ミコトは落ち込んだ表情を消して完全な笑顔になると、4人へ礼を告げた。


「ロイ、マルス、アイク、メタナイトさん……。本当に、ありがとう」


そんなミコトに4人も笑顔で応える。
自分が出来る事を行い、大切な、憧れさえ抱く仲間たちを支えられるのはとても幸せな事。
ロイ、マルス、アイク、メタナイトの4人と一緒に城へ戻りながら、ミコトは現状の幸福に気付き、それをじっくりと噛み締めていた。


++++++


「なぁ、ひとついいか」


ピーチ城の広間へ戻って来たミコトと4人の剣士を見て、リンクはピットに話し掛けた。
実はこの2人、ミコトたちの様子をコッソリ覗いていたのだが。


「何ですか、リンク先輩」
「ミコトがさ、“ロイもマルスもアイクもメタナイトさんも……。凄く強くて、剣を使って戦っていたのが本当に格好良かった”……って言ってたよな」


よく、そんな一字一句違わずに覚えているものだと感心するが、今はそれどころではない。
それがどうしたのかと、ピットが更にリンクの言葉を待つと、彼は。


「何で、その憧れの対象の中に、同じ剣使いの俺とお前が入ってないんだ?」
「……」


敢えて触れないようにしていたのだが。
こうやって真っ正面から突き付けられると無視もできない。
ピットは気まずそうに目を逸らすと、ぽつりと、ただ一言を洩らした。


「……忘れられてるんじゃないですか? 僕もリンク先輩も」
「……」


切ない。非常に切ない。
そして虚しい。


「ざーんねんだったなぁ」
「!?」


突然響いた声に振り返れば、
ニヤニヤと嫌な感じの笑みを浮かべるロイが居た。


「かわいそうになぁ、まさかミコトに忘れられるなんて」


調子に乗るロイにリンクはすぐさま文句を言おうとするが、そこへマルスが割り込んで来た。
彼はロイとは違い困ったような笑顔で、リンクとピットを慰める、が。


「まぁまぁ。ミコトに忘れられたからって、そんなに落ち込む事ないよ」
「マルス先輩、あんまり慰めになってません」


全く悪気も無く追撃してくるマルスに、ピットはうんざりとした様子で溜め息をついた。
しかし……その追撃は、更にやって来たアイクの言葉で必殺の一撃となる。


「ああやってメンバー全員の世話を焼くミコトに忘れられるとは。お前らは余程印象が薄いか、忘れたい程印象が悪いかのどちらかだろうがな」
「ぐっ!!」


余りのショックに、リンクとピットが崩れ落ちる。
哀れになったのか、マルスがミコトを呼び、何故憧れている剣士にこの2人の名が上がらなかったのか尋ねてみると。


「ロイ達の剣筋がお父さんに似てて、それで憧れたからよ。リンクやピットのはお父さんと違う」
「……お父さん?」


意外な単語に、周りの剣士たちは固まる。
聞けばミコトの父は、有名な剣士だったようで……。
それこそ、彼女の運動神経の鈍さが信じられない程に。
リンクとピットはホッとして、父親の影を重ねられなかった事を喜ぶ。


「良かったなお前ら、お父さんだってよ!」
「先輩たち、しっかりとミコトさんのお父さんとして頑張って下さいね!」


明らかに茶化して来るリンクとピットに、ロイ達は微妙な顔をする。
しかし、満面の笑みで
「ロイもマルスもアイクもメタナイトさんも、本当に凄く格好いい!」
と話すミコトを前にすると、文句も不満も言えなくなるのだった……。





*ご愁傷様END*



戻る
- ナノ -