短編夢小説
強敵との戦い



主人公設定:医療少女
その他設定:スマブラ



++++++



「きゃあああっ!!」


穏やかな昼下がり、スマブラメンバー達が暮らすピーチ城に絹を裂くような悲鳴が響いた。
今日は乱闘を断り城内で過ごしていたマルスは、それを聴きハッとして辺りを見回す。
今の悲鳴は間違いなくミコト。

マルスは愛剣ファルシオンを手にしてミコトの部屋へ向かうが、辿り着いてノックしてみても彼女からの返事がない。
心配になって躊躇いがちに扉を開けるが、そこに彼女の姿は無かった。
すぐにミコトを探して城内を駆け回るマルス。
悲鳴が聴こえたからにはグズグズしていられない。


「ミコト…どこに居るんだ、返事をしてくれ!」
「マルスっ!」


広間へ近付いた時、中からミコトが出て来た。
酷く怯えた様子の彼女は出て来るなりすぐにマルスへ抱き付く。


「お願い、助けて!」
「誰か居るのか!?」


すぐにミコトを下がらせ広間へ入るマルス。
剣を構えて辺りを見回すのだが、隠れたのか誰も見あたらなかった。
用心しながらゆっくり足を進めるが……瞬間、何かが目の前を横切る。

黒い影が、1、2……見る限り3つも。
その影の正体が何なのか掴んだ瞬間、ついにマルスまでもが悲鳴を上げる。
その影の正体、それは。


「うわあああ!? な、何でゴキブリが3匹も居るんだっ!!」


恐らく、最強の敵……。

3匹とも厚く敷かれた絨毯の上に降りた。
今は様子を窺っているのか少しも動かない。
その黒光りする物体を認識した瞬間、マルスが鳥肌を立てて動かなくなる。


「ね、ねぇ……。もしかしてマルスも?」
「……うん。僕、駄目なんだよ、ゴキブリ」


顔を見合わせ、やがて溜め息をつく2人。
ゴキブリは平気な人は平気だが駄目な人はトコトン駄目なもの。
殺虫剤を取りに行きたくとも、目を離した隙にドコに居るのか分からなくなるのは怖い。


「やだあぁ、ほったらかして、忘れた頃に出て来られるのも嫌だし」
「倒すしかないな……!」


倒す、とは、また大げさな物言いだが。
しかしゴキブリが大の苦手なマルスとミコトにとっては、それ程の一大事なのである!

どうやって「倒す」か……、やはり潰すしかないのか。
思わずゴキブリを潰した所を想像して鳥肌を立てる二人。
取りあえず潰すにしても何か道具が必要だ。
何か厚い物でも無いか…辺りを見回すと、テーブルの上にやたら分厚い本を見つけ、ミコトがコッソリと取りに行く。


「ねぇマルス、この本なんてどうかしら」
「えっ……うわぁ、これはまた分厚い本だね。一体何の本なんだい?」
「えっと、大乱闘スマッシュブラザーズX……」
「はいストーップ!!」


それは駄目だ。
絶対に駄目だ。
スマブラXの攻略本なんか見ていません、とばかりに目を逸らすマルス。
すると視界に黒い物体が入るが……いつの間にか、それが2匹に減っていた。
ドキリとした後、冷や汗が流れ落ちて行く。


「ねぇミコト、あと1匹どこに行った?」
「え……」


やはり何度確認しても2匹しか居ない。
もの凄く嫌な予感に支配されつつゆっくり辺りを見回すと、何かがポトリとマルスの目の前を落下した。
思わず視線を落とすと……足元には、生理的嫌悪感抜群の黒い悪魔……。

それを確認した瞬間、またも二人が悲鳴を上げる。
たかだか数センチの虫に絶叫して逃げ回るゲームの主人公(戦争を勝ち抜いた実績付き)というのもなかなかお目にかかれないような気がする。
まぁそれはシステム的な話なので置いておくが。
ミコトとマルス、何もかも忘れて広間を飛び出し、扉を固く閉める。
荒い息を吐きドキドキと高鳴る胸を押さえた。


「もうやだ……。皆が帰って来るの待とう?」
「……」


腕に抱き付きながらそう言うミコトに、マルスは今自分がかなり格好悪いのではないかと考える。
虫数匹を相手に逃げ腰、しかも悲鳴を上げてぎゃあぎゃあ騒いで逃げる。
よく考えなくともめちゃくちゃ格好悪い。
これじゃ駄目だ、少しはミコトにいい所を見せなればと意を決し、マルスは広間の扉へと近づいて行った。
この扉を開ければ、史上最強の悪魔が3匹も待ち構えているのだ!

ミコトも緊張の面持ちで勇気ある行動に出たマルスを見守る。
これでマルスがどうにかしてくれたら彼を勇者と讃えようかと考えつつ。
やがて固まっていたマルスが、勢い良く扉を開いた!

が。

響く羽音、3匹の悪魔が邪魔者の居なくなった広間で悠々と飛んでいる。
それを見たミコトとマルスは、鳥肌を立てながらぞわりと体を震わせすぐに扉を閉めた。
そして、一仕事終えた後のような爽やかな笑顔で顔を見合わせ……。


「よしっ、殺虫剤を探しに行こうか、ミコト!」
「そうね、マルス!」


対史上最強悪魔用の最終兵器を探しに行った……。


そして殺虫剤を探し出し広間に戻った2人。
もう1度扉を開け、今度は強気に兵器を構える。


「これで終わりだ悪魔!」
「マルス頼もしいっ!」


殺虫剤を掲げながら宣言されても余り格好良くないと思うが。
ゴキブリを前に怯んでしまったミコトは、そんなマルスが格好良く見えてしまうようだ……。



マルス:Lv.30
装備:殺虫剤(E) ファルシオン
支援:ミコト

VS

ゴキブリ:Lv.20
技:飛びかかる
特性:嫌悪感



今、戦いの火蓋が切って落とされる……!



マルスの攻撃!▼

「食らえ!」

しかし、ゴキブリは攻撃をかわした!
ゴキブリの反撃!▼

「と言うか逃げたわ!」

ゴキブリは逃げ出した!
しかし失敗した!

マルスの再攻撃!
必殺の一撃!▼

ゴキブリを倒した!
20の経験値を得た!▼


「ててててーてーてーてっててー」
「なぜFFなんだミコト!? と言うか色んなゲームが混ざってたような気がする」


だが、これで広間の平和が守られた。
悪魔は死んだのだ!


「やったマルス、本当に怖かったの。助けてくれてありがとうね!」
「うん、これでもう大丈夫だからね。でもそんな大げさにお礼言わなくてもいいんだよ、たかだか虫1匹倒したぐらいで……」


そこでふと、マルスはある事を思い出した。
瞬間さっと顔を青ざめさせ殺虫剤を握る手に力を込める。
それに気付いたミコト、どうしたのか訊ねようとしたが……、瞬間、視界の端で何かが蠢いた。


忘れていた。

敵は、3匹だ……。


「うわあぁぁコッチに来たぁぁぁっ!!」
「やだやだやだ、もう来ないでーっ!!」


悪魔を倒した勇者と彼を見守った少女は、再び、ただの村人に戻って悪魔から逃げ回るのだった……。


++++++


やがて仲間達が乱闘から帰って来る。
広間へ向かうが、扉の前にミコトとマルスが座り込んでいるのを見つけ、リンクが不思議そうに声を掛けた。


「マルス、ミコト。どうしたんだ」
「あぁリンク先輩……。今は広間に入らない方がいいと思いますよ」
「広間に入ったら、体に悪影響があるかも……」
「??」


何だか気になったピットが広間の扉を開け、そっと中の様子を窺う。
……瞬間、頭が痛くなる程の異臭がして、思わず鼻と口を塞ぎ扉を閉めた。


「ちょっと先輩! 何なんですかあの臭い!」
「……殺虫剤」
「殺虫剤?」


残り2匹のゴキブリの存在を思い出した後、逃げ回ったミコトとマルスはヤケになってしまう。
窓を開けると広い部屋中に殺虫剤を撒き散らし、すぐに広間から出て扉を閉めたのだった。
マルスとミコトは顔を見合わせて軽く笑う。


「もう悪魔退治は懲り懲りだね、ミコト……」
「そうね……なんて強敵だったのかしら」


疑問符を浮かべる仲間達にも薄い笑顔を向け二人は疲れたように告げる。
結局仲間達は、臭いが収まって広間に入るまで、2人が何をしていたのか分からないのだった……。





*END*



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