セルシュは、スマブラファイターの仲間たちと知り合ってから、こんな調子を崩していなかった。
仲間との間に壁を作り、気を許そうとしない。
サムスはずっと、そんな態度で一人で居ようとする彼女が気になっていた。

まるでファイターの一員になる前の自分に、よく似ていると思ったから。
それまでずっと一人で戦って来たサムスは、今のセルシュのように、己しか信用できない質だった。
ファイターの皆と出会えた事で変わる事が出来たサムスは、セルシュにも勇気を出して変わって欲しいと思っている。


「……取り敢えず、その部屋に向かうとしよう」

「はい」


再びエレベーターで上まで昇り、右手の奥にある部屋を目指した。
本館へ向かう道もこちらにあるから、丁度良い。
扉の両脇の壁に背をつけて銃を構える二人。
サムスが扉を開いて、セルシュも彼女と共に隙無く銃を構えつつ突入した。
暗い部屋、どんな物があるか分からない……。


「……サムスさん!」

「なっ、これは!」


電気が走って少し明るくなったかと思うと、そこにはファイターの一員であるピカチュウが、筒状の装置に入れられて電気を吸い取られていた。
すぐさまサムスがプラズマウィップで筒のガラスを割ってピカチュウを助け出す。


「いたた……サムスさん、セルシュさん、どうもありがとう」

「ピカチュウ、お前は確か1週間ほど前から、修行の旅に出ると言って城を留守にしていたじゃないか。一体どうして」

「う……ん。奴らに捕まっちゃったんだ。あのロボットや変な人形に」

「人形……?」

「何だかよく分かんないんだけど……」


ピカチュウを捕まえて補助電力の供給に利用するなんて絶対に許せない。
サムスは少々辛そうな彼を見ると怒りがこみ上げてきた。
……が、それをぶつける相手はすぐやって来る。


「サイレンが鳴り始めましたね。きっと今からロボット達が集まって来ますよ」

「望むところだ。ピカチュウ、戦えそうか?」

「うん、ちょっと電気の回復に時間が掛かりそうだけど、体は大丈夫!」


赤いライトが点滅し、ロボット達が続々と集まる。
セルシュとサムスにピカチュウを加えた3人は、ロボットを蹴散らしながら更に奥へ、本館を目指して研究施設を突き進む。
更に奥へ進むと周回するリフトがあり、複数の分かれ道がありそうだった。


「ここは右の扉の先と下の扉の先にあるスイッチを押さなければなりません。先へ進むにはリフトに乗って上にある扉へ入ります」

「セルシュ、お前さっきコンピューターで少し地図を見ただけで覚えたのか。凄いな」

「……いえ」


サムスに褒められても、素っ気ないセルシュ。
だがそれは彼女に気を許していないなどの話ではなく、セルシュ自身も不思議に思っていたから。
先程コンピューターで近辺の地図を見た時、数秒眺めただけで驚く程すんなりと頭に入った。
何だか知らないが、この研究施設に来てからやたら頭が冴えるようだ。

さて、敵の懐に居る以上、余計な時間を食ってしまう訳にはいかない。
右と下、どちらのスイッチを先に押せばいいのか。
行けば分かるかと分かれ道に近付くが、サムスとピカチュウが近付いても何とも無かったのに、最後尾のセルシュが分かれ道に近付いた瞬間、急にオレンジ色の矢印が現れて下を示し始めた。


「えっ、あれ? 何なのこれ。セルシュさんに反応したみたいだけど……」

「さ、さあ……?」


セルシュもそう感じた。
一体これは何なのか。
罠かもしれないが、その可能性なんてどちらに行っても同じだろう。
可能性が同じで何の手掛かりも無いなら、矢印に従ってみようとセルシュ達は下の扉を目指した。

梯子を降り、扉を潜ってスイッチを探す。
途中でロボットが集団で襲い掛かって来たりして、いよいよ重要な施設に近付いて来た感じだ。
しかし何より気になるのは、やはりセルシュに反応してオレンジの矢印が出現する事。

始めのうちは敵の張った罠かと気構えていたのに、その矢印が示す通りに進むと扉の鍵を発見したり、挙げ句には目的のスイッチを見つけたりした。
そしてやはり、サムスやピカチュウが同じ場所を通っても何も出ない。
セルシュが近付いた時のみ矢印が出現する。


「罠でもなければ間違いでもない。一体なんなんだ、この矢印は。ひょっとして何者かが私達を助けてくれているのか……」


サムスの呟きにセルシュは助けてくれそうな者の心当たりを探すが、そんな者は居そうにない。
せいぜいセルシュにエインシャント島の調査を命じた、彼女の所属する組織のボスぐらいで……。


「(……まさか、ボス?)」


そんな筈は無いと思いたいが、他に助けてくれそうな者の心当たりも無い。
エインシャント島の調査をセルシュに命じた筈のボスが、こんな風にシステムに介入できる程エインシャント島に通じているのだろうか?
ひょっとしたら自分はボスに騙されているのかもしれないと、セルシュは一人、密かに緊張した。


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