「大丈夫だった?」

「う、うん、ありがとうセルシュ姉……だけど今の、なに?」

「さ、さあ。わたしもサッパリだよ……」


気にはなるが、それを考えるのは後回しにしなければ。
セルシュはそれからも亜空軍の妨害に遭おうとする度、回復魔法の光で奴らを葬り去った。
影虫が消える様は何だか浄化されているようで、近くで見たファイターは思わず見とれてしまったり

これだけのファイターが揃えば、如何に亜空軍が大群で攻めても時間の問題。
辺りが静かになり、増援が出ない事を確認してからファイター達は一ヵ所に集まった。
そこでマルス達がマリオ達にもメタナイトから聞いた亜空軍やタブーの事を話し、マリオの方も翼の生えた少年……ピットを紹介する。

そんな情報の交換もそこそこに、話題がすぐセルシュの回復魔法に移った。
マリオが驚愕したように目を見開いて。


「それにしてもセルシュ、お前さっきのあの光……いつもの回復魔法だよな?」

「は、はい」

「まさか亜空軍を消し去るなんて、そんな力があったのか」

「わたしも今回 初めて知りました」


そもそも亜空軍なんてものを見たのも接触したのも、この戦いが始まってから。
それ以前には接触どころか存在すら知らなかったのだから、あの力に関して訊ねられても答えられない。


「だけどこれなら、戦いの面でも役に立てるかも!」

「過信はするなよセルシュ、お前はまともに戦った事が無いんだから」


リンクの心配そうな言葉は尤もで、いくら亜空軍を消し去る力があるとは言っても、セルシュに戦いの心得は無い。
戦闘のトレーニングすらした事が無いというのは実戦では心配だ。
敵の動きの予測、行動の把握、間合いや威力など、実戦では知識と経験がものを言う事が多い。
強い能力さえ持っていれば最強で勝ち続けられる、という訳ではないのだ。
ヨッシーが不安そうな顔でリンクの言葉に続ける。


「セルシュさんの能力は、ご自身の身を守るために使ってはいかがでしょう」

「積極的に戦おうとせずにって事ね。確かにその方が良いかもね……」


調子に乗って敵に立ち向かおうものなら、たちまちピンチになって逆に助けられる予感しかしない。
それに全ての亜空軍に浄化攻撃(見た目的にそう名付けた)が効くと判明している訳でもない。
また万一にでも回復役のセルシュが倒れてしまえば、代わりは居ない。
今まで通り仲間の傍で回復に専念しながら、自分に向かって来た亜空軍を迎撃するだけに止めておいた方が良さそうだ。


「(結局そうなるのか……変われないんだね……)」


セルシュはスマブラファイター達とピーチ城で暮らしながら、ほんの少し彼らとの間に壁を感じていた。
戦える彼らとそうではない自分。
いざという時は命を賭して戦える彼らと守られるしか出来ない自分。
この能力を戦いに転用できれば、その壁も消えてしまうと思ったのに……と少々、いや、かなり残念な気持ち。

そうして落ち込んだセルシュに気付いたリュカとレッドが傍まで来て口を開く。


「セルシュさん、なに落ち込んでるのさ」

「あー……もしかしたらファイターの一員になれるかもしれない、って思ったから」

「もしかしてセルシュ姉ちゃん自分の事を負い目に感じてるの?」

「あはは、正解……」


回復に特化した者はスマブラファイターには居ない。
故にセルシュは貴重な存在で、ファイター達が頼りにしてくれているのは分かる。
しかし居なかったら居なかったで、彼らならどうにかしてしまう気がする。
この亜空軍との戦いだってセルシュが居なくても立派に戦い抜くだろう。
あくまで、居てくれたら安心できるし便利で助かる、というだけの立ち位置でしかない。

そう主張するセルシュに、レッドが少し下を向いて。


「……セルシュさん。オレ、今からすっげー恥ずかしいこと言うよ」

「え?」

「本当はこんなこと言いたくない。だってすっげー恥ずかしいし」

「う、うん?」

「そんな恥ずかしい事を我慢して言うんだから信じてよ」


困惑するセルシュをよそに、よく見ると頬をほんのり染めているレッド。
少しばかり躊躇っていたが意を決したように顔を上げると、セルシュの両肩を両手で掴んで。


「オレ、セルシュさんのこと大好きなんだよね」

「……えっ」

「オレだけじゃない。リュカだってきっとそうだし、ファイターの皆きっとそうだよ」

「……」

「安心できる、便利で助かる、それだけじゃない。好きだから一緒に居たいし、危機が迫れば守りたいんだよ」


至近距離から真っ直ぐ見つめて言うレッドに、呆気に取られるセルシュ。
ややあって言われた言葉が本当に恥ずかしい……というか照れ臭い事に気付き、両肩を掴まれたまま助けを求めるようにリュカを見る。
すると彼まで。


「レッド兄ちゃんの言う事、本当だよ」

「……」

「ぼくもセルシュ姉ちゃんのこと大好きだし、皆もそうだと思うよ。ねえ」


同意を求めると、他のファイター達も頷く。
まだ初対面のピットは頷かなかったが、これだけ色んなファイターに好かれている人ならきっと僕も好きになれると思うよ、と言って笑顔。


「戦える戦えないは問題じゃないんだ。好きか嫌いか。そして皆セルシュ姉ちゃんの事が好きなんだよ」

「あ……」

「大好きなセルシュさんが、自分を居なくても良い存在だと思ってるとしたら……オレ達悲しいよ」


思いがけない所で、自分を好きでいてくれる仲間達を傷付けてしまったらしい。
セルシュは彼らの主張に、嬉しいやら恥ずかしいやら申し訳ないやら。

セルシュが感じていた壁の正体は結局、戦えない、いざという時に守られるしかない事への負い目。
自分を役立たずだと思い、ファイター達の仲間面するのが心苦しかった。
だがファイター達は皆、本当にセルシュを大切な仲間の一人に数えてくれていた。

そもそも戦えないからと言って、ファイター達は決してセルシュを邪険に扱う事も放置する事も無く、仲間の一人として大切に扱ってくれていた。
従ってこの壁はセルシュが勝手に感じていたどうしようもない、短絡的に言えば“被害妄想”。


「……ありがとう。みんな、本当に……ありがとう」


はにかむ笑顔で小さく言うセルシュに、ファイター達は微笑ましく笑う。

そんな折に聞こえて来る爆音。
何事かと辺りを見回せば遥か海の向こう、水平線の彼方に巨大な亜空間が出現していた。
この距離であの大きさとは、今までとは比べ物にならない。

やがて海の方から、ハルバードやキャプテンファルコンのファルコンフライヤーが飛来し降りて来る。
合流した仲間達と共に最後の戦いが始まろうとしていた。


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