マルス、アイク、そして新たなファイターのメタナイトから亜空軍の目的と親玉の存在を聞いたセルシュ達。
さてこれからどこへ向かおうかと話し合おうとした矢先、轟音を上げながら空を東へ向かう戦艦。
見上げたメタナイトが焦燥した声を上げる。


「ハルバード……!」

「あれがメタナイトさんの艦だったんですね、追いましょう!」


セルシュに提案されるまでもなく全員が東へ向かう構え。
ハルバードが向かった先は麓に渓谷を持つ氷山が聳える、この大陸の最東端。
そちらへ向かいながら視界に入るのは氷山上空、ハルバードがフォックス所持の母艦グレートフォックスと撃ち合いをしている場面。
氷山の麓にある渓谷へ辿り着くや否や、メタナイトがいきり立つ。


「これ以上、艦を好きにさせてたまるか……! 皆、私はハルバードへ向かう!」

「メタナイトさん、一人じゃ危ないです!」


メタナイトは引き止める声も聞かずに翼を羽ばたかせ飛んで行った。
そのまま近付いたのでは攻撃される可能性もあるため氷山を盾にしながら、軽い山登りだ。
上空では相変わらずハルバードとグレートフォックスが撃ち合っていたが、やがて2艦とも雲の上に消えてしまった。

これ以上はどこに移動する事も出来ず、取り残された一行は無為に時間を過ごす。
退屈なのに緊張と焦燥が入り混じる心を持て余したセルシュが、ふう……と息を吐いたのをリュカとレッドが見咎める。


「ちょ、ちょっとセルシュ姉ちゃん、やっぱり疲れたんじゃないの?」

「え?」

「リュカの言う通りだよ。オレは魔法とか詳しくないけど、あれだけ回復魔法を連発したのに疲れてない訳が無いと思うし」

「その事ね。大丈夫、本当に疲れてないから。亜空軍の恐ろしさも聞いたし、そんな奴らとの戦いの最中に倒れたら迷惑になるんだから、無理はしないわ」

「そう……?」


そう言ってはいるが、遺跡の中で初めて指摘されてから、セルシュはずっと疑問に思っていた。
やはり感覚として感じている少々の疲労は回復魔法によるものではなく、ただの旅の疲労。
回復魔法を使い続けて来たのに、それに関しては全くと言って良い程……いや、“本当に全く”消耗していない。
回復魔法の力自体が上がった訳ではないが、魔力は無尽蔵ではないかと思う程に溢れ出て来る。
消耗せず魔力も尽きない……一体これはどういう事なのか、自分の体に何が起きているのか。


「(そう言えば、わたしの調子が上がって魔力を消耗しなくなったのって……)」


思い返すと浮かぶのは、倒れた後に行った謎の空間で、セレナーデと名乗る謎の人物と出会ってから。
そう言えばあの人物は『重大な事をキミに教えたいんだけど』と言ったくせに何も教えてくれなかった。
意思確認をしておきたい、と言った直後にセルシュは突然リュカ達の所へ移動してしまった。
夢だったのかと思おうとしても、それだと移動した説明がつかない。
やはりあのセレナーデは実在していて会ったのも事実なのだろう……が。


「(じゃあ“重大な事”って一体なんだったんだろう?)」


もしかしてセレナーデは何かを教えようとしてくれていたのに、セルシュの方が勝手に移動してしまったのだろうか。
しかしそれは確実にセルシュの能力ではない。
あの黒い空間に移動した事からも、そういう能力があるとすればセレナーデの方だと思うが。

考えても答えが一向に見つからず、セルシュはもう一度大きく息を吐いた。
再びリュカとレッドに見られてしまったが、笑顔で手を振って誤魔化す。

……と、その時、上空から轟音。
見上げれば底部にワイヤーでグレートフォックスを括り付けたハルバードが降りて来る所。
グレートフォックスを圧し潰さんと氷山へ押し付け、破片や氷山の氷、雪がどんどん降って来る。
そしてその中に見知ったファイターが二人、セルシュ達の傍へ落下して来た。


「わあああああっ、っとっ!」

「ポポ、ナナ!?」


アイスクライマーのポポとナナ。
何とか上手いこと着地した彼らに構っている余裕も無く、影虫と言うらしい例の黒いぼわぼわした粒が無数に降って来る。
それらは亜空軍を形作り、ファイター達に襲い掛かって来た。
マルスとアイクが少し離れた所から心配そうに声を掛けて来る。


「セルシュ、君は戦えないだろう! 僕達の傍に居るかい!?」

「あー……今まで一緒だったしリュカ君とレッド君の所に居るよ! でも怪我をしたらすぐに言ってね!」

「分かった、頼りにしているぞ!」


その言葉が終わるや否や、セルシュの背後にヌッと一つの影。
振り返るとレッドのリザードンで、ひょい、とその背中に乗せられてしまう。


「え、レッド君、リザードンどうしたの?」

「セルシュさんは乗っててくれよ。敵の数も多いし少しは安全だと思うよ」

「いいの? ありがとう!」


やがてすぐ、この判断は正しかったと思い知る。
氷山の麓は深い渓谷……自然と足場が狭くなる中での、この混戦である。
リザードンに乗せて貰わなかったら攻撃を受けていただろう場面も多い。

更に戦っていると思わぬ所から思わぬ助っ人。
近くの崖の上からマリオ・リンク・ヨッシー・カービィ、そして見知らぬ白い翼を持った少年が降りて来て加勢してくれた。
人数が増えて混沌とする戦場の中、セルシュはリザードンの背中から仲間達を注意深く観察し、怪我を負った者を次々と癒やして行く。

そんな中、巨大なプリムにリュカが吹っ飛ばされてしまったのを目撃するセルシュ。


「リザードン、リュカ君の所へ!」


セルシュの言葉にすぐさまリュカの元へ飛ぶリザードン。
彼に近付いてからセルシュはリザードンの背中、側面から身を乗り出し、手を翳して回復魔法の光を湛える。


「リュカ君しっかり……、え、キャアッ!」


突然セルシュとリュカの間に割って入る一体の亜空軍。
一体どこから伸びているのか、ピアノ線のような見え辛い糸に吊るされた木製人形のような出で立ち。
確かコッコンとか言う名前の……。
リザードンが必死に首を動かして炎を吐こうとするが、この位置では身を乗り出したセルシュまで巻き添えにしてしまう。
振り上げられた奴の腕に、攻撃を食らってしまう、と思わず目を閉じたセルシュ。

いや、目を閉じようとした直前。
リュカの為に発動していた回復魔法の光がコッコンに触れた瞬間、いきなり奴がバラバラと影虫の粒に戻ってしまう。
影虫に戻ってからも光に触れていた部分は完全に消滅してしまった。

呆気に取られたのはセルシュだけではなく、悲鳴を聞いて彼女を助けようとしていたファイター達も。
まだ敵の攻撃は続いているので慌ててそちらに対峙するが、今の一連の流れが気になってしょうがない。
セルシュもすぐに我を取り戻すとリザードンを寄せさせてリュカを回復する。


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