リュカとセルシュはピーチ城を出発して、翌日に動物園の廃墟に到着した。
一体どれくらい前に閉園したのか、ひょっとすると初めからこのように作られていたのか。
寂れて風の吹き荒ぶ場所は寂しさばかり感じて、子供達の笑顔溢れるイメージの動物園とは余りにかけ離れている。
リュカの蹴ったコーラの空き缶さえ音を響かせる静けさに、リュカは前を歩くセルシュの服の裾をぎゅっと握った。


「セルシュ姉ちゃん、やっぱり、ここ、怖い……」

「大丈夫よリュカ君、わたしも付いてるから……って明らかに、リュカ君の方が強いと思うけど」

「ネス兄ちゃん、どこに居るんだろう」


そう言えば、肝心の待ち合わせ場所を決めてない。
そこまで広大な動物園ではないので探し回ればいいかもしれないが、行き違うと少々厄介だ。
ひょっとするとネスはリュカを一人にして自分を探させ、度胸試しさせるつもりだったのだろうか。
セルシュが付いて来るなんてネスは知らなかっただろうし、その可能性も無きにしも非ず、である。


「(ネス君ったら、いたずら好きなんだから)」

「う、うわっ、なに!?」

「えっ?」


突然響いたリュカの悲鳴。
振り返れば空からぼわぼわした闇のような物が落下して来ていた。
それはリュカとセルシュを取り囲むようにして多数の人形を形作る。
そして、どうするか考える間も無く新たな脅威。
地揺れのような足音と振動が辺りに響き、そちらを見れば巨大な石像がこちらへ歩いて来る。
ぽっちゃりした子供を象ったデザインなのに、両腕が不自然に長くて不気味さを醸し出していた。


「やだ、何これ踏み潰されちゃう……! リュカ君こっち、逃げましょ!」

「う、うん!」


セルシュはリュカの手を引いて巨大な石像から逃げる。
途中でさっきの人形や妙な機械が襲って来て、ヒヤヒヤしっぱなしだ。
リュカは夢中で敵を攻撃し、セルシュも微力ながら落ちていたアイテムで敵を怯ませた。
人形達さえ蹴散らしながら追って来る像から逃げ続けたセルシュ達は、前方に建物を発見する。
奥は檻で塞がれ行き止まりのようだが、石像のサイズでは入って来れまい。
そこへ逃げ込んだ二人だった………が。

石像は建物を壊しながら、真っ直ぐに追って来た。


「う、嘘でしょ!? どうしよう、この先行き止まりになってるのに!」

「え、えっと……、あ、そこのスイッチは!?」


リュカの言葉に隣の床を見ると、いかにも押して下さいと言わんばかりの赤いスイッチがある。
こんな時に迷っていられないと渾身の力で踏めば、あっさりと檻が開いた。
慌てて奥へ逃げるが先には再び檻、しかも床にスイッチが全く見当たらない。


「セルシュ姉ちゃんどうしよう、スイッチは!?」

「スイッチ、どこ!? どうしてどこにも無いの……ってああっ! 天井にスイッチがある!」


何の罠か嫌がらせか、次のスイッチは天井にあってとても届きそうにない。
辺りに踏み台に出来るような物も無く、飛び道具さえあれば……と思われるような状況である。
だが飛び道具を思い浮かべた瞬間、セルシュは以前にリュカが使っていた超能力を思い出した。


「リュカ君あれは、あの、ほら、PKサンダー!」

「あ、そうだ! ぴ、PKサンダーっ!」


リュカが放った電撃がスイッチに届き、衝撃で入ったのか檻が開いた。
そのまま進むと遂に建物から出てしまい、逃げ込んだ事は全くの無駄に。
しかし逃げなければ、踏み潰されてしまう。
二人はひたすら走り、大きな池に落ちて沈んでもいつの間にか復活している像を不気味に思いながら逃げ続けた。

が、その途中。
リュカが地面を突き破って生えていた木の根に足を引っかけ転んでしまう。


「うわっ! セルシュ姉ちゃん、待って…!」

「リュカ君!」

「どうしよう、取れな……っ! やだああ!!」


セルシュも駆け寄って外そうと試みるが、なかなか外れてくれない。
そうこうしている間にも像はセルシュ達に向かって来る。
すっかり諦めて地面に頭を伏せてしまったリュカを放っておけず、セルシュは覆い被さるようにリュカを庇った。
潰されるにしても飛ばされるにしても、二人とも無事では済むまい。
セルシュはリュカを抱きしめながらぎゅっと目を瞑り、恐怖に耐えていた。

だが次の瞬間。


「PKサンダー!」


聞き慣れた声がして石像が派手な音を立てて背中から倒れた。
バッと顔を上げた先にはネスが立っている。


「ネス君……!」

「セルシュ姉、リュカ、怪我してない?」

「うん……大丈夫、ありがとう。リュカ君ほら」


ネスにも手伝って貰って木の根を引っ張り、リュカを助け出す。
そこへ起き上がった像が襲い掛かって来るが、ネスはPKフラッシュを放って像を破壊した。
中から現れたのは、奇妙な機械と中で仰向けになっている子供のような老人のような人物。


「あれは一体……?」

「……やっぱり。ポーキー、どうして……」

「え?」


ネスがぽつりと出した呟きに反応するセルシュだが、ネスは何も答えない。
後ろ姿が少々沈んでいる風だったがすぐに持ち直すと、リュカを振り返る。


「リュカ、戦えるね?」

「え……で、でも、ぼく……あんな……」

「セルシュ姉は今リュカを守ろうと庇ってくれてたのに、男の子が女の子を守れなくてどうするんだ!」


ネスの家は父が仕事で長い事ずっと留守だ。
家に残ったのは自分と母と妹のみ、お前がママと妹を守ってやれと父から言い含められていた。
だから自分が誰かを守らなければならないという意志が強くある。
怖がるリュカを立ち上がらせて、ネスは先頭で襲い来る敵……ポーキーに対峙した。


「セルシュ姉は下がってて、さすがにあれは危ないから!」

「あ……ダメージが蓄積したらすぐ戻ってね、回復してあげるから!」


リュカを引っ張り、ポーキーへ向かって行くネス。
セルシュはそれを見守りながら、ただひたすらにリュカを心配していた。
ネスの事ならば大して心配は無いのだが、あの弱気な子が、あんな大きなメカを相手に無事で居られるのか恐くもある。
今すぐにでもリュカを隣に連れ戻したいが彼らの戦いに水は差せなかった。

ネスが率先してダメージを与え、リュカは逃げ回りつつ中・遠距離からPSIでサポートする。
やがて限界が来たのか、メカが壊れて戦いは終わった。


「ネス君、リュカ君、怪我してない!?」

「うん、このくらいなら大丈夫だよ」

「駄目よ、見せて。ちょっとのダメージでも回復してるとしてないじゃ大違いなんだから」


セルシュは有無を言わせずに、彼らに手を翳すとダメージを回復した。
ファイター達と暮らす内に彼らのような身体能力を身に付けたセルシュだが、戦闘能力は無い。
そんな彼女が今、唯一役に立てる事だった。
逃げ足と回復魔法、これならば自信がある。
ネスとリュカの蓄積ダメージを回復してしまい、一体奴らは何なのかと考えるセルシュ達三人。
見た事もない敵ばかりが出て来て戸惑う。


「乱闘ステージに設定されてるお邪魔キャラとは明らかに違うわよね…」

「とにかく、城に戻って皆に相談しない?」

「う、うん……。ぼく、早く城に帰りたい……」

「そりゃあ残念だな、城に帰ったって誰も居ないぜ!」


突然、聞き慣れない声が辺りに響き渡った。
声のした方を見れば、高く聳える岩の上に黄色い帽子の太った男。
確か彼はマリオのライバルだとかいう、ワリオだ。
奴は大きな黒い機械を抱えていてそれをこちらへ向けている。


「城の奴らは“亜空軍”に襲われて散り散りバラバラだ、今頃みんなフィギュアにされてるかもなあ!」

「亜空軍……? それに、フィギュアって」

「今からフィギュアになるお前らには関係の無い事だよ!」


そこからは問答無用で、黒い機械に充填したエネルギーを放つワリオ。
矢印の形をしたそれは触れるとマズそうで、セルシュ達は反射的に避ける。
ワリオはネスを狙っているようだが、ちょこまかとすばしっこく逃げ回る彼に痺れを切らしたようだ。
セルシュに狙いを定めるも、彼女も逃げ足が早くなかなか捕まらない。
そして矛先は、逃げ回る二人を前にオロオロしていたリュカへ向かった。


「あ……」

「リュカっ!!」


その時セルシュは、何が起きたか理解するまでに少し時間が掛かってしまう。

足が竦んで全く動けないリュカ、いち早く気付いたネスが駆け寄り、リュカを思い切り突き飛ばす。
黒い矢印型のエネルギーをまともに食らったネスがフィギュア化するまでの時間は数秒だったが、セルシュにはやたらと長い出来事に思えた。

セルシュが我に返ったのはワリオが聳える岩から下に降り、重い衝撃音を響かせてから。
フィギュア化したネスを拾うワリオ、竦んでしまい動けないリュカ。
リュカと戦闘能力の無い自分じゃ勝ち目が……!


「リュカ君、こっち!」

「え……」

「逃げるのよ!!」


急いで駆け寄り手を引いて、ワリオから、ネスから逃げる二人。
勝ち誇ったワリオの笑い声が辺りに響くが、
それさえも降り出した雷雨にかき消される程、遠くへと走り去った。


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