小さい頃、男と女は何の隔たりも無い子供だった。
それが成長するに従って段々と分類されて行き、いつしか、少年と少女へ分けられてしまう。

『子供』だった彼らが、
『少年』と呼ばれる、
『男』になるまでの階段。

自由に羽ばたいて誰かを伴い巣立ち行く彼らを見守るのも、見送るのも、そして、共に旅立つのも悪くはないだろう。


++++++


「リュカ、やっぱり北にある動物園の廃墟だよ」

「……ネス兄ちゃん、どうしてもそこじゃないとダメなの?」

「度胸をつけるには、ちょっと怖いぐらいの所が良いんだよ。じゃあ、明日待ってるからね!」


笑顔のネスとは裏腹に、不安そうに顔を歪めて彼を見送るリュカ。
スマブラファイター達の暮らすピーチ城で医務関係の仕事をしているセルシュは、その様子を見かねて問い掛けてみる。


「リュカ君、一体どうしたの? ネス君と何か約束してたみたいだけど」

「セルシュ姉ちゃん……。うん、ネス兄ちゃんに、特訓お願いしたんだ」


スマブラファイターに選ばれ登録されたものの、元来の気弱な性格の為に乱闘は負け越しのリュカ。
彼だって故郷の世界で辛い戦いを乗り越えて来た訳だが、優しさと気弱さの同居する心は、まだ少し躊躇いを呼んでいた。
この大陸の果てである北の大地には確かに、荒廃した動物園がある。
そんな場所には付き物の怪談話もちらほら聞ける陰気な場所だった。


「ネス君も一緒なら大丈夫。頑張ってね、リュカ君なら強くなれるよ!」

「……うー……」


セルシュの励ましにも、悩み恐怖するリュカ。
さすがに、これは本当に大丈夫か心配になる。
一方リュカは、心配そうに自分を見つめるセルシュを見て、ほっと心が温まるのを感じていた。
この優しい顔……かつて自分を見守ってくれていた母親のような、そんな雰囲気を感じ、つい言葉が自然と口を突いて出る。


「セルシュ姉ちゃん、お願い……一緒に来て」

「えっ……わたし?」

「う、うん…。セルシュ姉ちゃんが居てくれたら、きっと頑張れるから」


不安そうな小さきファイターのお願いは、とても断れる雰囲気ではない。
そう言えば最近は乱闘の予定が無いからと、殆どのファイターがピーチ城を留守にしていた。
見守るくらいなら何でもないだろうし、それでリュカが自信をつけてくれるなら最良だ。


「分かった、わたしも一緒に行くわ。今日のうちに出発しなきゃね」

「あ、ありがとう……!」


セルシュの了承に、リュカはようやく笑顔を見せる。
それだけでも、セルシュは同行を決めて良かったと思う事が出来た。
目指すは北、荒廃した動物園を目的地に定めて。


++++++


一方、こちらは荒廃した動物園がある地から遥か西の、小さな森の中。
空中スタジアムより更に西で、今、1人のスマブラファイターが旅行気分で旅をしている。

彼はレッド。スマブラにはポケモントレーナーの名で登録されている少年。
ゼニガメ・フシギソウ・リザードンの三匹と共に戦う彼は、久々にのびのびとした自然の中で、愛しいポケモン達と過ごしているようだった。


「うーん、もう充分に羽を伸ばしたし、そろそろ帰ろうかな。リザードン、フシギソウ、ゼニガメ、帰るよー!」


リザードンは空を飛び回り、フシギソウとゼニガメは二匹で居るはず。
3匹を呼ぶレッドだが、特に反応は無かった。
あれ? と不信に思い、三匹を呼びながら探し歩くレッドの耳に、聞き慣れぬ重々しい音が聴こえる。
何事かと見上げれば、赤い雲を纏った巨大な空中戦艦が、艦低から虫のような動きをする影をバラ撒いている所だった。


「なんだ、あれ……!? リザードン、フシギソウ、ゼニガメ、どこだ!」


焦って3匹を探すレッドは、確かに、愛しいポケモン達の悲鳴を聞いた。
それを頼りに探し回ると、緑の服に真っ黒な身体の人形が、フィギュアになったフシギソウを運んでいる場面に出くわす。
フシギソウ! と叫んで駆け寄るが、人形達はレッドの接近を許さない。
自身に戦う力が殆ど無い事をこれ程までに呪ったのは、初めてだ。


「うっ……! 駄目だ、オレじゃ戦えない……」


レッドは一旦身を引き、物陰に隠れて愛用のポケモン図鑑を人形に向けた。
この図鑑は本来、出会ったり捕獲したりしたポケモンの生体データを表示し記録する機械だが、この世界に来た事で何かしらの影響を受けたのか、ポケモン以外のデータも記録するようになった。
ランプが光り、機械の音声で人形の説明を開始する。


『【プリム】影虫によって作られた亜空軍の兵士。基本的な戦闘力は低いが数が多く、ブーメランやバズーカ、ビームソード等も使いこなす』

「亜空軍……? そんな組織があるんだ。それに影虫って、あの戦艦から落ちて来てた黒いのかな」


何にせよ、早くゼニガメやリザードンと合流しフシギソウを助けなくては。
レッドは空を飛び回っていたはずのリザードンを探して空を見上げるが、なかなか見つからない。未だ上空に留まっている戦艦を見ると、不安が募り焦ってしまう。
フシギソウと一緒だったゼニガメはともかく、なぜリザードンまで……。
そう考えた次の瞬間、聞き慣れた咆哮がしたかと思うと、空から重々しい羽音が聞こえて来た。
見上げれば、リザードンが暴れながら乱暴に飛び回っている。


「リザードンこっちだ! オレはここだよ!」


悲痛ささえ感じるレッドの叫びにも、リザードンは全く反応しない。
そのまま戦艦と共に東へ飛び去って行った。
リザードンに気を取られていた隙にフシギソウも連れ去られ、がくりと膝を付くレッド。
だが俯いた瞬間、誰かが足をぺちぺちと叩く。
目を向ければ、ゼニガメが不安そうにレッドを見上げていた。


「ゼニガメ……!」


静かな辺り、唯一残った愛しいポケモンを抱え上げ、ぎゅっと抱き締める。
尚も不安そうに耳元で小さく鳴かれ、レッドの心が奮い立った。

オレはトレーナーなんだ、いつまでもウジウジしてないで、リザードンとフシギソウを助けに行かなきゃ!


「行こう、ゼニガメ!」


強い眼差しで告げたトレーナーに、ゼニガメも真っ直ぐ応じる。
ゼニガメをモンスターボールに返したレッドは、リザードンと戦艦が消えた東へ向かった。


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