「うぉっ!?」

「自分の心配しろこのバカッ!! 何であんな無茶して庇ったの!?」

「……別にワシの勝手だろうがよ。火傷なんて痕の残りそうな怪我、嫁入り前の娘にさせられるか」

「そんな傷痕が残ったらデデデに責任取って貰う!」

「ぶふぉっ!?」

「だから私を庇って無茶なんかしないでよっ!!」


顔を押し付けたまま放たれた爆弾発言に思わず吹き出すデデデ。
セルシュは自分が言った事が分かっていないのか、さして気にしていないのか、夢中で声を張り上げた。


「……おいセルシュ、落ち着け。ワシは生きとる」

「……」

「さっさと進むぞ。ワドルディ達と合流する」

「……うん」


ようやくデデデから離れ、顔を上げたセルシュ。
デデデが無茶した事が気に入らないのか表情は沈んでいるが、今やるべき事への切り替えは出来たようだ。

鍵の掛かった扉を開け、苔やらキノコやらクリスタルやらが淡い光を放つ美しい通路を抜ける。
その間にも亜空軍の襲撃は続くが、セルシュがいつも以上に率先して敵へ向かうようになっていた。
恐らく先程デデデが大怪我しかけた事が原因だろう。


「セルシュ、もうちっと落ち着いて戦えよ!」

「デデデこそ落ち着いてるんでしょうね!? また私を庇ってさっきみたいな事するって言うなら、敵や仕掛けより先に私があんたをぶちのめして動けないようにしてやるから!」

「……やれやれ……、可愛い顔しておっかない奴だな」


そこまでセルシュがデデデを大事に思っているという事なのだろうが、これでは逆にセルシュが危ない。
それにデデデだって……。


「! 集団が来るよ!」

「ええい邪魔するな!」


ふよふよ浮かぶ金魚のような敵、中に小鳥が入った太い鶏型鎧の敵、そして先程の両手が刃になった敵。
セルシュとデデデは互いに背後を任せながら、それらを次々に打ち倒す。


「どっちが多く倒せるか勝負だなセルシュ!」

「な……望むところよ、負けないからね!」


セルシュが率先して出ようとするならばと、デデデも負けじと飛び出す。
庇っていると思われないよう勝負という体で、さり気無くサポートした。
数は多かったがあっという間に全滅させた二人は、無事にワドルディ達と合流。
ピーチ・ネス・ルイージのフィギュアも無事で、ひとまずの懸念は去った。

洞窟を抜けた先に広がっていたのは、殺風景な崖っぷちの岩場。
前方にはデデデの城があるが、あれは城というより屋敷といった大きさだ。


「あんまり大きくないね」

「だから仮置きみたいなもんだっつったろうが」

「別にガッカリはしてないよ。取り敢えずあそこにフィギュアを置くんでしょ」

「ああ。んでマリオ達が来る前に離れて別の場所に誘導、と」

「カーゴを乗り捨てちゃったの惜しいね」

「マリオ達から逃げながら戻れば良い」

「なーる」


どうやらセルシュの態度も元に戻ってくれたようだ。
かなり行き当たりばったりな計画だが、そもそもこの作戦が急拵えで行き当たりばったりなもの。
じっくり作戦を練るような時間が無かった為、仕方無い。

……しかし、だからといって敵は優しくしてくれない。
急拵えの作戦は、じっくり練られ準備された計画には劣ってしまいがち。
よもや今の自分達の行動が筒抜けな上、妨害返しをされようとしている事など、二人は知らなかった。



デデデ城の中、本当は玉座でも置きたかったであろう場所にフィギュア化したピーチ達を安置する。
あちこち引っ張り回したので薄汚れてしまった彼らの埃を払い、軽く磨いた。
そして例の、デデデの顔が刻まれた金色のバッジを装着させて行く。

……が、ルイージ、ネス、と装着した所で、あと一つピーチの分が足りない。
デデデは一頻り袖やらガウンの内側やらを探った後、自分のバッジを外してピーチに装着させた。


「ちょ、ちょっと!」

「お前もバッジを付けとるだろ。万一があった時はお前がワシを復活させてくれ」

「〜〜っ、もう、あんたってヒトはさぁ!」


デデデはこういう人物だ。
照れ屋で人前で素直に行動する事は少ないが、こういった男気に溢れたヒト。
もう、と困った笑顔で溜め息を吐いたセルシュ。

……その瞬間、デデデ城を揺れが襲った。
驚いて辺りを見回す二人だったが、ふとデデデは何かがパラパラと落ちて来る事に気付き、天井を見上げて……。


「セルシュ、逃げろ!!」

「えっ!?」


デデデに突き飛ばされ、やや離れた所へ俯せに倒れ込むセルシュ。
天井は次々とヒビが入って行き、割れた大きな瓦礫がデデデの上に降って来る。


「デデデッ!」


駆け寄ろうとしたセルシュだったが、起き上がる前に瓦礫がデデデの頭にヒットし、彼は目を回して瓦礫の下でフィギュア化。
外の明るさが射し込んで来た部屋に、クッパ率いる軍団が大穴の開いた天井から雪崩れ込んで来る。


「仲間を裏切ってまで亜空軍に対抗しようとしていたようだが、残念だったな!」

「くっ……! バレてたって言うの!?」

「オマエもフィギュアにしてやりたい所だが……亜空軍のボスがオマエを欲しているのだ」

「……は?」


あまりに突然の言葉に、セルシュは唖然とするしか出来ない。
そんな事を言われても亜空軍ボスのタブーは、ハルバード強奪現場でモニター越しに見たっきりなのだが。


「な、何で私を!」

「さあな。強いファイターであれば都合が良いだの何だの言っていたが。ワガハイの知るところではない」


クッパ軍団が迫って来る。
クッパに加えこれだけの多勢に無勢ではさすがのセルシュも勝てる見込みは薄いが……逃げる事なら出来るかもしれない。
幸いにもクッパ達は瓦礫の下敷きになったデデデ達のフィギュアに気付いていないようだ。
彼らに気付かせないよう、早くここを離れなければ……!


「誰が言いなりになんてなるもんですかっ!」

「ん? 一体だけか」

「……!」


駆け出そうとしたのも束の間、クッパの言葉に思わず立ち止まって振り返る。
彼の手にはフィギュア化したピーチが……。


「返せ!!」


思わずクッパに向かって行くセルシュ。
身軽に跳び上がって拳を降り下ろそうとするが、ピーチを盾にされ間一髪で攻撃を逸らした。
着地後はクッパに背を向ける形になってしまい、体勢を整えようとした瞬間に蹴り飛ばされてしまう。
壁へ強かに体を打ち付け、痛みに震えながらもクッパへ顔を向けた。

そこには、何やら巨大な機械を抱えたクッパの姿。
その機械がエネルギーを集めるように光り、セルシュがまずい、と思った時にはもう手遅れだった。

機械から発射される黒い矢印型のエネルギー弾。
それに体を貫かれた次の瞬間、セルシュはフィギュアとなっていた。


「じきにここも亜空間に飲み込まれる。放っておけば奴が回収するだろう」


クッパは念の為、近くの瓦礫でセルシュのフィギュアを隠した。
他にフィギュアが無いか捜索しようとしたが、偵察のパタパタからマリオ達がこの城に迫っている事を伝えられる。
諦めてピーチだけを抱え、揺れの衝撃で露になった秘密の抜け道を進んだ。

それからややあってマリオ達が追い付いて来たが、瓦礫の下のセルシュにもデデデ達にも気付く事なく、抜け道へ向かい進んで行く。
それから数時間後、デデデ城は亜空間に飲み込まれてしまう訳だが……。

亜空間から静かに現れたタブーがフィギュア化したセルシュを連れ去るのを、フィギュア化中のデデデは助けるどころか、認識すら出来ないのだった。


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