洞窟の中は煌々とランプが灯り、朽ちた柵や小屋の残骸のような物があって明らかに人の手が入っていた。


「デデデ、この洞窟こんなに装飾しちゃったの?」

「ワシではない。最初に来た時からこうなっとった」


ちなみに今はカーゴを洞窟の外に置き去り、徒歩でデデデの城へ向かっている。
降りたり登ったりと安定した道ではないので当然だ。
フィギュア化したファイター達は後ろの方でワドルディの群れが抱えている。
デデデとセルシュの役目は、彼らが安全にフィギュアを運べるよう先導する事。

ふと飛び降りた道の下、ちょっとした小部屋のようになった空間に、真っ黒な影で出来た人型の大きな敵が現れる。
両手が刃のようになっており、それを大きく振りかぶってセルシュを背後から切り付けようとするが。


「ふんっ!!」


更にその背後から、デデデがハンマーの重い一撃で敵を吹っ飛ばした。
セルシュの方は後ろを振り向きもせず、新たに現れたもう一体を倒した所。
デデデが呆れた溜め息を吐いてセルシュを窘める。


「おいセルシュ、お前今 気付いとっただろうが。避けるぐらいしろよ」

「えー? デデデならやってくれるって思ったから。実際こうして倒してくれたじゃない」

「……にしたってお前なあ」

「ほら、背後の敵を任せたから、前から来たもう一体をすぐ倒せたのよ。だから結果オーライ! 信じてるからね、デデデ!」

「お、おう」


こうして真っ直ぐに信頼を寄せられると、どうしても照れ臭くなってしまう。
目を逸らして返事をしたデデデに微笑ましくなり、セルシュは声を上げて笑った。

やがてフィギュアを抱えたままおろおろしていたらしいワドルディ達がやって来たので、改めて先へ進む。
のんびりしてしまう所だった、あまりゆっくりだとマリオ達に追い付かれてしまう。


「……カーゴ、別の所に乗り捨てれば良かったかも」

「ワシも今思ったぞ……。だがもう仕方ない、今から戻るには遅いからな」

「あー……キレたマリオとかリンクとかヤバそうだなー、戦いたくないなー」

「戦い好きなお前がそんな事を言うなんざ珍しいな」

「戦いなら試合でもルール無用でも好きだけど、仲間と殺し合いしたい訳じゃないからね」

「……ま、それもそうか」


少しだけ雰囲気が暗くなりかけたので、お互いにこの話題を切り上げた。

更に洞窟を下って行くとトロッコが2つ置いてある。
これに乗れば素早く城の近くまで行けるらしい。
フィギュアを抱えたワドルディ達を先に乗せて出発させ、セルシュとデデデはもう一つのトロッコに乗って発進した。

……が。


「ちょ、ちょっとデデデ、レールが切れてるように見えるんだけど!?」

「いかん! 飛び降りるぞセルシュ!」


前方に乗ったセルシュが異変に気付き慌ててトロッコから飛び降りる二人。
哀れトロッコは地底湖の底に沈み、間一髪で事なきを得た。
もしやワドルディ達とフィギュア化したファイター達も……と血の気が引きかけたが、もう一つのレールは切れずに先へ続いているので大丈夫だと信じたい。


「ど、どうするの?」

「仕方無い、遠回りになるが歩いて洞窟を抜けるぞ」

「レールの上を歩けば良いんじゃ……と思ったけど、こうして切れてるなら乗っちゃ危ないか」


幸いにも灯りには困らないので洞窟を徒歩で進む。
マリオ達が気になるが、トロッコが無い以上は彼らも徒歩で進む事になる筈だ。

地底湖は青く輝き、見ていると神秘的な気分にさえなって来る。
後は敵さえ居なければ楽な旅なのだが、セルシュ達に襲い掛かる敵は多い。


「こいつら、やっぱり亜空軍なのよね。生き物も機械も居るのかな」

「みたいだな。知能の無さそうな敵が多いが、こいつらが下っ端なだけという可能性もある」

「だね……私達のこと報告されないように、片っ端から倒しておこうか」


とにかく先に行かせたワドルディ達が心配だ。
早く追い付いて無事を確認しなければならない。

地底湖を進み、行き止まりに着いたら足場を伝い登って行く。
セルシュがそうして地道に登る一方、デデデは膨らんで宙を飛んでいた。


「デデデー、飛べるんだったら乗せてよー」

「お前は身軽に跳べるんだから自力で上れ」

「うわーん、自分が足場に乗ったら崩れるかもしれないからってメタボめぇ〜!」

「崩れんわ! あとメタボじゃないっちゅうとるだろうがっ!」

「上から飛び乗っていい?」

「乗った瞬間に地底湖まで真っ逆さまコースを体験したいなら勝手にしろ」

「大丈夫! 私は足場に避難するから、万一の時はデデデだけ落ちてよ!」

「ワシは決してお前を離さん!」

「クッソときめきそうな台詞で道連れ宣言された!」

「いや元はと言えばお前がワシを道連れ……というか突き落としか、突き落とそうとしたんだぞ?」


マリオ達が追って来ている。
その緊張を解そうと、セルシュ達はいつも以上に饒舌に会話していた。

カーゴに乗っていた時は走るより圧倒的に速かった為こんな緊張は無かったが、今はセルシュ達も徒歩。
万一追い付かれれば、怒りで昂っているだろう歴戦のファイター達5人を相手に戦わねばならない……勝ち目は薄いだろう。
翼の生えた子だけは知らないが、ああして一緒に居るなら戦える人物の筈だ。

高い崖を登ってしまうと、今度は真っ赤になった熱そうな壁が上から下から張り出す通路が出現。
これもデデデが言うには、初めからこんな仕掛けが施されていたらしい。
当たったら大火傷は必至。
触れないよう慎重に進み通路を抜けたセルシュ達。


「ふー、こんな危ない仕掛け、何の為にあるんだろ」

「さあな。洞窟のあちこちに何かを発掘していたような残骸があるから、盗掘者避けといった所じゃないか」

「ワドちゃん達、引っ掛かってないと良いね……」

「一応、フィギュアを持っている間は勝手に進むなと言っとるが……。吉と出るか凶と出るかは分からんな」


とにかく早く合流しようと歩を進めたセルシュ。

……瞬間、足下にカラフルな小人の敵が居る事に気付いた。
小さな棒人間のようなそれは、見た目より強い力でセルシュを蹴飛ばし……。


「セルシュッ!!」


背後の熱せられた壁に押し付けられると思った瞬間、デデデが咄嗟に飛び出しセルシュと焼けた壁の間に入り込んだ。
セルシュを襲ったのはクッションのような柔らかいものに包まれる感覚。
どうやらデデデに抱き止められたらしいが、その代わり、彼の背中が焼けた壁に押し付けられた。


「いやぁぁっ!!」


叫びながらも、セルシュは必死にデデデのガウンを掴み自分の方へ引っ張る。
抱き締められていたので効果は薄いかと思ったが、思ったより引けた。
デデデが壁から離れ、セルシュの方に倒れ込む。
それが体当たりになって近くに居た小人の敵は倒せたが、そんな事よりデデデの容態を確かめなければ。


「デデデ、大丈夫!? しっかりして!」


下敷きになったが何とか抜け出し、背中を確認する。

……分厚いガウンを羽織っていたお陰で、それが焼け焦げただけで済んだようだ。
ご自慢の背中のマークが跡形も無いが、すぐに壁から離した為に穴も開いていない。
ようやく衝撃から抜けたデデデが起き上がる。


「ふぃ〜〜死ぬかと思った。おいセルシュ、怪我しとらんか?」

「…………」

「おーいセルシュ? どっか痛めたか?」


軽く言ってセルシュに手を伸ばしたデデデ。
しかし次の瞬間、セルシュは弾かれたようにデデデへ抱き付いた。


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