激昂するリンクと、信じられず呆然とするヨッシー。
リンクは構えていた矢を放つが、運転手が居なくなれば機体が事故を起こし、荷台のピーチ達が危険になる可能性もあると判断して、機体の方を射抜き速度を落とすだけに留まった。
しかしそれでも、生身で走るよりはだいぶ速い。
去って行くカーゴを、背後からファイター達の怨嗟の声が追い掛ける。


「ピーチ達を返せっ!」

「セルシュお前、見損なったぞ! 単なる戦闘狂だったのか……!」

「セルシュさん、どうしてですか!!」


彼らはデデデを知らないので仕方ないが、言葉の対象はほぼセルシュである。
二人とも知らない白翼の少年だけは黙っているようだが、知っていれば彼も同じように口を開いただろう。

その声をバックに、カーゴの荷台の上、セルシュは俯いたまま黙っている。
彼女を巻き込んだ立場であるデデデも、何も声を掛けられず心配そうな顔で黙り込んでいるだけ。
やがてセルシュが俯いたまま、自嘲のような笑みを浮かべてぽつりと呟く。


「こういうの、分かってても辛いものね……」

「セルシュ……」


デデデは何も言えない。
協力はセルシュが言い出した事とはいえ、前にも思った通り正直に有り難かったし、止める気も無かった。
仲間に見付かった場合は避けられない事だと分かっていても、やはり辛そうだ。
たまらなくなってカーゴを止めたデデデは、荷台のセルシュを振り返る。


「やめても、構わんぞ。ワシに仲間を人質に取られ脅されていたとでも言えば、ひとまず信じてくれるんじゃないか」

「……」

「ワシなら心配いらん、一人でも大丈夫だからな!」


強気ながらも優しいセルシュを心配させないよう、デデデは得意気な顔を作る。
実際は強者揃いのファイター達を相手にするのだから、セルシュのような実力者が仲間なのは心強い。
だが彼女に辛い思いをさせてまで強制する事かと言えば……違うだろう。
しかしセルシュは何も言わない。
俯いたままデデデの方を見ようともせず……。

が、次の瞬間、顔を上げるとニッコリ笑ってみせる。


「なーんてね! ゴメンゴメン、今のは洒落にならない冗談だったね!」

「……セルシュ」

「やだもうそんな顔しないでよ、単なる冗談なのに罪悪感湧いちゃうじゃん。さ、ほらいつまでも止まってたらマリオ達に追い付かれるよ、出発進行ーっ!」


早く早く、と急かすセルシュに何も言えず、デデデは再び前を向くとカーゴを操縦し出発させる。

きっと冗談などではないだろうと、デデデはちゃんと分かっていた。
仲間に裏切ったと思われ、非難を浴びせられて辛くない訳がない。
普段は強気なセルシュも、それとこれとは話が別。

しかし彼女が心からデデデを手伝いたい、関わったのだから見捨てられないと思っているのも確かだろう。
優しいからこそ、デデデに気を使わせない為に冗談だなんてスタンスを取った。
だからデデデも、逆に彼女に気を使わせない為、騙された体で返答する。


「ったく、こんな時にキツイ冗談を言うでない、少々ビビったぞ!」

「へービビったんだ」

「少々だ少々! そんな落ち込んどるセルシュなどセルシュらしくないわ!」

「あはは! ま、あんなに怒られるって事は、皆ちゃんと私を仲間として信用してくれてたって事でしょ? だから裏切られたのがショックであんなに怒ってた。それが分かっただけでも大収穫だよ、寧ろ嬉しい!」

「……そうかよ。そりゃ良かったな、祝日頭め」

「ひっどいこのペンギン!」

「ペンギン言うな!!」


半分本当、半分嘘……といった所だろうか。
ひょっとしたらセルシュもデデデが自分の嘘に気付いていると分かっているのかもしれないが、お互いに気遣い合戦は疲れるので、もう知らない振りを決める。
今セルシュとデデデが本当にやるべき事は気遣い合戦でも謝罪合戦でもなく、完全な敗北を防ぐ為にファイターを集める事。
亜空軍の目を欺きタブーの追跡を逃れるには、マリオ達ファイターの仲間を徹底的に裏切らなくては。


湖畔には霧がかかり、視界が少し悪くなる。
リンクの攻撃により落ちた速度を更に緩め、セルシュ達は北東へ向かう。


「デデデ、これからどこに行くの? 次のファイターを探しに? あ、それならワドルディ達からの報告を待たなきゃ駄目かな」

「いいや、ちょうど近くまで来た事だし、このピーチ達のフィギュアを城へ置きに行こう。あまり大荷物だと動き辛いからな」

「城、って、まさかデデデお城持ってたの!? さすが大王の名を冠する者たちだけの事はあるぅ!」

「“者たち”の“たち”はどっから出て来た! そんなにおらんわ!」

「お城かー、ピーチ城みたいなの? それともクッパ城みたいなのかな?」

「いや……正直仮置きみたいなもんだから期待するなよ、本当に小さい」

「なーんだ」


がっかりー、なんて言いながらケラケラ笑うセルシュを見ていると、デデデは心からホッとした。
手伝わせている事への申し訳なさや、手伝ってくれている事への頼もしさ。
セルシュに対する様々な感情が渦巻いている今、彼女が楽しそうにしているだけて救われた気分になる。


「……セルシュ、ありがとうよ」

「? 今なにか言った?」

「……はぁ? 別に何も言っとらんわ、寝ぼけたか」

「寝ぼけてませんー!」


礼なら既に言っているが、ストレートな言葉で直球に告げるのはやはり照れる。
この事件が無事に解決したらその時は、礼の言葉くらいきちんと真っ直ぐに告げようと決意するデデデ。

やがて二人とフィギュア化したファイター達を乗せたカーゴは、デデデ城への近道である洞窟に辿り着くのだった。


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