デデデ大王と共に、ファイター達の何人かをフィギュア化して保存するという作戦を開始したセルシュ。
タブーに奪われる前に自分達が奪ってしまおうという、無茶と言うよりは裏切りに近い行動だ。
亜空軍に感付かれるのを防ぐため、他の仲間達には何も言わないつもりなのだから。
セルシュはいま自分達が居る大陸の地図を広げた。
取り敢えずはメタナイトの飛び去った方角へ向かう。


「まずは偵察に行かせたワドルディ達の報告を待たなきゃね。誰をフィギュア化させるかはそれからだ」

「……器用だな」


やや呆れたような声がセルシュの下から聞こえる。
今デデデとセルシュは、東へ向かって移動中。
デデデが愛用のウィリーバイク(デデデの体格に合わせ大き目)を運転し、セルシュはそのデデデの上に乗り肩車に近い状態で地図を広げている。


「落ちるなよセルシュ、大怪我でもされたらワシいたたまれんわい」

「へーきだよ、私の運動神経ってかバランス感覚? ナメないでね。しかしデデデ、見た目以上にプニプニして触り心地いいわー」

「何しとる、ふざけてないでしっかり掴まっとれ!」


こんな状況なのに……いや、こんな状況だからこそセルシュは普段通りを心掛けようと努めた。
きっと他のファイター達も事件に巻き込まれて大変な思いをしているだろう。
完全な敗北を防ぐために行動している自分達まで暗くなってしまう訳にはいかない。

それにしても、ワドルディの報告で知った、クッパ・ワリオ・ガノンドロフの勝手気ままな行動。
まあ元々彼らは、ファイター達と敵対関係にあったようだし無理もないかもしれないが、彼らこそ裏切りだ。
今から奴らと同じ事をしなければならないと思うと、かなり虫酸が走る。


「でもあいつらのお陰で、あんまり怪しまれずに済むかもしれないね。取り敢えず利用できるものは思う存分利用させて貰うよ〜へっへっへ」

「セルシュ、その悪人面は仕舞えよホントに……」


先程からデデデはセルシュに振り回され気味だ。
だがそれは、ファイター達と親しい仲であるセルシュを形だけとはいえ裏切らせてしまうという罪悪感も関係している。
それは勿論、協力はセルシュの方から言い始めた事。
しかし正直にデデデも助かると思ったし、心から止める気が無かったのも確か。
まだファイターに顔見せすらしていない自分とは違うのだからと、デデデはセルシュに対し負い目があった。

東へと向かう道すがら、ワドルディはじめデデデの部下達から次々と報告が入る。
今日マリオとカービィの試合が行われていた筈の空中スタジアムが既に亜空軍の手に堕ちた事、ハルバードが悪用され、亜空軍の運搬に利用されてしまっている事、それぞれのファイター達の居場所や向かっている方角などなど、様々な情報が。


「場所は違えど大体みんな、東へ向かってるね」

「都合良く一人行動しとるファイターは……報告があるのは、ルイージとリュカ、ポケモントレーナーのレッドに、メタナイトか」

「確認が出来てるのはそれくらいか……。早くしないと誰かと合流して事が難しくなっちゃう。ここから一番近いのはルイージだよ」

「……ルイージなあ」


デデデが微妙な顔をする。
いや、正直気持ちは少し分かるよと言いかけたセルシュは寸での所で言葉を飲み込んだ。
待て待て、とあらぬ想像をした自分を戒めるセルシュ。
ルイージだって大切なファイターの仲間、しかも大体兄と一緒とはいえ数々の冒険を乗り越えている。
戦力として充分なはずだとデデデを説得する事に。


「ほら、ルイージはあのマリオの弟だし、色々と冒険してるじゃん」

「しかしルイージだぞ、あの永遠の二番手だぞ」

「ああ……じゃあ、あれだあれ、背に腹は変えられないってやつだよ! 選り好みしてたら仲間に出来るファイターが居なくなるかもしれないし、時間だって多い訳じゃないんだから。駒は多い方が良いでしょ、早速捕まえに行こう!」


笑顔でマシンガントークばりに繰り出されるセルシュの言葉に、デデデは強引に押されながら了承。
そのやり取りを見ていたワドルディ達は、それルイージさんのこと貶してますよねと突っ込め……る訳がなかった。
デデデは再びウィリーバイクに乗り(セルシュは相変わらずデデデの上)、更に東の平原を目指す。
亜空間に包まれた空中スタジアムが左手に見え、ここからならそう遠くないはずだと確認。


「セルシュ、亜空軍が居るかもしれん。しっかり気を引き締めろよ」

「OK分かってる。でも怪しまれるから派手にぶっ飛ばしちゃ駄目だよね、隠れて……と言うか、理想は戦闘に持ち込まない事か」

「あ、そうか。戦ったら怪しまれるな」

「しっかりして大王!」


本当に大丈夫だろうか……とは言葉に出さず、見えない所で微妙な笑顔。
やがて広々とした平野に辿り着き、ウィリーバイクを降りて物陰に待機させる。
こちらも隠れて辺りを窺うと、前方にターゲットの姿を確認した。


「ルイージだな」

「ルイージだね」


見てみると彼は何かに怯えているように辺りを確認し、とぼとぼ歩いている。
どういう状況に居るのかと更に近付いてみると、もはや泣きそうな顔だ。


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