大陸の東端から動いていないハルバードを目指し空を行くセルシュとファルコ。
フォックスのアーウィンが撃墜されている現状、急がねばならない。
そんな中ファルコのアーウィンから通信が入る。


『セルシュ、グレートフォックスから連絡が来た。ハルバードとの撃ち合いに負けちまったが何とか逃げ出せたらしい』

「では母艦は無事なんですね? 良かった……。あの、フォックスさんの方は」

『あいつらもフォックスとは連絡が取れてねぇらしいな』

「……そうですか」


母艦と共にハルバードへ向かったのに、フォックスだけが状況不明。
快く送り出した事を少し後悔してしまいそうになったが、まだ確定した訳ではないと気を持ち直した。
無事だと決まった訳ではないが、無事でないと決まった訳でもない。
一度はハルバードに敗れたが何だかんだと生きていたのだから、きっと今回も大丈夫だと自分に言い聞かせた。
ファルコの方も黙ってしまったセルシュの考えが分かっているようで。


『うだうだ落ち込んでんじゃねぇだろうなセルシュ』

「そうなりかけましたが、何とか持ち直しましたよ」

『ならいい。沈んでちゃ勝てるもんも勝てないからな。心配すんな、フォックスの野郎なら何だかんだ生きてるだろうよ』


ファルコも少しは自分に言い聞かせていたのかもしれない。


歩けば一日は掛かりそうな距離も、アーウィンなら一足飛び。
大陸東端の氷山が見えたかと思えば、その上空に不気味な赤い雲が停滞していた。
あれはハルバードが引き連れていた妙な雲だ。
モニターを確認してみても確かに、あの中にハルバードを確認できる。


「ファルコさん、ハルバードはあの雲の中です!」

『了解』

「あと……何か巨大なエネルギーの塊も検出されました。どうやらハルバードの甲板のようですが……」

『一旦 突っ込んで確認してみるか』

「はい、行きましょう」


速度はだいぶ落としたが、一瞬たりとも怖気づく事なく赤い雲に突入するセルシュとファルコ。
突入した瞬間、前方にハルバードとその甲板に乗る巨大なロボットが目に入る。
しかしセルシュはそのロボットの事を調べている余裕が無い。
まさにフォックスと、他にも数人のファイターが、そのロボットに対峙していたから。


『下りるぞセルシュ!』

「分かりました!」


機体は自動操縦にして真っ直ぐ進み、通り過ぎる瞬間にハッチを空けて飛び降りる2人。
突然現れた同僚に振り返ったフォックスが驚きの声を上げる。


「お前ら無事だったか!」

「どーの口が言いやがる撃墜リーダー」

「突然ファルコに褒められた……!」

「撃墜する方じゃねえよ!!」


何とも呑気な会話だが、亜空軍のものと思われる巨大ロボットに対峙している最中だ。
一緒に居たのはピーチとシーク、ルカリオに、初対面の武装した中年男性。
生憎 自己紹介をしていられるような雰囲気ではない。

車輪を付けた、青とピンクの機体が背面同士でくっ付いているかのようなロボット。
デュオンという名だがセルシュ達は知らない。

その巨体に似合わず高速で移動して来る……が、場所が悪い。
ここは宙に浮かぶ戦艦の甲板。
あまり移動すると落下してしまう為か、その速度を完全に活かす事は出来ないようだ。
遠距離攻撃可能な面子が攪乱しつつ、他の面子が大技を繰り出すという作戦で良さそう。

2度ほど突っ込んで来たデュオンを避けた後、セルシュが仲間達へ声を張り上げる。


「皆さん! 私とフォックスさん、ファルコさんで遠距離から攪乱します! 隙を突いて大技を繰り出して下さい!」

「あらセルシュじゃないの、元気だった?」

「え? いえ、あのピーチ姫、今はそれどころでは……!」

「久し振りにあなたとお茶したいわぁ、この戦いが終わったらどうかしら」

「はいぜひお邪魔させて頂きます楽しみにしてますから今は集中して下さい!」

「お茶菓子は何がいい? この前とても素敵なケーキ屋さんを見付けてね……」

「ひ〜め〜!!」


先程のフォックスとファルコの会話など呑気のうちにも入らなかった。
この能天気の塊のような姫には太刀打ちなど出来なかった。

収集がつかなくなりそうだった所を、シークがピーチを引っ張って行ってくれる。
その瞬間にデュオンがミサイルを乱射し、今までピーチが居た場所を直撃。
いくら呑気にしていても敵は待ってくれない。

セルシュは素早く銃を構えるとデュオン目掛けて引き金を引く。
フォックスとファルコも各々位置を変えて陣取り、少しでも隙を作り出そうと攻撃を繰り出していた。
7人も揃えば如何な強大ロボット兵器でも劣勢を強いられる。
巨大戦艦の甲板なのでそれなりに広いが、こう巨体では上手く動けない。
周囲を取り囲まれ反撃の糸口も見出せないらしいデュオンだった……が。

突然、その巨体を勢い良く跳び上がらせた。
下部は2つの車輪のみで足が付いてないその姿に、まさか跳ぶとは思っていなかった一行。
呆気に取られている間もなく、着地点を定めて巨体が落下して来る。
その先にはセルシュの姿が……。


「セルシュ!!」


その仲間達の叫び声はセルシュが潰されたからではない。
間一髪で回避に成功したセルシュだったが、彼女が居たのは甲板の端。
ぐらりと体が傾ぎ、ふっと甲板から落下して行く。

あ、駄目かもしれない。

そう頭の片隅で思いつつも無意識に伸ばされた手を誰かが掴んだ。
見上げてみればフォックス。
持ち前の素早さで一気に距離を詰め助けてくれたらしい。


「か、間一髪、だったな……」

「フォックスさん後ろ!!」


決死の救出劇に成功するも敵の手は緩まない。
再び乱射されたミサイルの一つがフォックスの背後に迫るのが見えたかと思うと、一気に命中してしまった。


「うわぁっ!?」

「きゃああ!!」


今度こそ投げ出される勢いで完全に甲板から落下したセルシュとフォックス。
ピーチとシークが駆け寄って来るのが見えたが、さすがに間に合わない。
覚悟して目を閉じたセルシュ……だったが。

思ったより落下しない位置で突然、体が何かにぶつかる。
ハッとして見下ろせばセルシュとフォックスはアーウィンの上に乗っていた。
あ、これは、と思って見上げると、甲板からこちらを見下ろすファルコの姿。
そのまま機体を浮き上がらせて貰いハルバードに戻る。
デュオンも他の仲間達が今の間に倒してくれたようで、動かなくなっていた。


「万一を考えて近くに待機させといて正解だったぜ」

「ありがとうございますファルコさん……」

「助かったよファルコ」

「これ以上リーダーに撃墜やら落下やらされたら困るんでな」

「あ、さっきの“撃墜リーダー”って、撃墜されるリーダーって事だったのか」

「遅ぇよそう言っただろうが!!」


敵を倒した今、こんな呑気なやり取りも笑って見られる。


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