あちこちに大きな川が流れ大小様々な滝が点在する湿地。
セルシュ達が今居る場所は高台にあるため、遥か彼方まで広大な湿地を見渡せて実に壮観だ。
この辺りは川が非常に多く、透き通った流れは見ていて癒される……のだが、結果として地面の方が狭く、足を取られて動き辛い。
幸いにも全員が飛び道具を持っているので、それをメインに戦う。
戦いながら、フォックスが疑問を口にした。


「相変わらずクッパの手下ばっかりだな。あいつ亜空軍なんかに加担して何を考えてるんだ? タブーって奴はファイターをフィギュアにしてしまうんだろ?」

「さあ……私もボスから危険性について聞いているだけで、タブーが何を思ってこんな事をするのか知りません」

「ケッ、大方 寝首でも掻いてやるつもりなんだろ」


ファルコが吐き捨てるように言うが、確かにあのクッパが易々と誰かの下につくのは想像できないので、その可能性が高いだろう。
タブーがファイター達をフィギュアにしてしまった後で奴を倒し、この世界を支配するつもりなのか。

果たしてそう上手く行くか。
ボスの強さを知っているセルシュは、クッパがタブーの寝首を掻くつもりだとして、成功するとは思えない。


「(あのボスの連絡が途絶えたんです。きっと奴は凄まじい強さを持っているはず)」


タブーに何か強さの秘密や弱点があればいいが、あったとしても見付けられなければ意味が無い。
フォックス達と一緒にどこまでやれるか……。

……ふと、そこで一つ重大な事を思い出すセルシュ。
そう言えば、フォックス達に依頼したのはハルバードの追跡と強制停止だ。
亜空軍やタブーと戦う事は仕事に含まれていない。
今は成り行きで戦っているが、ハルバードの停止に成功すれば、彼らがセルシュと共に戦う理由は……。


「(今のうちに、契約更新しておくべきでしょうか)」


正直、セルシュとしてはこのままフォックス達と一緒に戦いたい。
彼らも亜空軍とは戦うつもりかもしれないが、もし他のファイターと合流すれば、そちらへ行く可能性が高い。
セルシュも一緒に行けば良いかもしれないが、組織絡みの事もあるし、巻き込むのは申し訳ない。
契約さえすれば、彼らは仕事を優先してくれるかも。


「フォックスさん、ファルコさん、契約を更新したいのですが……」

「契約更新?」

「はい。その……ハルバードを停止した後も、共に亜空軍やタブーと戦って頂けないかな、と思いまして」

「オレ達もどの道 亜空軍やタブーとは戦うつもりだぞ」

「……いえ、その」


言い難そうにしているセルシュに、フォックスとファルコ、そして何の話をしているか分からないディディーが疑問符を浮かべた。
話題がセルシュに集中してしまい、これは言わねばならないと腹を括る。

自分の組織の事が絡んでいる以上、あまりファイター達を巻き込みたくない。
しかし一人では心許なく、出来ればフォックス達に一緒に居て欲しいと思ったと。
そんな話を聞いたファルコが呆れた息を吐き、セルシュの頭を軽く小突いた。


「ちょ、いたっ」

「これまで一緒に過ごした上であのお人好し集団が放っとくと思うんなら、とんだ馬鹿野郎だなテメェは」

「でも巻き込む訳には……」

「俺達は良いってか?」

「だ、だから仕事として改めて依頼しようと……!」


揚げ足取りして来るファルコに若干の腹立たしさを覚えてしまうが、頼む立場である以上あまり強く出られない。
しかしフォックスはそんな二人のやり取りを見て楽しそうに笑い、何事かと彼を見るセルシュに近寄り小声で告げる。


「苛つくなよセルシュ。ファルコが言いたいのは、お前を見捨てないって事だ。あんまりにも遠回しで、分かり辛いったらないけどな」

「えっ……」

「仕事なのはハルバード停止までだ。そこから先は仲間として一緒に戦おう。どうせタブーはファイターに害なす存在なんだから、ややこしい事は考えずに共闘すれば良いんだよ」


屈託ないフォックスの笑顔にセルシュの心が救われる。
確かに自分はややこしく考え過ぎていたのかもしれない。
敵も目的も同じなのだから、共闘した方がお互いの為。
何だか心の支えが取れたようで晴々しい気持ちになる。
そうして笑顔を浮かべていると、なに笑ってんだよと再びファルコに小突かれるが、今はそれさえ嬉しく思えた。
そんなセルシュに、ディディーも傍に近寄り。


「何かよく分かんないけど、オイラもセルシュの事は放っとかないからな! ドンキーを助け出せたら、今度はセルシュの手伝いするよ!」

「ディディー君まで……有難うございます」


一人じゃない。
自分のルーツである組織を頼れない今、そう思える事が心の底から心強かった。

時折 深い流れが現れる以外は、足首の上辺りまでの水位しかない浅い川が続く。
お陰で足止めされる事なく、たいした強さの敵も出ないのでスムーズに進む四人。
やがて辿り着く大陸の端。
端とはいえ北東なので、南方はまだ東へ向けて陸地が続いているのだが。
ディディーが先を指さしながら大声を上げた。


「あれ、ドンキーッ!!」

「えっ!?」


前方、フライングプレートに乗せられたドンキー。
当然ながらフィギュア化しており、鎖をぐるぐるに巻かれて固定されている。
フライングプレートはそのまま飛び立ち、遥か先の海上にある浮遊島へ飛び去った。
ディディーが悔しそうに飛び跳ねながら腕を振り上げる。


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