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「ディディー君っ!」
「避けろセルシュ!」
またもフォックスの言葉が終わらないうちに飛んで来る矢印型のエネルギー弾。
咄嗟に避ける事に成功し、振り返った先にはクッパ。
奴は怪しげな笑い声を上げるとディディーを指さし、それに合わせて紫のぼわぼわとした無数の粒がフィギュア化したディディーを埋め尽くしてしまった。
「ディディー……! クッパ、お前ディディーに何をした!」
「見ていれば分かる。せいぜい同士討ちでもして、仲良くフィギュアになるんだな!」
「同士討ち……?」
間も無く紫の粒が集合し、そこには粒と同じ紫の禍々しいオーラを纏ったディディーの姿があった。
驚くセルシュとフォックスだが、ディディーのフィギュアは転がったまま。
恐らく以前に戦った偽クッパと同じ存在だろう。
クッパと偽ディディーに挟まれ、セルシュとフォックスは互いに背中を預けて敵に対峙する。
クッパの武器は遠距離武器、加えてディディーはトリッキーな戦いを得意とする。
1vs1で戦うにしても、隙を取られて仲間を攻撃されかねない。
「セルシュ、偽ディディーを頼む。隙を見て本物のフィギュア状態を解除すれば、有利に戦える筈だ」
「……フォックスさんはお一人で大丈夫ですか?」
「やるしかないだろ。油断するなよ、絶対負けるな」
「はい……!」
じりじりと追い詰められていた2人が攻撃に転じようとした瞬間、彼らの上空を鋭い風が横切った。
思わず見ると見慣れたアーウィンで、コックピットの上部を開けて一つの影が飛び降りて来る。
それは……。
「ファルコ!」
「ファルコさんっ!」
「テメェら一体何やってたんだ、探すのに少しばかり骨が折れたぜ?」
ファルコだった。
責めるような言葉とは裏腹に、声音と表情は楽しげなものに思える。
彼は突然の増援に反応が遅れたクッパへ突っ込んで行き、謎のエネルギー弾を発する武器を蹴り上げた。
そして自らも跳ね上がり、ブラスターを連射して破壊してしまう。
武器を壊され悔しげに唸ったクッパは飛び退り、隠されていた愛機クッパクラウンに乗って飛び去った。
「待ちなさい、ドンキーさんの居場所を……!」
「セルシュ、ディディーを助けるのが先だ、それからすぐに追って……!?」
振り返りつつのフォックスの言葉が途切れる。
何事かとセルシュがフォックスを振り返ると、彼よりも先に目に入るもの。
偽ディディーが紫の粒を更に集め、巨大化した。
突然の事にセルシュとファルコも驚愕し、先に巨大偽ディディーを目撃したため我に返るのも早かったフォックスが、本物ディディーのフィギュア化を解除。
かぶりを振りつつ立ち直ったディディーだが、予想外の脅威を目の当たりにして飛び上がる。
「うわ、うわぁ!? 何これ、どうしてオイラが!」
「前に戦った偽クッパみたいなもんだよ、気は進まないかもしれないが敵意があるから倒すぞ!」
フォックスとファルコが真っ先に巨大偽ディディーへ突撃し、セルシュはディディーを気遣いつつ背後から援護を始める。
しかし如何せん体が大きいため、ひとたびジャンプすればフォックス達などあっと言う間に飛び越し後衛までやって来てしまった。
セルシュの目の前に立ち塞がる邪悪な巨体。
突然の事に対応が遅れ、己を叩き潰さんと振り上げられた巨大な手を見つめる事しか出来ないセルシュ。
「セルシュッ!!」
名を呼ぶ叫びが誰のものか分からなかったのは、フォックス・ファルコ・ディディーの3人が同時に叫んだから。
一番近くに居たディディーが持ち前のスピードを最大限に活かし、勢いをつけたままバレルジェットの機動力を付加してセルシュに突っ込んで行った。
間一髪、巨大偽ディディーの腕が降り下ろされる前に救出し、そのまま離れる。
巨大偽ディディーはセルシュを仕留められると高を括り油断していたからか、背後から追い付いたフォックスとファルコのスマッシュ攻撃で、あえなくK.Oされたのだった。
フィギュア化したかと思えば、すぐ無数の粒に戻り溶けて消えた偽ディディー。
やれやれと言いたげにファルコが溜め息を吐き、説明を求めようとフォックスの方へ向き直った。
「ところでフォックス、今まで何してたんだ。何が起きてる。経緯を説明……」
「ファルコさんっ!!」
「うおっ!?」
ファルコとの再会に感極まり、駆け寄って飛び付くような勢いで抱き付いたセルシュ。
慌てたファルコが引き離そうとするが、セルシュはなかなか離れない。
「おいセルシュ! クソッ、離れろ! こんな時にフザケてんじゃねぇぞ!」
「フザケてません! 心配、したんですから……!」
「たった一日だろうが、何を大袈裟な……」
「一日でも半日でも心配じゃないですか! 一人で囮みたいな行動したんですよ、数が知れない敵の!」
「俺があんな奴等に負けるとでも思ってたのか!? ああもう、いい加減に離れろ、暑苦しいんだよ!」
「もちろんファルコさんの強さは重々承知です、それでも心配だったんです! みんな居なくなっちゃうんじゃないかって……!」
収拾がつかなくなりそうになった所で、まあまあとフォックスがファルコからセルシュを引き剥がした。
更なる文句を言いかけたファルコだが、セルシュの顔が泣きそうに歪んでいたため押し黙ってしまう。
落ち着いた所でフォックスがファルコに今までの経緯を説明し、その間にセルシュがディディーへ助けられた事へのお礼。
「ディディー君、先程は本当に有難うございました。あなたが居なかったら、今頃どうなっていたか」
「へへっ、オイラもたまには役に立つだろ? だけどオイラが油断してたせいで、あんな敵が出て来ちまったんだよな……」
「それは私やフォックスさんも同じです、たまたま撃たれたのがディディー君だったというだけで」
「……そっか、ありがと。オイラ、セルシュには励まされてばっかりだよ。だけど元気が出るんだ、姉ちゃんや母ちゃんってこんな感じなのかな」
「ふふ、そうかもしれませんね」
正直に言うと子供の扱いは苦手気味なのだが、姉や母親扱いされて親しまれるのは案外悪くない。
話が終わったフォックスやファルコと、セルシュ達もこれからの話をする。
ファルコはここへ来る前にグレートフォックスと合流したようで、そこからハルバードの居場所や亜空軍の動きを調べたらしい。
「じゃあ俺達も行こうぜ。セルシュ、通信機は貸すからお前はまたあのアーウィンに似た戦闘機を呼べ」
「えっ」
「え、って何だよセルシュ、第一お前がハルバード停止の依頼したんだろうが。追わなくてどうする」
「だけどクッパも亜空軍に加担している可能性が! それにドンキーさんは……」
「知らねぇよ、まあ亜空軍を止めたら助かるだろ。っつー訳でディディー、もう帰ってろ。じゃあな」
「ちょっっっっと待ってよっっ!!」
「ぐぇ」
突然ディディーが背後からファルコの襟首を掴み、無理やり引き戻した。
情けない呻き声を上げたファルコが、何だよ、と言いたげに溜め息。
……物凄く見覚えのあるシーンだが、セルシュとフォックスは黙っている。
「クッパ軍団がたくさん居るし、クッパだって居た! きっとドンキーは近い筈なんだ、もう少しだよ!」
「だから亜空軍を何とかすればドンキーも助かるだろうが」
「すぐに何とか出来る訳じゃないだろ、その前にドンキーに何かあったら……」
「他の仲間に頼め、俺達は仕事がある。じゃあな」
聞く耳を持たず、自分の仕事を優先するファルコ。
もちろんドンキーを見捨てるような真似をするのは、亜空軍を倒せばドンキーを助けられるだろうという考えがあるからだが。
再びディディーに背を向け、ファルコは立ち去ろうとするが……。
「待ってよっ!!」
「ぐぇ」
「もう絶対に逃がさないんだからな!」
小さな体に似つかわしくない力で引っ張られ、無理やり連行されるファルコだった……。
やれやれと肩を竦めつつ歩いて後を追うフォックスに、セルシュも付いて行く。
「うーん、デジャブ」
「……これで良いですよねフォックスさん、ドンキーさんを優先したって。どの道クッパも亜空軍に加担していると思いますから」
「依頼人はお前なんだ、お前さえ良いなら俺に異論は無い。……多分ファルコもな、だから気にするな」
「はい。では、このままドンキーさんを探しましょう」
ハルバードの行方も当然ながら気になるが、関わったディディーとドンキーの事は見捨てられない。
せめて姿が見えるまで近付ければ、奪還の方法だって考えられるだろう。
ドンキーが近い事を信じて、セルシュ、フォックス、ファルコ、ディディーの4人は、美しく壮観な湿地を更に北東へ進むのだった。
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