「ちょっっっっと待ってよっっ!!」

「ぐぇ」


突然ディディーが背後からフォックスの襟首を掴み、無理やり引き戻した。
情けない呻き声を上げたフォックスが、何だよ、と言いたげに溜め息。


「ドンキーが、ドンキーがクッパの奴にフィギュアにされちゃったんだ! オイラはドンキーにぶっ飛ばされて、そのおかげで助かって……!」

「えっ……!? それは本当ですか!?」

「うん、だからお願い! ドンキーを助けるの、手伝ってよっ!」

「ディディー、そんな事なら手伝いたいけど、オレらもデカい敵を追ってる最中なんだ。悪いが、他の仲間に頼んでくれ」


フォックスも仲間を助けるのが嫌な訳ではないが、確かクッパはマリオのライバルだった筈。
どうせちょっとした揉め事だろうと思い、再び立ち去ろうとするが。


「待ってよっ!!」

「ぐぇ」

「もう絶対に逃がさないんだからな!」

「ディディー君……」


小さな体に似つかわしくない力で引っ張られ、無理やり連行されるフォックスだった……。



ドンキーを探す道すがらにディディーから話を聞いてみると、どうやら“ちょっとした揉め事”では済まない事態にまで陥っているようだ。
ジャングルにクッパ率いる軍団が現れ、ドンキー達の大事なバナナを奪うわジャングルを荒らすわやりたい放題らしい。
しかもクッパは妙な機械から矢印型の黒いエネルギー弾を出し、ドンキーを一発でフィギュアにしてしまったそうで。
ファイターを立ちどころにフィギュア化してしまうエネルギー、セルシュはそれに心当たりがある。


「ボスから聞いた、亜空軍のタブー……。奴はファイターを一撃でフィギュア化する技を持っているそうなんです」

「じゃあまさか、クッパは亜空軍に加担を?」

「可能性は高いですね、放っておけません」

「ドンキーをフィギュア化して何しようってんだよ、オイラ絶対に絶対に許さないんだからな!」


ディディーはドンキーを奪われた怒り、そして何も出来なかった自分に対する怒りで憤っている。
セルシュも先程、ハルバード相手に何も出来なかった自分が悔しい。


「ディディー君、絶対にドンキーさんを助け出して、亜空軍に一泡吹かせましょう」

「さっすがセルシュ、分かってるじゃんか! 一緒にガンバろうな!」


お互いやる気を表面化させるセルシュとディディーに、フォックスは苦笑。
セルシュは仕事に対してはクールで冷静な面が大きいので、ちょっと意外な気分にもなったり。
ハルバードに対する敗北、そして落下と不時着に失敗してしまった事が堪えたのかもしれない。
その辺りをセルシュに訊ねてみると、悔しそうに、そしてどこか恥ずかしそうに答える。


「……あの機体の操作は実戦で経験済みだったのですが、緊急時の操作と最悪の事態に関しては、シミュレートしかしていなかったもので……」

「それは良かった、シミュレーションでの訓練も大事だが、実力が均衡した時とかに物を言うのは実戦での経験だからな。大怪我もなく無事だったんだし、ハルバードとの敗北は良い経験だよ」

「……有難うございます、フォックスさん」


フォックスが自分を励まそうとしている事、そして敗北にこだわりかけている自分を諭してくれた事に気付き、セルシュは微笑んで礼を言う。
確かに、フォックスの言う通りだと分かる。

クッパが傍若無人な振る舞いをしている表れか、ジャングルの中はクッパ配下のモンスター達で溢れ返っていた。
セルシュ達は襲い来るそれらを倒しながらジャングルを進み、少し荒れている川をイカダで下る。
すると、そこから少し進んだ先にクッパの姿が。


「フォックスさん、ディディー君、あれは!」

「二人とも行くぞ、先制で攻撃するんだ」

「言われなくても!!」


ディディーが真っ先に飛び出し、気付いたクッパも襲い掛かって来る。
セルシュは直接攻撃を仕掛けるフォックス達から離れた所で隙を窺い、銃で細かなダメージを与えた。
相手はかなりの重量とパワーを持っているようだが、やはり3VS1。
思ったよりあっさりと勝負が着いて敗北したクッパはフィギュアと化す。
ディディーはすぐにクッパへ近寄り、恨みを込めた体当たりを始めた。


「このヤロー、ドンキーをどこにやったんだよっ!」

「ディディー、まずはクッパを拘束してからフィギュア化を解こう」

「暴れられたら困りますものね。でも何か良いもの……、っ、え!?」


ディディーが体当たりを繰り返していたクッパのフィギュア。
それが突然溶けて、紫のぼわぼわした無数の粒に変わってしまった。
フィギュア化したファイターがこうなってしまうなど聞いた事が無い。
一体何なのか、セルシュがフォックスに訊ねようと彼の方を向いた瞬間。


「セルシュッ!!」

「わっ!?」


彼が凄い勢いで体当たりして来て、そのまま一緒に地面へ倒れてしまう。
セルシュはフォックスと共に倒れ込みながら、確かに黒い矢印型の何かが通り過ぎるのを見た。
すぐに立ち上がってそちらを確認すると、倒した筈のクッパの姿。
手には何か大きな機械を持っていて、それを構えてエネルギーを放出する。
そこから出た矢印型のエネルギーを避けると、地面にぶつかり爆発が起きた。


「フォックスさん……!」

「まずいな、一旦引くぞ。おいディディー!」

「お前が本物かよ、ドンキーを返せ!!」


怒りで我を忘れてしまったのか、一直線にクッパへ向かうディディー。
あの馬鹿、と舌打ちしたフォックスがディディーの襟首を掴み、反対の崖っぷちへ駆け出す。


「セルシュ、来い!」

「はいっ!」


そのまま高い崖を飛び降り、クッパの勝ち誇ったような笑い声を背に逃げ出した3人だった。


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