ファルコと別れたフォックスとセルシュは、ハルバードを目指し急ぐ。
しかしモニターによるとハルバードは既に空中スタジアムへ到達し、それどころか移動している。
しかし落ち込んでいる時間は無い、今は少しでも被害が広がらないよう任務の遂行を急ぐだけだ。
逸る気持ちを抑えてモニターを変え、ハルバードではなく周辺の状況を確認してみたセルシュ。
だが彼女が見たのは、ハルバードがあった筈のドックで見た濃い紫のドーム型空間だった。


「フォックスさん、標的は遥か上空へ移動! それに空中スタジアムには……亜空間が出現しています!」

『セルシュ、亜空間ってのは一体なんなんだ? それにさっき襲って来た奴らの事も、亜空軍だの何だの言ってたよな』


セルシュは説明していなかった事に気付き、以前にボスから聞かされていた脅威の集団を教える。
突如として亜空間と呼ばれるデータ空間に出現した亜空軍、そしてそれを率いるタブーという存在。
フォックスは初めて聞く強大な存在に、ファイターの危機を感じる。
なぜ突然そんな事になってしまったのか、一刻も早く解決しなければ。


『ハルバードはその集団に奪われたと考えるべきだな、今はどこだ?』

「空中スタジアムの遥か上空にある、雲海の中です。高度約3400m」

『すぐに向かおう。戦闘準備を整えておけ』

「はいっ!」


機体を上向け、雲海へと向かうセルシュ達。
この辺りの雲海は非常に不思議な場所で、高所にも拘わらず気温や気圧は地上と変わらないし、別に空気も薄くない。
雲の中には天使が暮らす国があるだとか何だとかファイターの子供たちが言っていたが、そんな話もつい信じたくなる。
やがて高度をハルバードと同じに上げたセルシュ達は全速で前進する。
そして前方にハルバードを見つけ、攻撃態勢を整えた。


『メタナイトには悪いが、もう仕方がない。傷は付くが攻撃して止めるぞ。中にメタナイトが居ると危険だから、全壊させないよう注意だ。特にエンジン部は攻撃するな!』

「了解しました。目標、射程圏内に入ります!」


橙のような薄黄色をした不思議な雲海の上、音速でハルバードに接近する。
後部にあるエンジンを攻撃してしまわぬように、前方に回るため側面を通り過ぎると、すぐさまハルバードが撃って来た。


「うっ……予想以上に反応が早い……!」

『セルシュ、オレは上昇する。お前はそのまま突っ切って引き返せ!』


返事をするのも惜しい速度での攻防の中、言われるまま最高速度で通り過ぎ機体を宙返りで急旋回させ、引き返すセルシュ。
だがその瞬間に目に入ったのは、ハルバードに備え付けられた鉄のアームが直撃し、きりもみしながら落下して行くアーウィンの姿。


「フォックスさんっ!!」

『馬鹿、オレに構うな! 任務を遂行……』


フォックスの通信が急に途絶えた……が、それはどちらかと言えばセルシュの方に起きた異変の為。
気を取られていた隙にハルバードの砲が当たり、そのままアームの攻撃もまともに直撃する。
浮力を失った機体が空を裂くような速度で落下し、セルシュが悔しげにハルバードを見上げた瞬間、まさかと思うような人物が目に入った。

あれは確かに、カービィとゼルダ姫だった。
なぜ彼らがハルバードに乗っていたのか……いや、正確には乗っていない。
彼らは機体が落下する風に煽られて飛ばされ、今まさにハルバードから落下した瞬間だったから。
その光景を目の当たりにしたセルシュから瞬時に血の気が引いた。
カービィが居るなら、何とか巧く無事でいてくれるかもしれないが……。

何にせよ今は自分の事を考えなければ。
まだ地上まで時間はある。
セルシュは緊急時の訓練を思い出して、コックピットのボタンやレバーを操作した。


「(下はジャングル……大丈夫、落ち着け私。この機体なら助かる、フォックスさんも無事だ……!)」


操縦レバーを操る手に思わず力が篭もり……その緊張が災いしたか、急に機体が不自然に傾く。
えっ、と呟いた時には、山のように見える緑が目前に迫っていた。


「あ……!」


重力は悲鳴すら上げる間を与えてくれない。
予想と全く違う体勢で木々にぶつかり、そのまま地面へ激突する。
衝撃で頭を打ったセルシュは、そのまま気絶してしまうのだった。


++++++


「……セルシュ、おい、しっかりしろ!」

「……う……?」


聞き慣れた呼び声に目を覚ますと、見知った仲間の顔があった。
そこに居たのはフォックスで、痛む体を騙し騙し起き上がると、彼の隣には燃え尽きた愛機と新たなファイターの姿が。
ドンキーコングの相棒、ディディーコングだ。
一体どうして彼が一緒に居るのかと疑問を含めた視線をフォックスへ向けると、彼は苦笑する。
どうやら落下した所で湖に潜むレックウザに襲われていたディディーに出くわしたらしい。
そのまま助けて共に戦ったら、セルシュを探すのを手伝ってくれたとか。


「機体は燃えたけど安全装置が働いたから大した怪我もないみたいだな。ディディーがお前を見付けてくれたんだ、礼ならこいつに言えよ」

「ディディー君、どうもありがとう。お陰で助かったみたいです」

「へへへー、どういたしまして。オイラもフォックスに助けてもらったし」


笑顔で応えるディディーにセルシュも微笑ましい気持ちになった。

さて、問題はこれからだ。
どうやら通信機能は全て駄目になったらしく、歩いて行くしかないらしい。
まずはファルコと合流してグレートフォックスを呼んで貰い、そして再びハルバードを追って……。
そう考えながら歩き出したフォックスにセルシュも付いて歩き出した、が。


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