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やがて、聞き慣れた音が聴こえて来た。
見れば、どこかアーウィンにも似た戦闘機が、真っ直ぐに飛んで来てセルシュの側に降りて来る。
「セルシュ、それはアーウィン……じゃないな。一体なんなんだ?」
「【HAL】の力により、そちらのアーウィンを元に作らせて頂いた戦闘機です。模造品ですが、足手まといにならない程度の機能はありますよ」
「どうなってんだ、お前の組織はよ……」
呆れつつも、実際は少々感心している2人。
これならば移動手段も気にする必要は無いだろう。
3人は愛機に乗り込むと、手早くハルバードを追う準備を進める。
「Gディフューザーシステム・オールグリーン確認。追尾モードに移行します」
『セルシュ、通信は……繋がるな。ハルバードの追跡は任せていいか?』
「はい、フォックスさん。お任せ下さい」
『よし、じゃあ……』
フォックスは、軽く深呼吸して気持ちを落ち着けた。
この世界に来てから初めての、【スターフォックス】としての戦い……。
何故か、初めて実戦に挑む時の気持ちを思い出す。
だが今までの経験が消えた訳ではない。
いつも通り、だ。
『主翼展開! 全機、Gディフューザーシステム確認!』
『こちらファルコ、問題は無い』
『ズレてないな?』
『ズレてねぇよ』
少し笑みを零しているであろうやり取りに、自然とセルシュの顔も綻ぶ。
他人事のように聞いていたのだが、ハッと、今は共に戦う一員なのだから、報告しなければならない事に気付いたセルシュ。
多少遅れてしまったものの、何とか誤魔化しつつ平然を装い報告する。
「こちらセルシュ、システム異常はありません」
『よし。目標、戦艦ハルバード。任務は対象艦の追跡と強制停止。スターフォックス、出撃!!』
リーダーの号令と共に、三機の戦闘機が大空の中へと飛び立った。
セルシュはモニターで組織の内部コンピューターにアクセスし、ハルバードの位置を特定する。
それによれば、ハルバードは遥か東……空中スタジアムの方へ向かっている事が判明した。
そう言えば今日はマリオとカービィの試合があり、多数の観客がスタジアムに詰め掛けている筈だ。
『空中スタジアムか……マズいな。セルシュ、今のハルバードの状態は分かるか?』
「はい。自動操縦ではなく、手動で動いているようですね。……暴走、とは言えなさそうです」
『メタナイトの仕業だという事か?』
「そこまでは……。何者かが操縦しているのは間違い無いでしょう」
何にせよ、危険な事に変わりはないだろう。
セルシュ達は遥か東を目指して追跡するが、そこでセルシュのモニター画面が何かに反応する。
これは、まさか……。
「亜空軍! 二人とも、敵が接近しています!」
『あぁ、こっちも感知している。応戦するぞ!』
フライングプレートに乗って、多数の敵がこちらに向かって来ていた。
亜空軍……セルシュは以前ボスから、驚異になり得るとしてその存在を聞かされていた。
奴らを統べるのは、ある日、亜空間と呼ばれるデータ空間に突如として出現した……。
【望んでも得る事が出来ない者】。
タブー……。
『フォックス、セルシュ、俺がコイツらをぶっ潰して来るから、お前らは先にターゲットを追え!』
「えっ……ファルコさん、一体なにを!?」
『駄目だファルコ、この数と増援の頻度……近くに前線基地がある可能性も捨てきれない!』
『ハッ、勝機があるから言ってんだろうが。見たところ奴らのフライングプレートは攻撃できねぇみたいだし、だとしたら後は蠅も同然だ。チョコマカうるせぇ奴らを全部叩き潰してから後を追う。さっさと行け!』
確かに、早いところハルバードを追わなければ大惨事になりかねない。
ファルコの腕は知っているし頼りにしている。
心配していない訳ではないが、ここは彼に任せても大丈夫な気がした。
セルシュとフォックスは、雑魚の始末をファルコに任せて先へ行く事に。
早くしなければ、ハルバードが空中スタジアムに辿り着いてしまう可能性もある。
『ファルコ、無茶な事だけはするなよ!』
「どうかご無事で……!」
2人の言葉には返事をせず、代わりに機体を回らせる事で応えたファルコ。
彼が余裕の笑みを浮かべるのが見えた気がして、2人は安心してハルバードを追い掛けた。
ハルバードを追いつつ艦のデータベースにハッキングしてみると、レーザー砲や対空機関砲など様々な装備を確認できた。
それ以上はアクセス出来なかったが、如何なアーウィンと云えども苦戦は必至だろう。
装甲の防御力も不明なままで、先は暗い。
「フォックスさん、そちらに知り得た限りのハルバードの情報を送信します……。これで、私達に出来るのでしょうか」
『ん、ありがとう……。……ってあぁ、こりゃ凄いな。お前の悪い癖だぞセルシュ、出来るだろうか、じゃない。やるんだよ。お前が依頼主なんだ、こんな時まで自信喪失しないでくれ』
「すみません……」
『お前は一人で戦ってるんじゃない。オレ達も一緒なんだから、ちょっとは信頼して安心してくれよ』
そう、セルシュの悪い癖……。
それ相応の能力を持っているにも拘わらず、時々、自信が鳴りを潜めがちになる事だった。
決してフォックス達の事を信頼していない訳ではないのだが、上手くいかなかったらどうしよう、失敗したらどうしよう、といった不安が出て来る。
「(こんな事じゃいけない…ボスと音信不通になった今、私が【HAL】の総統代理なんだから、しっかりしないと!)」
セルシュは気を取り直し、しっかりと進行方向を見据えた。
目標:ハルバード
任務:追跡、及び強制停止
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