風より速く、音より速く、光より更に速く。
星々の輝きに届くには、もっともっと速く。
百万パーセク離れても、届く心がある。


「フォックスさん、ファルコさん、こんにちは」


スマブラファイター達の暮らす大陸の西、2人のファイターを一人の少女が出迎えていた。
アーウィンと呼ばれる戦闘機でやって来たファイターは、フォックスとファルコ。待っていた一人の少女はセルシュだ。
とある組織に属している為に正式なファイターではないセルシュだが、ファイター達とはそれなりに親しい関係を持っている。
今日はメタナイト卿自慢の戦艦・ハルバードが完成したという事で、待ち合わせをして見に行く約束をしていたのだ。


「やぁ、セルシュ。今日は楽しみだな。どんな戦艦なんだろうな?」

「楽しみですね。そう言えば、他の皆さんはご一緒では?」

「あぁ、奴らは急に来れなくなっちまってな。俺とフォックスだけ来た」


他のスターフォックスメンバーは来れなくなったという事で、セルシュは残念がる彼らの姿を想像しながら苦笑した。
メカニックのスリッピーなんて、さぞかし残念がっているだろう。
完成した戦艦ハルバードは巨大で、母艦としての役割も大きく果たす。
一体どんな艦なのか、楽しみにしながらドックへ向かうが……ドックがある筈の場所には、得体の知れない空間が広がっていた。


「おい、何だこれ……!」

「どういう事だ、メタナイトやハルバードは……」


濃い紫のドーム。
まるで空間を切り取ったようなそれは、禍々しいまでの闇を放っていた。
驚愕するフォックスとファルコの声が聞こえていないかのように、セルシュは目を見開き、そのドームを見つめている。
これは、確かボスが……などと考えていた矢先、フォックスに通信が入った。


「ん? スリッピー、どうしたんだ」

『フォックス、今メールが来てさ、スターフォックスに仕事の依頼だって。差出人のデータが全く無いんだけど、スマッシュブラザーズの印が入っててさぁ。どうする?』

「スマッシュブラザーズから匿名の依頼だって……? 本物か?」

『データ解析してみたけど、確かに以前、正式に送られて来た物と一致したよ。間違い無い』


一体スマブラ関連の誰が匿名の依頼などしたのだろうか。
正体を隠さねばならないような依頼なんて、知る限り起きそうも無い。
依頼内容は、暴走した戦艦ハルバードの追跡と強制停止らしい。
ハルバードが暴走したなどとは初耳で、依頼者が匿名なのも合わさり、どうにも不信感が募る。
どうするか、とセルシュを見るフォックスとファルコだが、セルシュはその時、考え事をしていた。

まさか、ボスは、こんな事が起きると予想して……。


「おいセルシュ!」

「えっ!?」


ファルコの怒鳴り声に、ハッと我に返る。
心配そうな二人の眼差しと視線がかち合い、瞬時に、しっかりせねばと持ち直した。

セルシュはボスとの通信を試みるが、彼からの応答は全く無かった。
こんな事は今まで無い。
通信が出来ない時はそう通達する音が鳴る仕様なのに、それすら。
緊急事態……それも危険な状態だと確信したセルシュは、普段からボスに言い付けられていた事の実行を決意する。


「フォックスさん、スリッピーさんに、その依頼は無視するようお伝え下さい」

「え…?」

「その代わり……我が組織から、雇われ遊撃隊スターフォックスへ正式に依頼します」


セルシュの、毅然とした眼差しと口調。
それは仕事に対して真剣に取り組む彼女が、仕事の話をする時のもの。
知っているフォックスとファルコも表情を引き締め、言葉の続きを待った。


「たった今……私は、我が組織【HAL】より、組織における全権行使の権限を委託されました。あなた方への依頼は、暴走した戦艦ハルバードの追跡及び強制停止です」

「セルシュ、匿名の依頼はお前の組織からなのか」

「はい。どうか、今は詮索せずに私を信じて頂けませんか? 報酬に関しましては……今は話し合っている余裕がありません。事後のご相談と言う事で、承認をお願い致します」


フォックスとファルコは、少し考え込んだ。
匿名でスマッシュブラザーズの名を騙る組織の言う通りにしてもいいものか、幾らか迷いがある。
だが、気心の知れているセルシュの真摯な眼差しは、疑えないし疑いたくない。
真っ直ぐに見つめて来る視線は、彼女の心そのものを表しているかのよう。


「……分かった。その依頼、確かに受けた。スリッピー、聞こえてたか? 現場はオレとファルコで当たるから、そっちから全面サポートを頼む」

『オッケー! グレートフォックスはオイラ達に任せといてくれよ!』


通信を切り、早速戦艦ハルバードを追う。
取り敢えず位置を特定しなければならないが、それ以前にセルシュの移動手段をどうするべきか。
人の足では、アーウィンに追い付くのは不可能だ。
コックピットに二人乗れない事も無いが、何が起きるか分からないし危険だろう。


「フォックスさん、ファルコさん、10分ほどお待ち頂けませんか」

「あ? 急がなきゃなんねぇんだろうが、移動手段を早く見つけねぇと……」

「移動手段を用意しますので、どうか」


疑問符を浮かべる二人をよそに、セルシュはどこかに通信を開始した。
何かをぼそぼそ話し合っていたが、後に通信を切り、北の空を眺める。
ますます意味が分からなくなって顔を見合わせるフォックスとファルコだが……。


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