本当は、セルシュが脱出して来る可能性を考えて早めに研究施設を出、亜空間爆弾工場に入って研究施設を閉鎖し、セルシュを閉じ込めるつもりだった。
その後で油断したサムス達を始末する算段を立てていた偽者だったが……。
予想以上に好かれ信頼されているセルシュが憎くて、セルシュに好意を寄せている仲間達が心底腹立たしくて、耐え難い程になってしまった。


「(目障りな奴ら……我慢なりません、さっさと始末してあげましょう!)」


振り返りもせずスタスタと率先して歩く偽者に、そうとは知らないサムス達は妙な気分で顔を見合わせる。
しかしセルシュが言うなら何かがあるんだろうと、黙って後に付いて行った。
辿り着いたのは円形の広大な空間で、上方は天井が見えない程に高い。
だが何かがあるようには見えず、黙っていられなくなったサムスは偽者に問い掛けた。


「セルシュ、ここは何なんだ? 亜空軍に関するものとは一体……」


サムスの言葉は続かない。
突如、体が吹き飛ばされそうな程の風圧を感じたかと思うと、彼女の体は宙に浮いていた。


「サムスさんっ!」


ピカチュウの悲鳴は、サムスを掴んだ者の咆哮に掻き消され、届かない。
まるで翼竜のような外観……サムスはよく知っている。


「リドリーだと!? いや、しかし何かが違う……」


かつて戦った宿敵だが、サムスは妙な感覚を覚える。
それもその筈、このリドリーはコピーであり、自我も何も持っていない。
ただ主の命令を忠実に遂行するだけの機械。

高所まで飛び上がったリドリーはサムスを思い切り壁に叩き付け、押し付けたまま高速で飛行し始める。
パワードスーツを着ていたのは幸いだったが、衝撃の余りに火花が散り、スーツ内のサムスへのダメージも蓄積されて行く。


「セルシュさん、サムスさんを助けなきゃ!」


偽者がセルシュに成り代わっている事に気付かないピカチュウは、駆け出して“かみなり”を落とそうと電気を含蓄して行く。

……が、それは呆気なく中断させられてしまった。
背後から駆け寄った偽者が、完全にサムスの方に気を取られていたピカチュウを思い切り蹴り飛ばした。
小さな体は撥ね飛び、床へ強かに叩き付けられる。


「あぐっ……!」

「させませんよ」

「な、ん、で、セルシュさん……」

「もう飽きたんですよ、あなた達との友情ごっこは。ちょっと弱みを見せただけでホイホイ信じて……馬鹿じゃないんですか? 余りにも簡単に騙されるものだから、騙し甲斐の欠片もありませんでしたよ」

「う、嘘だ……」

「嘘だと思いたいなら思い込んでいなさい。そうして幻想を抱いたままくたばるがいい!」


偽者が足を上げ、今にもピカチュウを踏み潰さんとした、その瞬間。

彼女達の上空で小規模な爆発が起きた。
思わず見上げたピカチュウと偽者の元にサムスとリドリーが落ちて来て、慌ててその場から離れる。
ガクリと膝を付いたサムスにピカチュウが駆け寄った瞬間、入り口の方からつい今まで聞いていた声が。


「サムスさん、ピカチュウ君! ご無事ですか!?」


そこに居たのはスーパースコープを構えたセルシュ。
彼女がリドリーを撃ち、サムスを解放したようだ。
しかしピカチュウ達を挟んだ入り口と反対側にもセルシュが居て……。


「え、え!? 何でセルシュさんが二人いるの!?」

「そっちは偽者です。最初にワープ装置に乗った後、入れ替わられました!」

「このっ……! もう抜け出して来たなんて!」


もし偽者が研究施設の閉鎖を優先していたら、セルシュは間に合わなかっただろう。
セルシュに好意と信頼を寄せるサムス達に苛立ちを募らせた偽者が、感情に任せて彼女達の始末を優先した結果、セルシュが追い付けた。
サムスとピカチュウに心を開き、彼女達の想いを受け入れたからこそ、この危機を脱せた訳だ。


「私はサムスさんとピカチュウ君を守ります。大切な仲間ですからね!」

「黙れぇぇっ!! どうしてお前だけ、お前だけ……! お前だけが幸せになるなんて絶対に許さないッ!!」


偽者は手を翳し、リドリーに命じてセルシュ達に襲い掛からせる。

そして、見せ付けられた。

信じ合い、連携し、仲間と共にリドリーへ立ち向かうセルシュの姿を。
偽者が一番見たくない、羨ましくて妬ましくて忌々しい、その、姿。

セルシュ達がリドリーを倒した時、既に偽者の姿はどこにも無かった。
研究施設を出たのだろうと思い、セルシュが覚えていた道程を頼りに出口へ向かう。


「それにしても、あんなにソックリな偽者が居るとは……。私やピカチュウ、他のファイター達の偽者も居たりするのだろうか?」

「可能性はあります。……しかしあの偽者、気になる事を言っていました」

「気になる事?」

「色々と言っていたんですが…一番気になったのは、“あの方が協力して下さったお陰で”私と入れ替われる、みたいな内容を言っていた事ですね」

「“あの方”……今回の黒幕だったりするのかな?」

「可能性はあります。他の皆さんと連絡を取れれば良いのですが……」


話している間に、通路の奥から太陽の光。
どうやら研究施設の出口のようで、外には長閑な自然と朽ちた遺跡のようなものがあった。
そしてその奥、自然の中に似つかわしくない機械の出入り口から、巨大な球体を運ぶロボットが現れる。


「あの球体が亜空間爆弾ですね。今ロボット達が出て来た所から生産工場に入れる筈です」

「行こう。世界を亜空に飲ませはしない!」

「ガンバるぞー!!」


消えてしまった偽者の事は気になるが、猶予も余り無いように思える。
ひょっとしたら偽者も生産工場に居るかもしれない。

決意と不安がない交ぜになった心で、セルシュ達は亜空間爆弾工場に突入した。


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