閉じ込められた濃い紫の空間を、どこに向かっているのかすら分からぬままひたすら走り続けるセルシュ。
じっとしているよりはマシだが、さすがに脱出の目処が立たないままだと気力を削がれ、遂に立ち止まる。
こうなったら組織へ連絡するしかないかもしれない……。


「……ボス」


セルシュが属する組織HALは、もしや亜空軍に加担しているのではないか。
最悪、亜空軍はHALの一部なのではないか。
そんな疑念が出てしまった以上、連絡を取るのは躊躇われるし危険だ。
しかしボスが黒幕でなければ、彼の能力や知識はとても頼りになるのだし……。

セルシュは意を決すると、通信機を取り出す。
そして恐る恐るボスへの連絡を試みた。


「(ボス……お願いします。どうか、私にあなたを信じさせて下さい……!)」


セルシュにとって組織は、紛れも無く家族。

気付けばボスが側に居た。
気付いた時にはもう組織の一員だった。

家族であり拠り所である組織は簡単に捨てられない。
サムスやピカチュウに受け入れられて、自分も彼女らを受け入れたけれど、それはそれ、これはこれ、というヤツで、組織が黒幕でないに越した事はない。

しかし。


「(駄目だ、出ない……)」


通信機は全くの無反応。
壊れている訳ではない、つまり向こうが出ないだけ。
しかしセルシュは、ふと一つの可能性を考えてみた。

もしや、ボスや組織に何かあったのではないかと。
通信が出来ない時はそう通達する音が鳴る筈なのに、それすら無いのはおかしい。
再び通信機を調べても、やはり故障はしていないようだ。
こうなっては自力で何とかするしかない。
早くしなければ、あのセルシュに瓜二つの人物がサムス達に何をするか……。


「まず、この空間から出るには……そもそも何故いきなり部屋の様子が変わったのでしょう。ひょっとして知らない間にワープ装置に乗せられていた……?」


自分の居た空間が変わってしまったのではなく、自分が別の場所に移動させられた可能性も捨てきれない。
この濃い紫の禍々しい空間もまやかしかもしれない。

セルシュはすぐさま床かどうかすら分からない足下の濃い空間を踏み、違う感触が無いか探し始める。
ワープ装置は一方通行では起動しない……。
自分の予想が正しければ、どこかにワープ装置がある筈!

根気よく床を踏み回っていると、突然、他の場所とは違う音と感触がした。
これだと思い、普通にワープ装置を使う感覚で乗ると、すぐさま体が移動する。
気付けば、サムス達と分かれる前に居た部屋。


「やった! サムスさん、ピカチュウ君、どうか無事で居て下さい……!」


コンピューターで見た研究施設の地図とワープ装置の繋がり、行き先は、完璧に思い出す事が出来る。
そういった記憶系には元々自信がある方だが、そう長く見た訳でも無いのに未だにはっきりと覚えている……。
正直、調子が良すぎるのではと思っていた。

調子が良いのは良い事。
しかし何故こうまで。

普段、生物は本来持っている力を、全力のうちほんの一部しか出せないらしい。
そうでなければ全身に異常な負荷が掛かり、すぐに体を壊してしまうのだとか。
……ひょっとして、自分は今リミッターが外れてしまっている状態なのでは。
もしそうなら、この戦いが終わった時、果たして無事で居られるのだろうか。


「私が死んでしまったら、きっとサムスさん達は泣いて下さいますよね」


サムスとピカチュウだけではない。
スマブラファイターの仲間達はきっと、殆どが惜しんでくれるだろう。
そう確信できるのも、彼らを思うと死ぬのが惜しくなるのも、仲間というものの大切さを受け入れられたから。

けれど、出来れば。


「(ボスにも……私の死を惜しんで欲しいな)」


どうか、どうかボスが黒幕ではありませんように。
私を拾い、組織の一員としてでも大切にして下さったボスが、私を惜しんで下さる立場から変わりませんように。
セルシュはサムス達が先に進んでいる事を信じ、そちらへ向かいながら祈るように思い浮かべた。



一方、サムス達と偽者のセルシュは、亜空軍のロボット達を蹴散らしながら、順調に進んでいた。
偽者でも能力はセルシュと変わらないらしく、サムスやピカチュウとも連携を取る事が出来ている。


「セルシュさん!」


偽者の背後から襲い掛かろうとしていたロボットを、ピカチュウが蹴散らす。
有難うございます、と静かに礼を言い、偽者は内心で苛立ちを募らせていた。


「この辺りの敵は粗方倒したな……私達、良い連携が出来ているじゃないか」

「エヘヘー、だってボク達すっごい仲良し仲間だもんねー、セルシュさん」

「……ええ」

「もうセルシュさん、組織なんて関係なく城に引っ越して来ちゃいなよ! みんなだってセルシュさんのこと仲間だと思ってるし、歩み寄ってあげたら大歓迎間違いなしだよっ!」

「ピカチュウの言う通りだが、もし組織が黒幕でなかった場合きっとセルシュを手放したがらないだろう。お前は優秀だし、組織では大事にされているみたいだからな」

「……」


忌々しい。
偽者の頭に浮かぶのは、激しいまでの嫉妬と憎悪。


「(私が閉じ込められて一人ぼっちで居る間に、あいつは……!)」


同じなのに、私達は姉妹なのに。

何故あいつだけがセルシュという名前を与えられ幸せに暮らしていた?
何故あいつだけが愛され必要とされ、暖かい光の世界で暮らしていた?


「(私達は、不要になった筈では? 不要になったから、私達は……!)」


私“達”は?


……違う、


私“だけ”だ。


どうして、私だけ。
私だけ幸せになれず、暖かい世界にも連れて行って貰えなかった……!



偽者の憎悪は膨らみ続け、それは平常を保つのが困難な程にまでなってしまう。
セルシュ(の、偽者)が苦々しい顔をしている為に、何か悩みでもあるのかと思ったサムスは、心配げな顔で問い掛けた。


「セルシュ? どうした、どこか具合でも悪いのか?」

「……サムスさん。私、地図に気になる部屋があったのを思い出しました」

「気になる部屋?」

「ええ。亜空軍に関する何かがありそうなんです」


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