本来なら、このような重大な事が分かったらすぐ報告せねばならないのだが。
先程の矢印の件からセルシュは組織を疑っている。
もし、万が一黒幕がボスや自分の所属する組織なら、下手に報告などすると始末されかねない。
ボス達がどう出るかはまだ分からないが、だからこそ迂闊に接触出来なかった。


「……まだ、構いません。ロボット達の特徴なども書かれていますから確認しておきましょう」

「だな。ついでに、このモニターを操作できるか? 私のパワードスーツの場所が分かるかもしれない」

「少々お待ち下さい」


セルシュがコンピューターを操作し、部屋中にある多数のモニターの画面が次々と切り替わって行く。
暫くそうやっていると、画面の一つにサムスのパワードスーツが映った。


「セルシュ、止めてくれ! 今、確かに私のパワードスーツが……!」

「今の画面ですね。……これは、この研究施設のもっと奥の方みたいです。どうやら本館までは行かなくて済みそうですよ」


これでパワードスーツを取り戻せばサムスの目的は達せられるが、勿論、それで終わるつもりなどサムスには無い。
知ってしまった亜空軍や亜空間爆弾……このままにしておく事は出来ない。
セルシュがどうするかは分からないが、例え彼女が任務を終了するとしても、自分だけでも亜空軍を止めようと考えていた。
取り敢えず、全てはパワードスーツを取り戻してから。


「では行きましょう、この研究施設の更に奥。この辺りより敵の攻撃やセキュリティが強いでしょうから、気を引き締めますよ」

「はーい」


言いながら、セルシュがモニターを元に戻そうとコンピューターを操作する。
くるくる変わる画面が面白くて眺めていたピカチュウだったが、ふと、モニターにセルシュが映った。


「あれ、セルシュさん?」

「どうかしましたか?」

「あ、ううん。今、画面にセルシュさんが映ったような気がしたから。この部屋のカメラが映し出されたのかな?」

「恐らくそうでしょう。私はここに居ますし」

「あ、うん、そうだね」


モニターがくるくる変わっていたので確認できたのはほんの一瞬だし、ピカチュウも自信が無いので曖昧な返事を出した。
あまりゆっくりして亜空軍に嗅ぎ付けられると面倒なので、早々に監視室を後にして奥を目指す。

この先には行かせたくないようで、ロボットの数も増え、セキュリティも強い。
最初に入った通路は暗く、身の回りを認識するのが精一杯な程だ。
そんな中でもロボット達は、迷う事なくセルシュ達に狙いを定めて来る。
温度や振動、赤外線など、様々な要素でもってこちらを感知するのかもしれない。


「相手が姿を隠す訳ではないのが幸いですね。落ち着いて対処しましょう」

「そんな言われても、なかなか見えない……って、わっ!?」


ピカチュウが壁のスイッチに触れた途端、灯りが点いて充分な明るさになる。
が、暫く経つとすぐに消えてしまうのだった。
スイッチを探しながら先へ進めという事だろう。
落ちたら助からないと思われる程の吹き抜けになっている場所もあり、強がらず素直に灯りを点けた方が良さそうだ。
灯りを付けながら先へ進むと、やがて前方に大きな部屋。


「サムスさん、あれを!」

「……パワードスーツ!」


吹き抜けに丸い舞台が聳える大きな部屋の中央には、筒状のカプセルに入れられたパワードスーツ。
走り寄るセルシュ達、これでサムスの目的は達せられた。


「良かったですね、サムスさん。では私はこれで」

「待てセルシュ、どこへ行こうと言うんだ!」

「サムスさんは目的を達したのですし、もうご一緒する理由も無いかと」

「またそれか。今の私には世界を消す亜空軍という戦うべき理由がある。まだ利害は一致しているぞ」

「……そうですね」

「それに、例え亜空軍の事が無くてもお前を放ったらかしにはしない。私達は仲間だからな」


仲間。
その信頼が嬉しい、もっと信頼したいしされたい。
そんな事を考えてはいけないと、セルシュは必死に自分に言い聞かせている。
ちょっとでも気を抜けば弱くなり、サムス達に縋ってしまいそうで怖い。
今までの自分に誇りを持ち、自分を保つ為にはそうする訳にいかなかった。


「サムスさん、私は……」

「待ってセルシュさん、サムスさん! あれ!」


突然のピカチュウの叫び声にハッと我に返ると、通路から延びていた足場が収縮し無くなる所だった。
しかしピカチュウが驚いたのはそれではない。
代わりに残りの左右の足場から、色違いのパワードスーツが二体歩いて来た。


「これは……ただのパワードスーツではない……! まさか、私、か?」

「サムスさんのコピーとでも言うのですか!?」


サムスのコピー。
その言葉を聞いた瞬間、セルシュの胸にざわりと嫌な予感が広がる。
何しろセルシュの所属する組織“HAL”では、スマブラファイター達の武器や乗り物をコピーして使ったりしているから。
最近はスターフォックスが乗っているアーウィンをコピーして、それを足に使ったりもしていたし……。
こうなると益々、組織やボスが信用できなくなってしまうセルシュ。
拠り所だった筈のそれは今では疑念の対象となり、もう気を許す事など出来ない。

やはり、信頼できるのは己だけなのだと。
自分にそう言い聞かせて納得する事で、拠り所に裏切られているかもしれない現状を諦めようとするセルシュ。
こうでもしないと、ショックで耐えられない。


「セルシュ、ピカチュウ! 私はこちらの一体を相手にする! お前達は残りのもう一体を頼んだ!」

「サムスさん一人で大丈夫なの!? だってこれ、サムスさんのコピーじゃ…」

「私のコピーなら、乗り越えてみせる。一体ならば何とかなるだろう」

「分かりました、こちらの一体はお任せ下さい」


言いながら、セルシュは不安が拭えなかった。
もし本当にHALのコピー技術ならば、下手すると本物以上の能力が出る。
ただのコピーではなく、コピーして更に様々な機能や能力を付けたりするから。
それでもサムスならば大丈夫、と考えそうになり、慌てて思考を止めたセルシュ。
信頼など何にもならない無駄なものだと思い込もうとしても、心が許さない。


「(……今は、目の前の敵に集中しなければ)」


堂々巡りに陥りかけた思考を封印し、
セルシュはピカチュウと共にパワードスーツ……いや、サムスのコピーに立ち向かった。


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