サムスのパワードスーツ奪還とエインシャント島の調査の為、研究施設内部を進んで行くセルシュ達。
何故かセルシュが近付くとオレンジ色の矢印が出現し、その先に進む為の鍵やスイッチが存在する。
何者かの介入、具体的に言えば自らが所属する組織のボスを疑うセルシュは、先ほどから緊張を禁じ得ない。
そんな異変を察し、ピカチュウが心配そうに声を掛ける。


「セルシュさん、大丈夫? なんか少し様子がおかしい気がするけど……」

「ロボット達の攻撃が奥へ進むにつれ激しくなって行きますからね。早く本館へと向かいましょう」


軽く誤魔化し、スイッチを押した事により出現したリフトの元へ。
ジャキールをかわし奥のガルサンダーを倒すとスイッチが現れ、押した事により上の階の壁が下りて来る。
この壁こそ、先程コンピューターで見た本館への道を塞いでいた壁で、これで行き来が出来るようになった筈だ。

セルシュ達は上を目指し、研究施設内を進む。
セルシュが言った通り、ロボット達の攻撃は激しさを増すばかり。
こんなロボット達の元締めは誰なのか、ここまで来たなら確認せねば気がすまない。
ロボット達の攻撃に辟易したピカチュウが、やや自棄気味に叫ぶ。


「ああ、もう! 追尾弾を撃って来るロボットが鬱陶しいったらないよ!」

「……セルシュ、それをピカチュウに渡してやったらどうだ」

「えっ?」


サムスがこそりと指差したのは、無限増殖するバイタンが落としたフランクリンバッヂ。
確かにこれがあれば、敵の飛び道具を跳ね返せる。


「……ピカチュウ君、宜しければこれを」

「え? あ、これフランクリンバッヂだ! ありがとうセルシュさん!」


満面の笑みで礼を告げるピカチュウ。
その屈託の無い笑みを見た瞬間、セルシュの心にふわりと暖かいものが広がる。

子供は苦手だ。
ピカチュウは大人しめなのでまだマシだが、騒がしかったりやんちゃだったりする子供とは出来るだけ一緒に居たくない。
けれど、そんな子供達もきっとこんな風に笑うだろう。
そう考えると、子供も悪くないかな、などとつい思わされてしまう。


「良いだろう、こんな風に礼を言われるのは」

「……ま、まあ。悪い気分はしませんけど」

「……」

「何を笑っているんですか、サムスさん」


強がるように言ったセルシュが照れたような顔をしていたのが微笑ましく、つい笑ってしまったサムス。
多分、拗ねて意固地になってしまうだろうから、彼女には言わなかった。

更に研究施設を進み、本館へと続く道を塞いでいた壁の所に到着するセルシュ達。
当然今は壁もなく、段差の激しい通路になっている。
その通路のあちこちには、動く物に反応して爆発する機雷が設置されていた。
こんな物があるとは、この施設ではかつてどんな研究が行われていたのだろう。
大方、生体実験など非人道的なものだろうが。


「この研究施設、ロボット達が来る前は普通に人間が居たらしいですからね」

「どんな惨たらしい研究をしていたのか……考えるのも気が滅入るな」

「セルシュさん、サムスさん、あの機雷は僕の電撃に任せて。遠くから爆発させちゃうから!」

「ああ、頼んだぞピカチュウ。私達もパラライザーなどで手伝う」


動く物に反応する機雷を遠くから攻撃する事で爆発させ、進路を確保する。
段々とチームワークが出来て来た事に、セルシュは何だか複雑な気分。
信頼できるのは己ただ一人、馴れ合ったりするのは間違いだと思っていたのに、今のこの状況は。
居心地が良いと、つい思ってしまうから。
一定の実力があれば、一人より複数の方が個々の負担は減るし楽だと、分かってはいるのだけれど。
馴れ合いで甘えでしかないと今まで思っていた自分を否定してしまうようで。

……今までの自分を、全て否定してしまうようで。


「(……私が今まで一人でやって来たのは、間違いだとでも……? 認めたくない。今までの私が否定されるなんて、そんなの)」


今まで、己だけを信じて過ごして来たセルシュ。
それが否定されるという事は、己の全てを否定するも同義。

怖かった。
自分の全てが否定されてしまうのが怖かった。

過去の記憶も無く、いきなりボスの組織に拾われて一員となっていた自分。
ボスや組織が唯一の拠り所だったのに、ボスが疑わしくなっている今、拠り所とするには不安が募る。
そんな、セルシュにとって故郷も同じ組織に拠れなくなってしまい、本当に自分しか拠り所が無いのに。
それまで否定されてしまっては、もうセルシュに居場所も存在を認めてくれるものも残されてはいない。


「(私は今までの自分が間違いだとは認めません。今の気持ちこそ、間違い。最後の拠り所である自分が否定されるくらいなら、私はファイターの皆だって裏切ってみせる)」


心密かにそう思いつつも、セルシュの片隅に生まれて来るのは罪悪感。
本当はこの信頼を嬉しく思っている、だから裏切る事に罪悪感を覚える。
その事実からセルシュは目を逸らし、もう何も見ないとばかりに蓋をした。

機雷の通路を抜けると、そこには大きな扉。
中に入るとモニターが沢山あり、どうやら研究施設全体を監視しているらしい。


「随分と広い研究施設みたいだな、これだけモニターで広範囲を映しているのにまだ他がありそうだ」

「監視室ですが簡単なコンピューターはありますね。ひょっとしたらサムスさんのパワードスーツや、ロボット達の事が分かるかも」


言いながら、セルシュは研究施設の内部ネットワークを探してアクセスする。
さすがに完全には繋げていないようだが、ある程度の事は知る事が出来た。

この研究施設に居座るロボット達は“亜空軍”という組織であるという事。
爆発してある程度の範囲を切り取りデータ空間に奪い取る“亜空間爆弾”という物を、研究施設先の工場で製造している事。


「えっと、ボクよく分かんないんだけど……。このままじゃ世界が消えちゃうって考えていいんだよね?」

「そうだな……このままでは危ない。セルシュ、組織に報告はしなくていいのか」

「……」


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