やがて追い付いたメタナイトの戦艦、ハルバード。
そこは大陸東端の氷山で、麓には深い渓谷もある。
ハルバードはフォックスが所持する母艦グレートフォックスと交戦中で、それを見上げたメタナイトが戦慄いた。


「これ以上、艦を好きにさせてたまるか……! 皆、私はハルバードへ向かう!」

「あ、ちょっとメタナイト卿!」


メタナイトは引き止める声も聞かずに翼を羽ばたかせ飛んで言った。
そのまま近付いたのでは攻撃される可能性もあるため氷山を盾にしながら、軽い山登りだ。
追おうと思えばマキアートは追えるが、当然のように止められて諦める。
上空では相変わらずハルバードとグレートフォックスが撃ち合っていたが、やがて2艦とも雲の上に消えてしまった。


「あーんもう、黙って見てるしか出来ないの!?」

「オレがリザードンで飛んで様子を見て来ようか?」

「レッド君が? さ、さすがに危ないだろうからいいよ、メタナイト卿を待とう」


2艦が消えた雲は赤黒い不気味な姿をしている。
きっとただの雲ではないだろうし無闇に近付かない方がいい。
そうなると一人で行ってしまったメタナイトが益々心配になる訳だが……。

ただ空を見上げて心配するしか出来ないもどかしい時間。
その時間を持て余したらしいマキアートはマルスに、先程アイクと話した事を相談してみた。
まだ全く整理はついていないが、これからこの戦いがどうなるか分からない。
悔いが残ったりしないよう、時間があるなら出来る事はやっておいた方が良いかもしれない。


「……そう、ですね。マキアートさんは別世界の人なんですから」

「あ、もしかしてマルス君も忘れてた?」

「忘れていたと言うか……考えないようにしていたのかもしれません。逃げてますね」


自嘲的な笑みで言うマルスを批判する事など、当然マキアートには出来ない。
逃げるわけにはいかないが、逃げたくなってしまうのはマキアートも分かる。
いっその事 何か奇跡でも起きて全てが解決しないかと妄想してしまったり。


「マルス君に故郷を捨てさせる事なんて出来ない。守るべきものが多すぎるでしょ」

「すみません……」

「謝らなくたって大丈夫。たとえマルス君が地位や立場の無い一般人だったとしても、異世界人である以上は故郷を捨てるって大きな決断をしなきゃいけないでしょ。同じだよ」

「だけど僕は、その大きな決断をマキアートさんだけに強いてしまっています」

「マルス君はあたしに一緒に来て欲しいんだ」

「……本音を言えば」

「そう思ってくれてるだけでも嬉しいな」


優しくて責任感の強いマルスの事だから、マキアートに故郷を捨てさせる以上、一生大事にしてくれるだろう。
自分が彼にとってそんな存在になれているというだけでマキアートは心から幸せが湧き上がる。
けれどそれを実現する為にはマキアートの方が多くのものを捨てなければならない。


「あたしはマルス君と一緒に居たい。だけど故郷を捨てるのも、家族や仲間と別れるのも寂しいんだ」

「当然の感情ですよ。僕もあなたと一緒に居たい。だけど強要する事は出来ません」

「……マルス君があたしを攫ってくれたら……なんて、決断の責任を押し付ける事になっちゃうか」

「……」


正直マルスは、それをしたいと思った事がある。
恋したマキアートが異世界人だという事を考えないようにしてしまう前は、たまに彼女との事を考えていた。
いつか別れなければならなくなった時、無理にでもマキアートを連れ帰りたいと。
もちろんそれはただの妄想で、実際に出来るかどうかは別の話ではあるが、選択肢の一つであったのは事実。
マルスは深呼吸するように息を一つ、大きく吐き出した。


「何か奇跡でも起きて、僕の世界とマキアートさんの世界を自由に行き来できるようになりませんかね」

「あー、そうなってくれれば良いよね。都合が良すぎるけどさ」

「全く別世界に暮らす僕達がこうして出会えているんですから、不可能ではないと思います」

「言われてみればそうか……。そうならないかなあ」


マキアートがマルスの世界に行く事を躊躇っている理由は唯一つ、愛する故郷、家族、仲間と永遠に別れなければならない事。
それさえ解決するなら迷わず付いて行く事を決断できるのに。

大切な弟のアイク。妹のミスト。
仲間として、家族として共に暮らす掛け替えの無い傭兵団の仲間達。
大きな戦いを共に勝ち抜いた頼もしい戦友達。
命を懸けて守り抜いた愛すべき故郷。

死ぬ訳でもないのに永遠に離れるのは寂しい。とても寂しい。
考えるだけで胸が締め付けられて苦しくなる。


「家族や故郷と離れるの、寂しく思わなくなる方法があれば良いのに」

「やっぱりそれには、お互いの世界を自由に行き来できるようになるしかないでしょうね」

「だよねえ……」


奇跡よ起きろ、なんて。
きっと意味は無いだろう祈りをマキアートは心中で繰り返した。



やがて、一向に動かなかった状況に変化が訪れる。
不気味な雲の上に行ってしまったハルバードが再び雲の下へやって来たのだ。
ただしその底部にグレートフォックスをワイヤーで固定し、圧し潰そうと氷山へ押し付け始めた。
ばらばら降って来る氷山の氷や雪、グレートフォックスの破片、そしてアイスクライマーのポポとナナ。
何とか着地した二人にマキアートが駆け寄る。


「ポポ、ナナ!? 氷山に居たんだ!」

「わ、マキアートさん!」

「これ何が起きてるの? どうしてグレートフォックスが……」


言い終わる前に、更にハルバードから何かが降って来る。
虫のような動きをする影の粒。
影虫と呼ばれるそれは、地面に着くなり今まで戦って来たような多種多様の亜空軍を形作る。
のんびり状況を説明している場合ではなさそうだ。


「事情は後で話すから今はこいつらと戦おう!」

「う、うん」


不本意ながら、もうすっかり慣れてしまった亜空軍との戦い。
しかし今までとの違いは数の多さと密度。
数だけならこれまでこなして来た戦いと変わらないだろうが、深い渓谷の足場が限られる場所で襲撃を掛けられ戦い辛い。
二度ある事は三度あるで落ちないようにしないと、なんて考えながら戦っていると、頼もしい声が追加される。


「お前ら、大丈夫か!!」

「え……あ、マリオ!」


近くの崖の上からマリオ・リンク・ヨッシー・カービィと、翼を生やした見知らぬ少年が飛び降り加勢してくれた。
味方の登場に士気も上がって、張り切りながら亜空軍と戦うマキアート達。

……しかし、次の瞬間。


「マキアートさんッ!!」

「え」


突如、悲鳴のようなマルスの叫び声が渓谷に木霊した。
振り向いてそちらへ向かおうとしたマキアートは突然、反対側に体を引き寄せられる。
今度はそちらを振り向くと、そこには人一人くらいの大きさしかない亜空間。
そこから出た長い鞭のようなものに体を絡め取られている。


「なにこれっ、放っ……! いやぁっ!!」


マルス達はすぐさま駆け寄ろうとしたが、届く前に思い切り引っ張られたマキアートは亜空間に引き摺り込まれて行った。
攻撃の合間を縫ってマキアートが消えた亜空間の場所に辿り着いたマルスとアイクだったが、追おうにも亜空間自体が既に消えてしまっている。


「そんな、マキアートさん!」

「姉貴……!」


一瞬呆然としてしまうが、相変わらず亜空軍の攻撃と増援は続いている。
慌ててそちらに対峙し戦闘を再開する二人。

やがてようやく亜空軍が尽き、マリオ達もマキアートが消えた亜空間のあった辺りに集まった。


「マルス、アイク! マキアートは……!」

「……駄目です。居ません、どこにも……」


完全に不意を突いた状態だったのに、攻撃されるのではなく連れ去られたという事は、一応まだ生きている可能性の方が高い。
しかし一体何者が、何の目的でマキアートを連れ去ったのか。
そこでふと思い出したのが、メタナイトが語ってくれた亜空軍の親玉タブー。


「(もしかしてマキアートさんはそいつに……? しかし何故)」


考えるマルスの脳裏にふと、ある一つの疑問が思い出される。
亜空軍が広げていた亜空間……あれがマキアートの操る闇の魔力と酷似した雰囲気を持っていた。
まさか彼女が亜空軍の一員、まして黒幕だなんて疑っている訳ではないが、ひょっとすると何か関係ぐらいはあるのではないか。


「(だとしても、一体何の関係が……)」


考えても何の答えも浮かんで来ない。

やがて大陸沖、遙か海の彼方で巨大な亜空間が広がるのを目撃する一行。
それから少し経ち、ハルバードやキャプテンファルコンのファルコンフライヤーが飛来し降りて来る。

真実とマキアートの行方を眩ませたまま、戦いは最終局面へ入ろうとしていた。


*back × next#


戻る
- ナノ -