うだうだ悩んで、戦いに支障が出るのは頂けない。
それならばもう、本当の気持ちを伝えた方がマシだ。
恥ずかしさや気まずさも、ぶっちゃけてしまえば後の祭。
基本的に前向きなマキアートならば、戦いに支障は出なくなるだろう。
後はマルスに謝罪して、戦いを終えてから返事を聞きたい旨さえ伝えれば。


「昨日から散々嫌な態度取ってごめんね。返事は戦いが終わってからで良いから。それまではあたしもキミを想う女じゃなくて、頼れる戦士のままで居るからさ!」


満面の笑顔で言うマキアートに、マルスも少しだけ振り向いて微笑んだ。

吹き荒ぶ強風の中、仲間達に守られながらも魔法を駆使して敵を倒して行くマキアート。
剣士達はマキアートを信頼してくれているらしく、敵の出現と位置を知らせる以外は手を出す事が無い。
その信頼をマルスも寄せてくれていると思うと、マキアートの心は喜びで沸き立った。

やがて戦車ガレオムに追い付いたマキアート達。
メタナイトが仲間達を制するように片手を横に出す。


「気を付けろ、この戦車は巨大なロボットに変形して襲い掛かって来るぞ!」

「ま、まさかの変形ロボ! オトコノコのロマンがぎゅうぎゅう詰めだね!」

「そんなん言ってる場合じゃないですマキアートさん!」


言い終わるが早いか、早速ガレオムがロボットに変形し襲い掛かって来た。
ロボットの癖に四肢が生身の動物よりも滑らかで素早く、体を滅茶苦茶に動かすだけでも凄まじい攻撃となる。


「マキアートさんは遠距離から援護を!」

「分かった!」


ガレオムの周囲を飛び回り撹乱に専念するメタナイト、
持ち前の機敏さと隙の少ない攻撃で囮を務めるマルス、
そして二人が作り出してくれた隙を突き、大技を繰り出すアイクとマキアート。


「(うーん、良い連携! きっとあたしも対等な仲間になれてるよね、マルス君ちゃんと評価してくれるかな?)」


つい、うきうきと浮かれた気分になるが、今は戦いの最中なので気を引き締める。
このままなら大した苦労もせずに倒せそうだ……と、思った瞬間、突然ガレオムが辺りを滅茶苦茶にジャンプし始めた。
かなりの巨体、こうなると間合いを空けていても簡単に距離を詰められてしまう。


「姉貴ッ!!」

「だ、大丈夫! このくらい一人でも何とか……」


何とか出来るから、と言いかけたマキアートだが、その前にマルスが全力疾走でマキアートの元へ駆け寄って来た。
そしてマキアートを引き寄せると庇うように背後へ回し、構えて剣に意識を集中させる。


「マ、マルス君……!」

「あいつ狙いを定めて動いている訳じゃないようです。僕の側から離れないで!」


有無を言わせない強さに押し黙るマキアート。
やがて地面を抉りながら跳ね回っていたガレオムがアイクの攻撃を受けて軌道を変え、マキアート達の方へ。
そのタイミングを見計らったマルスが最大まで溜めたシールドブレイカーを放ち、それが決定打となった。

火花と黒い煙をあちこちから出し始めたガレオムは、一旦引く事に決めたのか大きくジャンプし、背後の低地へ。
どうやら荒野自体が高地になっていたらしいが……。
奴が遥か下方の石畳の地面へ着地した瞬間、突然足下がオモチャのように崩れ始める。
下は巨大で底が見えない程の空洞になっており、ガレオムはそのまま落下して行った。

どうやら勝ったらしいが、マキアートは浮かない顔。
足手纏いになってしまった、と思っているらしい。
それでも心配をかけるまいとしているのか、明るく笑顔を作りけらけら笑った。


「あ、はは。ごめんね最後の最後で足引っ張っちゃって! あーもー駄目だった、ちょっとビビって足が動かなくなってた」

「……マキアートさん」

「次! 次で挽回するからチャンスくれない? もう足手纏いなんかにならな……」

「マキアートさん、聞いて下さい」

「ん?」


明るく振る舞うマキアートとは違いマルスは真剣な顔。
何を言われるかと心の中だけで身構えるマキアートだが、マルスは真っ直ぐに向き合うと、一つ一つ言い聞かせるように言葉を紡ぐ。


「あなたは拘り過ぎです。性別なんて気にしないで欲しい……と言っている人ほど、男女の性差を気にしているものですよ」

「……」

「僕はあなたが女性だから助け守った訳ではなく、仲間だから守ったんです。あと守られたぐらいで足手纏いだなんて思う訳ないでしょう。僕は、仲間を助ける気も起こさないような冷血ではないつもりですから」


冷たさがあまり感じられない優しい声音からして、怒っている訳ではなさそうだ。
これは怒っているのではなく、マキアートが自分を足手纏いだと思っているのを悲しんでいる、というのが近そう。
何も言う事が出来ないマキアートに、マルスが少し頬を染め気まずそうに顔を逸らす。
しかし意を決したように再びマキアートの方を見ると、彼女の手を取ってぎゅっと握り締め……。


「それに、僕だって男なんですから。……好きな女性をちゃんと女性扱いして、守る事ぐらいさせて下さい」

「……へ、えっ」

「僕を想う女ではなく頼れる戦士で居る……なんて言っていましたが、やっぱり嫌です。だってあなたは、自分を追い詰める目的でそう言ったも同然じゃないですか。マキアートさん、どうかいつでも僕を思ってくれる女性で居て下さい。あなたは僕が特別に守りたい人なんです」


それは、そういう意味か。
いや、いくら異常なまでの鈍感だったとしても、これで分からないなら本気で頭の異常を疑った方が良い。
戦いが終わったら、なんて遅らせる事で気軽に構えていたのに、こんなに早く返事を貰えるとは思っていなかった。
この早さ、マルスは元からマキアートが好きだった……と思っても仕方ない早さだ。


「僕は、あなたが好きです」

「マルス君……」

「あー、姉貴もマルスも取り込み中に悪いが、ちょっと良いか」


二人の世界に浸っていた所へ声を掛けられ、我に返ったマキアート達は慌てて体勢と身なりを整える。
どうやらガレオムが落下した大穴の底から物音がするらしい。
底に何があるのか……下方には何かの入り口があるが、穴の側なので危険だろう。
飛べるマキアートとメタナイトが穴から降りて様子を見て来る事に決まりかけたが、その瞬間、ガレオムが轟音を立て穴から飛び出して来た。

その手に、リュカとポケモントレーナーのレッドを掴んで。


「メタナイト卿!」

「ああ!」


マキアートはメタナイトに声を掛けつつ、闇の魔力を粒子状にして翼を形成する。
メタナイトもマントを翼に変えると、マキアートと共にガレオム目指して飛び立った。
空中でリュカがPKサンダーを放ち、彼らを掴むガレオムの腕が切り離される。
二人は地面へ真っ逆さま、しかも辺りを亜空間にする亜空間爆弾を積んでいたのか、更に上空でガレオムが爆発し、全てを呑み込まんと追い掛けて来る。


「リュカ、レッド!!」


彼ら以外目に入らない程の全速力で、迫る亜空間も厭わず飛んで行くマキアート達。
マルスとアイクが固唾を飲んで見守る中、無事にマキアートがレッドを、メタナイトがリュカを掴み崖際まで戻って来た。


「皆、大丈夫!?」


言いながら真っ先にマキアートへと駆け寄るマルス。
リュカ達はアイク達が面倒を見てくれているから良いが、マルスは、怪我はありませんか、ご無事で良かった、とマキアートばかり気にしている。
何だかマルスがマキアートしか見えていないように思えて、何とも照れ臭い。


「あの、マルス君」

「言いたい事は分かります、ちゃんと僕はあなたを信頼していますよ。でもあなたを想う男として、心配ぐらいさせて下さい」

「ん、うん……」


こんなに恋に夢中になるキャラだっただろうか……?

またもマルスの意外な一面を発見してしまい、こんな状況なのに別の方向で戸惑ってしまうマキアートだった……。


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