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メタナイトを仲間に加えたマキアートとマルスは、エインシャント卿を追って東を目指し走る。
辺り一帯は亜空軍の兵士達に占拠されているようで、戦いは避けられない。
「全く、こいつら一体なにが目的なのよ! 次々出て来て鬱陶しいにも程があるっつーの!」
「亜空間を生み出すあの爆弾を見るに、領土拡大……と言うよりはこの世界を支配したいのだろうな」
「何が何でも止めなければいけませんね。マキアートさん、メタナイト卿、頑張りましょう!」
嫌になりそうな数の敵を、お互い、そして自分を激励しながら退ける。
この近辺は地面の所々に崖のような亀裂が入っており、注意しなければ真っ逆さまになるだろう。
しかし敵の数が多いと、どうしても注意力が散漫になってしまいがち。
「わっ!?」
「マキアートさん!」
突然マキアートがバランスを崩し、運悪くその先はかなり大きな亀裂の崖。
マルスは敵も忘れてマキアートに手を差し出し、彼女も夢中で手を伸ばす。
まるでスローモーションになってしまったかのように感じる緊迫の時。
しかし実際に経過した時間はほんの一瞬だけ。
差し出した手に触れる事なく崖下へ消えたマキアートを追い、マルスは何の躊躇も無く飛び降りた。
二段ジャンプだの何だのの人外的な身体能力を使いこなせるお陰か、落下したマキアートもマルスも大した怪我はしていない。
メタナイトもマントを翼に変えて降りて来て、心配そうに声を掛ける。
「マキアート、マルス! 大丈夫か、動けるか?」
「僕は大丈夫です。マキアートさん、怪我はありませんか? どこか異常は」
「あ、あたしも大丈夫だけど……マルス君、なんて無茶するのよ! 無事だったから良かったけど、万が一があったら……!」
「万が一があったら大変だから、マキアートさんを追い掛けたんです。本当に血の気が引きましたよ、無事で良かった……」
心からホッとしたような切なげな笑顔を見せるマルスに、マキアートは一瞬だけドキリとした。
可愛いお坊ちゃんで弟のような存在で……実弟のアイクとは全く違うけれど。
そんなマルスが今までと違って見え、かなり新鮮な気持ちになってしまう。
「ま、まあ有難うね。一応お礼は言っとくよ」
「はい」
「取り敢えずここから出たいけど……メタナイト卿は飛べるしあたしも闇の魔力を具現化して翼にすれば飛べるけど、マルス君が無理だよね。あたしとメタナイト卿で掴んで引き上げられるかな?」
マキアートがそんな事を思案していると、メタナイトが明後日の方向へ向かう。
付いて来い、という言葉に従うと、そこにはやや古びた、しかし頑丈そうな作りのトロッコが。
どうやらこの辺りは昔に鉱石の発掘などを行っていたらしく、その名残がこのトロッコらしい。
レールはエインシャント卿が逃げた東の方角に延びており、上手く行けば追い付けるかもしれない。
崖下に落下する前からエインシャント卿を見失い掛けていた以上、今から地上に戻っても追い付く事はきっと不可能の筈。
こうなっては、このトロッコに賭けるしかない。
「見た所、トロッコに異常は無さそうだ。逆に不自然な程新品というか」
「しーーっ! メタナイト卿、敢えて触れなかったんだから突っ込まないで!」
「トロッコだけ後から配置したんでしょうか? ひょっとしたら、罠という可能性もあるかも……」
「マルス君まで何よ、落ちるかどうかも分からない地下に罠なんて配置するだけ無駄でしょ!」
「それもそうですね…」
「ああもう、ウダウダ考えてたって時間が過ぎるばっかりよ、エインシャント卿を見失っちゃう! 二人とも、行こう!」
マキアートの有無を言わせない言葉に押され、トロッコを動かすマルス達。
ややスピードが乗って来た所でトロッコに飛び乗り、薄暗い地下洞窟内を高速で走り抜ける。
意外に揺れも少なく快適だったが、間も無く前方を見ていたマルスが驚愕の声を上げた。
「マキアートさん、メタナイト卿! レールの先が切れてるみたいです!」
「わーーっ!!」
「マキアート、マルス、すぐに跳ぶんだ!」
思い切りジャンプするが、着地先はレールではなく次なるトロッコ。
勢いで発車してまた暫く後に同じ状況になり、数回繰り返した後で出口と見られる階段前に落ちた。
体を打ち付けたが、先程の崖上からの落下に比べたら何という事は無い。
すぐさま体勢を立て直し、階段を昇って地上へと足を進める。
相変わらず空はどんよりと曇っていたが、薄暗い地下から出た直後では些か眩しいように思えた。
と、東の上空を見やったマキアートの目に、急に映り出た緑のローブ。
「……って、あれ! エインシャント卿じゃ!?」
「本当だ! 行きましょう、奴を止めないと!」
真っ直ぐに駆け出し、まずはマルスが攻撃を仕掛けるが、相手が飛んでいる為にギリギリで届かない。
メタナイトがマントを翼に変え、マキアートも含蓄した魔力を背中に集中させ、闇の粒で翼を作る。
そしてメタナイトの後に付いて飛び上がったが、エインシャント卿がレーザーを撃って攻撃し、翼を撃たれたメタナイトが落ちる。
前に居たメタナイトが居なくなり、マキアートはエインシャント卿と真っ正面から対峙する羽目に。
ヤバい、撃たれる! と思って目を瞑った瞬間。
「天っ空!」
「わっ!?」
急に見慣れた剣が現れたかと思うと、慣れ親しんだ弟が飛び出して来る。
エインシャント卿の下に付いていた亜空間爆弾を破壊し、その衝撃でレーザーの照準がずれる。
マキアートを打ち抜く筈だったレーザーは、代わりに彼女の翼を打ち抜き。
「いやあああああ!!」
「姉貴ッ!!」
「マキアートさん!!」
魔力を源とする闇の粒で作られた翼が崩れた。
突然のアイクの出現と思いがけないレーザーの命中箇所に驚き、翼を再構築する暇がない。
さっき崖下に落ちた時に大丈夫だったから今回も無事だろうが、恐らく避けられないであろう痛みに身構え、マキアートがぎゅっと目を瞑った瞬間。
ぼふっ、と意外に柔らかい衝撃が体を包んで、予想した痛みが中断される。
えっ!? と驚いて目を開けると眼前には、ホッとしたようなマルスの顔。
どうやら下に居たマルスが、マキアートを横抱き、つまりお姫様抱っこして助けてくれたようだ。
「まままマルス君!?」
「マキアートさん大丈夫ですか!? 今日は厄日ですね、しょっちゅう落下して」
「ああうん、きっと今日の占いカウントダウンで最下位だったに違いない」
「姉貴、無事だな! よかった……すまんなマルス、姉貴を助けて貰って」
「いえ、このくらい。マキアートさんが、そしてアイクさんも無事で良かったです」
「姉貴もマルスに礼を言っておけよ」
「あ、うん。有難うねマルス君、助かった」
どういたしまして、と微笑むマルスが眩しい。
マルス君って本当に王子様だなあと見とれていたが、メタナイト卿が来たので慌てて下ろして貰う。
取り敢えずアイクにメタナイト卿の説明と亜空軍の説明をし、改めてエインシャント卿を追う事に。
亜空間爆弾は破壊したがあれで最後という訳でもないだろう、早めにエインシャント卿を止めなければ。
まるで行く手を遮るかのように亜空軍が立ち塞がるが、アイクも仲間に加えた四人の敵ではない。
やがて見晴らしの良い高台の崖に到達し、エインシャント卿を見送るしか無くなってしまった。
「もー! あと少しで追い付けたのにっ!」
「私とマキアートはいいにしても、さすがにアイクとマルスは飛べないからな。どこか道を見つけて、奴を追い掛けよう」
「敵が多い以上、こちらも少しでも味方を多くしたいですからね」
「取り敢えず奴を追おう。東の先には荒野や遺跡があるから探すのに苦労するかもしれんが、こんな所で立ち止まってもおれんだろう」
四人は意見を一致させ、更に東を目指す事に。
マキアートとしては二度ある事は三度あるの法則に則り、またどこかから落下するのではと不安があったりするのだが、ここは三度目の正直として華麗に決めるべきだろう。
「マキアートさん、何だか不安そうですね」
「マルス君……。二度ある事は三度あるの法則でまた落下するかもしれないと思ってね。さすがに次こそは三度目の正直で気を付けなきゃなあと」
「ですね。でもマキアートさんがまた落下しても、僕が受け止めますから」
言葉ば冗談のようにも聞こえるのに、マルスの顔は真剣そのもの。
マキアートはまたドキリとしてしまい、お願いね! と素早く言って顔を背ける。
こんな時に何をトキメいているんだと自身を戒め、ひたすら東を目指した。
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