どんよりと曇る空の下、かつて戦場だったであろう砦の屋上に、蒼い髪と瞳の娘が佇んでいた。
その娘に、背後から青い髪と瞳の少年が声を掛ける。


「マキアートさん、アイクさんは今どの辺りに?」

「マルス君。ずーっと向こうだよ、そろそろ見えなくなっちゃいそう」


娘の名はマキアート。
弟であるアイクと友人であるマルスと共に、この世界を見て回るため旅をしている最中だった。
だがその途中、立ち寄ったこの朽ちた砦を探索していた折、妙な気配を感じたアイクが見回りに行ってしまう。
危ないかもしれないから待っていろと言われ、マキアートはマルスとあちこち見物していた所だった。


「さっそく暇だね。何か話でもする? そう言えばマルス君はどうしてこっちの土地に来たかったの?」


旅立つ際、マルスは初めから北に……こちらの海がある方に来たがっていた。
それが何故か気になったマキアートは、マルスにその理由を問うてみる。


「そうですね。こっちの方角って、荒野やジャングル、平原に遺跡に氷山と、この世界で特に様々な物がある土地じゃないですか。異世界というものをより体感したかったから、一度に味わえるこっちに来たかったんです」


こちらの方角には乱闘で使用する空中スタジアムがあるが、今まではそこにしか行っていない。
こんな砦があった事も知らなかった訳であって、新たな経験にマルスは心底嬉しそうだった。
近くの壁に手を添え、目を瞑ってかつての姿を想像してみるマルス。
例え歴史など無くとも異世界の鼓動を感じる事が出来ればそれで良い。


「こんな風に自由な旅なんて、元の世界では絶対に出来ません。それに異世界を感じるなんて不可能です。だから僕は、この世界に居られる内に、体験できる事は体験しておきたい」

「そっかあ、マルス君って王子様だもんね。あたしも異世界人な訳だけど、役に立ってる?」


マキアートの問いにマルスはにっこり微笑み、勿論です、としっかり返す。
異世界の仲間達との貴重な時間だって元の世界では全く味わえない。
いつか悲しい別れが待っているとしても、今は共に在る時間を楽しみたい。
それはマルスやマキアートのみならず、スマブラファイターの仲間達全員が思っている事だろう。


「じゃあマルス君、一緒の時間を楽しもうよ。アイクが戻って来たら、どんどん色んな場所に行こう」

「はい」


言って、アイクはどこまで行ったかと目を凝らして広大な戦場を見下ろし見渡すが、既に彼の姿は全く見えなくなっていた。
……その代わり、何か妙なものが目に入る。


「……マキアートさん、あれ……何でしょう?」

「あれ……って、あ、何か遠くで動いてるね」


遠いので小さくて、何かが動いている事しか確認する事が出来ない。
だが次の瞬間……大きな爆音と共に、戦場の彼方に濃い紫色の巨大な空間が広がった。


「なに、あれっ!」


突然の出来事に、呆然とそちらを見る二人。
やがて、一人乗るのがギリギリなプレートに乗った人物が飛んで来る。
緑のローブで全身を覆い隠し、プレートの下には謎の銀色の球体。
そしてそいつの下から、謎の人形が次々と湧き出て砦に向かって来る。
間違いない、奴らは明らかに自分達を狙っていると確信するマキアート。


「マルス君……!」

「この砦でどこまで保つか分かりませんが、籠城で応戦しましょう。どこか狭い通路を見付けて、そこに誘い込むんです」


マキアートやマルスの故郷の世界では敵の数の方が圧倒的に多い場合、そうやって狭い通路などに誘い込むのは戦の上策として常識だった。
頷いたマキアートを連れマルスは砦の屋上から砦の内部へと向かう。
しかしいつの間に侵入していたのか、既に砦の中にも敵が居た。
マキアートは闇魔法を、マルスは剣を構え、まだ敵が少ないうちに狭い通路を見付けるため敵を屠る。


「まったく、いつの間に入り込んだんだか…」

「まだ数も少ない。マキアートさん、突破できますか」

「ちょっとマルス君、あたしだって、これでも戦争を勝ち抜いて来たのよ。このくらいならどうって事ないよ」


笑ってそう言うマキアートにマルスは、そうでしたねと微笑みを返す。
やがて狭い通路を見つけた二人はそこへ入り襲い来る敵を迎撃する。
こうする事により左右からの不意打ちを防ぎ、また敵も一度に1人しか攻撃できなくなるので人数差のハンデが減少する。
更にこちらは2人なので、お互いに背中を預ければ全方向に死角が無くなる訳だ。


「広い場所におびき出して、あたしの魔法で一網打尽って手もあるけど」

「それだと、敵を閉じ込められる上に僕達が安全な場所を探さなければなりませんよ。そんな場所が見つかっていない今、こちらの方が確実です」

「……デスヨネー」


年下のマルスにぴしゃりと否定され、マキアートは恥ずかしさを押し込める為に惚けた顔で笑う。
やがて敵の数も目に見えて減ってきた。
となると気になるのは外の様子。
それに何より偵察に出たアイクの安否だ。


「マキアートさん、そろそろ打って出ませんか!」

「そうだね、いい加減アイクの事も心配だし! ……まあ、あの子なら大丈夫な気もするけどね」


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