烈火の娘
▽ 3


「わたしもリンの気持ち分かるなあ。わたしだって、さっき魔法を使えた時や草原での凄い魔法も、信じられないもん」

「分かってくれるアカネ? ふわふわして実感が無いの、不思議な気分」

「そうそう」

「リンディス様、アカネさん、こう考えてはどうでしょうか」


急にセインさんが割り込んで来たから、今度は何を言い出すかと不安…。
だったけど、意外にも? しっかりした事だった。

武器にも、使い易いとか使い辛いとかの相性ってものがあるらしい。
確かに道具とか楽器とか、そういうのあるね。
だから、このマーニ・カティは、リンの気にとても合うものだと思えばいいんじゃないかって。


「アカネさんも魔法を使えたのは、きっと気が合ったからですよ! 相性がいいんでしょう。俺達は魔法使えませんし、リンディス様の剣も使えないみたいですし」

「私に合う、私にしか使えない剣……」

「魔法と気が合う、か。不思議ですけど、そう考えると楽しいですね」



リンも納得したみたい。
セインさん、いいこと言ってくれるなあ。
いつもこうだったら、ケントさんにも怒られないんじゃないかな。

改めてわたし達は、リンの故郷……リキア国のキアラン領を目指して西へ向け出発した。
ベルンって国の北部を通るらしいけど、サカの草原とベルン王国を遮る山脈には山賊団がいくつも潜んでるらしい。

歩き続けて10日が経った頃、わたし達はその被害を目の当たりにした。
たまたま通りかかった村が、凄く荒れてる。
建物は無残にボロボロで、人の気配もない。


「なあに、これ……。台風でも来たのかな?」

「違うわアカネ。このタラビル山には、この地を治める領主たちも手出しできないような凶悪な山賊団が巣食ってるの」

「タラビルって……リンの部族を滅ぼした!?」

「そう。山を挟んでちょうど反対側が、私達の住んでいた所よ」


運良く生き残れたのはリンを含めて十人にも満たなかったって聞いた。
女も子供も容赦なく殺し、奪える物は全て奪って行ったって……。

リンの表情が険しくなる。
いつもの優しい彼女とは違う、翳りのある顔。


「ここから逃げるんじゃない、私はいつか必ず戻って来るわ。あいつらなんか歯牙にもかけないくらい強くなって……みんなの仇をとってやる。その為には何だってする!」

「その時は、俺も連れて行って下さい」

「私も、お忘れなきよう」


セインさんとケントさんが進み出る。
二人とも主君の為にリンの為に命を賭して行動する覚悟はあるって誓いだ。
わたしだって……。
い、命は懸ける事は出来ないかもしれないけど、リンの為なら……。


「リン、わたしも忘れちゃ嫌だからね」

「! アカネ、あなたまで?」

「わたしに出来る事って本当に少ないけど、だから出来る事はやりたい。リンは大事な友達だもん」

「みんな……ありがとう……」


小さい声だったけど、微笑んだ顔と合わさって心の底からのお礼だと分かる。
リンの顔から翳りが消えていつもの彼女になった。
よかった、やっぱりリンには明るい笑顔が似合う。
わたしだって家族を殺した化け物に復讐したい。
でも相手が何だか分からないし、竜である可能性が大きくなったけど、わたしじゃ敵わないと思う。
でもリンの相手は凶悪とは言え同じ人間なんだから勝機はある筈だよね。

……えっと、わたしが戦えるかどうかは別の話になるんだけど……。

そこまで考えた瞬間、わたしの脳裏に何かが走った。
何か……何て言えばいいか分かんないんだけど、悪意みたいな物を感じる。


「あの……。なんか向こうで起きてない?」

「え? なにが?」

「ここからちょっと西の方なんだけど……」


何だか分からない。
どうせ西へ向かうのだからと妙な気配がした方へ向かうと、何やら騒ぎが起きてるみたいだった。
そこで目にした物に、我が目を疑う。

あれ、馬……?
白馬におっきな翼が生えちゃってますけど!?
近くにはふわふわした雰囲気の可愛い女の子と、いかにもガラの悪そうなオジサンが二人。
リンがそちらを見て慌てたように声を上げ駆け寄って行った。


「フロリーナ!? ねえ、フロリーナでしょ!?」

「リン……!?」


ふわふわした薄紫の髪の女の子……フロリーナってそう言えば、リンから話を聞いた事がある。
北のイリアって国に住んでいる女の子で、リンの友達だとか何とか。
フロリーナはリンが旅に出たって聞いて追っかけて来たらしい。
この辺りまで来て村に降りようとしたら下に人が居た事に気付かず、ペガサスで踏んづけちゃったとか。
ペガサスって、あれかー……また非現実的な生き物を発見しちゃった。


「フロリーナ、ちゃんと謝った?」

「う、うん……。何回も謝ったんだけど、その人たち、聞いてくれなくて」

「泣かないで、大丈夫。ねえ! ちゃんと謝ったんならそれでいいじゃない。見たところ怪我もないようだし、もう許してあげて」

「そうはいかねぇ。力ずくでも、その女はもらうぞ!」


ガラの悪いオジサンは手下っぽい人と向こうに行って、他の仲間を呼び出した。
これは間違いなく戦闘になっちゃう予感……!


「リン、わたし、そこの村の人に戦いが始まる事を伝えに行くよ」

「お願い出来る? 伝えたらアカネはその村に避難させて貰うといいわ」

「……リン、この人は?」

「あ、そう言えばフロリーナは会った事なかったわね。二ヶ月前から草原で一緒に暮らしてた友達で、アカネっていうの」

「アカネです、初めまして。宜しくねフロリーナ」

「は、はい……アカネさん、よろしくお願いします」


控え目だけど顔を赤くして微笑み握手に応じてくれたフロリーナ。
ううー、リンとは違う可愛さだな、二人とも本当に羨ましい。

フロリーナが壁の向こうにある村へ知らせに行くのを少し見送った。
翼を広げて羽ばたいて行く姿は、なんだか美しくて格好いい。
……さてと、わたしも村に行かなくちゃ。
さっき通りかかった村のようにボロボロになってはいないけれど、活気は全くない村に入る。


「……すみませーん、誰かいませんか?」

「村から出て行け! 山賊どもめ!!」

「帰れ帰れ! もう金目の物なんかないっ!」

「えぇっ!? あの、ちょっと待って下さい! わたし達、山賊なんかじゃないですよー! 村を助けたいんです、話を聞いてくださいっ!」


姿も見せずにいきなり山賊だなんて呼ばれた!
あれ? わたしの声って女の子の声に聞こえない?
いやいやいくら何でもそんな事ないよね? お願いだからないって言って下さい本当にお願いします!

そうやって一人勝手にショックを受けていると、「おれが見て来ます」と若い男性の声。
やがて現れたのは、高校生ぐらいに見える茶髪のお兄さんだった。


「! 君は?」

「わたしはアカネ、旅の者です。今から仲間が山賊団と戦いになりますので、その間、村の人達に避難して貰おうと思ってお知らせに来たんです」

「そうだったのか。おれはウィル、同じく旅の者だ。世話になったこの村を守るため、よかったら協力させてくれないか?」

「え!? えっと……あ、近くにポニーテールの緑髪の女の子が居ますから、彼女に訊いてみてください。多分大丈夫だと思いますけど……」

「緑髪のポニーテールの女の子ね。分かったよアカネ、ありがとう!」


ウィルという名前らしいお兄さんは一度戻って村人に話してから、すぐ折り返して村の外に出て行った。
やがて村人が出て来て門を固く閉め避難する。

また置いてきぼりか……と少し落ち込んじゃう。
リンは命を狙われてるんだから、目的地に近付けば近付くほど妨害も激しくなって来るはず。
そんな中にわたしが居て本当にいいのかな。
リンやケントさん、セインさんは勿論の事、フロリーナも戦えるらしかった。
きっと今頃リン達と一緒に戦ってるだろうウィルさんも弓矢を持ってたからそれで戦うはず。


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