烈火の娘
▽ 4


仲間も増えて士気が上がったわたし達は一気にキアラン城に迫る。
何だろう、気のせいかもしれないけど、ラウス兵の動きが硬かった気がする。
彼らも自分達のやった事に後ろめたさを感じていたのかな。

城門を守っていた将軍らしき人も討ち取られ、後は城内の敵を掃討するだけ。
エリウッド様がリンに事情を説明して、改めてキアラン城奪還へ向けて意思を固める。


「後は城内に残る敵を討てば城を取り戻せるよ」

「ありがとうエリウッド、あなた達の助けが無ければここまで来れなかったわ」

「……僕らがラウス侯を追い詰めたせいでこうなった……助けるのは当然だ」

「自分のお父さんの事だもの、私がエリウッドの立場でも同じ事をしたと思うわ」


だからキアランに起きた事はエリウッドのせいじゃないと、リンはエリウッド様をフォローする。
そうそう、一番の原因はオスティアに反乱なんて起こそうとしてたラウス候ダーレンだ。

だけど責任感の強いエリウッド様は、城を奪還するまでは自分の責任でやらせて欲しいと言う。
リンもそんな彼の心に配慮してエリウッド様の申し出を受け入れた。

話が終わったのを見計らってリンに近付こうとしたけど、その途中でヘクトル様がエリウッド様に声を掛けた。


「エリウッド! もう城内に入れるぞ」

「分かった」

「あなたは……」


さっき会って会話らしい会話もせずに分かれた味方。
リンの表情に、そう言えば初対面だったなとエリウッド様がお互いを紹介する。
もう少し何か話し始めたので大人しく引き下がると、背後からまたも聞き慣れた声。


「アカネさん!」

「わっ!?」

「あぁ、相変わらずなんて可愛らしいんだっ!」

「セ、セインさん……」


この状況では、いつもと変わらないのがいっそ頼もしく思えるセインさんのだらしない笑顔。
ちょっと苦笑気味になってたと思うけど、わたしも笑顔を返せた。

彼の背後からケントさんとウィルさんが歩いて来るのが見えたけど黙っておこう。
セインさんはヒートアップしてわたしの手を握って来る。


「突然居なくなられてもう、胸が張り裂けるかと思いました……!」

「ご、ごめんなさい」

「謝らないで下さい! アカネさんがご無事というだけで俺は、俺は!」

「控えろセイン、今の状況が分かっているのか!」


あ、ケントさん達が到着。
鞘でセインさんの頭を一発、これもいつも通りの光景だな……妙に懐かしい。
叩かれた頭を押さえて呻くセインさんを無視して、ケントさんはこちらに困ったような微笑を向けて来た。


「アカネ、リンディス様から置手紙の内容を聞いた時は驚いた。あのフレイエルの奴が迫っていたんだな。無事で安心したよ」

「ケントさん……」

「今一度、キアランの為に力を貸してくれないだろうか」

「はい、もちろんです!」

「おーい、おれも居るから忘れないでくれよな」

「ウィルさんも、お久し振りです」

「急に居なくなるんだもんなぁ、心配したよ。ところでシュレンは?」


屈託ない笑顔かつ何でもない調子で訊ねて来たウィルさんに、わたしは笑顔を返す事が出来なかった。
顔が曇ってしまったらしく、3人がぎょっとしたような表情をする。


「え……えと、まさか」

「ウ、ウソ、ですよねアカネさん……」

「……生きては、います。多分。どこかへ行ってしまっただけで」


3人とも一瞬だけホッとして、だけど、どこかへ行ってしまったという言葉を飲み込んでからは腑に落ちないような顔。
自分で言うのは恥ずかしいけど、あれだけわたしを大事にして守ってくれていたお兄ちゃんだから、わたしを放り出してどこかへ行くのが想像できないのかもしれない。

わたしだってお兄ちゃんに何が起きたのか把握できてない。
こうして旅していればいつか再会できるよね……?


「アカネ、元気を出せ……と簡単に言うのもどうかと思うが、君には私達が居る。一人で背負い込み過ぎず何でも話してくれ」

「……ありがとうございます、ケントさん」

「おいおいケント、一人だけイイトコ見せようってのはズルイぞ! アカネさん、俺も居ますからどうぞ遠慮なく! いつでも胸に飛び込んで泣いて下さい! 何なら今夜は一晩中俺が傍で慰めぐふっ」


またケントさんの鞘がクリーンヒットした。
それがおかしくて少し声に出して笑うと、ようやく3人とも本当にホッとしてくれたみたい。
そうしていると話が終わったらしいリンがフロリーナを伴いやって来た。


「リン……」

「みんな……みんな、あなたの事を心配してたわ。今頃どうしてるかなって……無事で居るかなって……。
私達の為に出て行くなんてそんな事、しなくても良かったのに……」

「でもフレイエルの事は本当に、私個人の事だから。みんながわたしを心配してくれたように、わたしもみんなが心配で……危険から遠ざけたかった」

「置手紙にも書いてたわね。アカネの気持ちも分かるから責めるつもりは無いわ」

「リン、話なら後でゆっくり。今はキアラン城を取り戻して侯爵様を助けよう」

「そうね……おじい様を助けなくちゃ。アカネ、また力を貸してくれる?」

「うん!」


こうしてわたしは再びキアラン城に足を踏み入れる。
侯爵様も、魔道士隊長さん達も無事なら良いけど…。

1年以上過ごしたキアラン城が、何だか初めて見る場所になってしまったようだった。




−続く−


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