烈火の娘
▽ 1


どうやらラウス侯爵ダーレンは息子であるエリック公子を見捨ててどこかへ行ってしまったみたい。
エリウッド様とヘクトル様がお見舞いついでに、エリック公子から聞き出せた事を教えて下さった。

エフィデルという謎の男が現れ、ダーレンが変わってしまった事。
そのせいでリキア同盟国の盟主オスティアに反乱を企てた事。
……そして、諸侯に反乱の協力を呼びかけたダーレンに、エリウッド様のお父上であるエルバート様も賛同したって……。

もちろんエリウッド様達はそんな事 信じてない。
だけど最初にサンタルス侯、次にエルバート様が返事をしたらしい。

半年前、エルバート様は反乱意思の最終確認にラウスを訪れたそう。
更に謎の男エフィデルは暗殺団【黒い牙】を連れて来て、彼らを良く思わないエルバート様とダーレンが口論になり、その後エルバート様は失踪してしまった。
普通ならエルバート様の生存は絶望的だと見る所だけど……。


「……父上は生きている。僕は信じたい」

「わたしも信じたいです。まさか反乱だなんて……」


わたしはエルバート様にお会いした事は無い。
それでもオスティアに反乱を企てるなんて信じられなかった。
これもエリアーデさんの心によるものなんだろうか。


「……あの、ところでエリック公子は……」

「今は離れに軟禁しているよ」

「奴がお前にしたみたいに牢に入れてやっても良かったんだが、一応立場ってもんがあるからな」

「彼、エリアーデさんと何かあったんですか?」

「あいつエリアーデの奴に惚れたらしくってよ、昔から会う度に迫ってたんだ。エリアーデが嫌がってるのにしつこいもんだから、俺やエリウッドが何とか防いでた」

「ああ、それで……」


ヘクトル様の言葉に合点がいく。
エリック公子の名前を聞いた時に感じたゾワリと来る感覚の原因はそれなんだ。
それに納得してしまった自分が凄く怖いけれど。

とにかくダーレンの行方を捜さなければならないので、エリウッド様達は話し合いに行ってしまった。
まだ体調が優れないので親切に甘えて休むけれど、眠れなくて暇。
なんて思っていたらノックの音。


「アカネ。僕だ、エルクだよ」

「エルク……!」


扉の向こうからの声にどうぞ、と少し上擦る声で言うと入室する懐かしい顔。
具合が悪いのも忘れかけながら上体を起こした。


「久し振りだねエルク。ごめんねこんな格好で」

「ああ、まだ具合悪いか。出直すよ」

「ううん、暫くここに居て。気が紛れるから」

「……分かった」


少しだけ躊躇うようにしていた彼は、やがて近くの椅子を持って来てベッドの隣に座った。
こうして無事に再会できたなんて、嬉しい!


「こんな所でこうして再会するなんてね。……シュレンの事はセーラから聞いたよ」

「あ……聞いた? お兄ちゃん本当、どうしちゃったんだろう」

「少なくとも嫌われた訳じゃないんだろ? それならまだ話し合う余地はある。僕も協力するから旅しながら彼を探そう」

「うん、ありがとうエルク」

「ところで例の魔道書の事だけど」


わたしが気になる事の一つ、あの読めない魔道書。
エルクは師匠であるエトルリア王国の魔道軍将さんに話してくれたらしい。
確かパント様だっけ、その人。


「パント様に文字の特徴を出来る限り伝えてみたら、もしかすると遙か昔に使われていた古代魔法じゃないかって」

「古代魔法……」

「実際に見た訳じゃないから確証は無いそうだけど。本当に古代魔法なら是非とも見たいって、とても興味を持たれていたよ」


その古代魔法とやらはとっくの昔に失われていて、現存していない筈だって話。
手紙やペンダントの件から、荷物入れはエリアーデさんの物だという可能性が高い。
彼女はどうしてそんな貴重な魔道書を持っていたんだろう。

色々と疑問が浮かんで難しい顔をしてしまったのか、エルクが心配そうな顔になる。


「アカネ、体調が戻るまであまり考え過ぎない方がいいよ。僕も具合が悪い時に無理をして余計に悪化させて、心配を掛けた事があるんだ」

「……そうだね。ありがとうエルク、話してたらだいぶ気が紛れた」

「少しでも役に立てたんなら良かった。早く良くなるよう祈っておくよ」


それからもお兄ちゃんの事の気を紛らわす為に少し話し相手になって貰った。
こうして気遣ってくれる友達の存在って本当に有り難い。
何かあったらわたしも返して行きたいな。

エルクが帰った後は大人しく寝ておく事にしよう。
今は少しでも不安を忘れて休んでおきたい。


++++++


ラウス城を落としてから3日が経った。
心は重いままだけれど体調は少しずつ回復して来て、少し城の中を歩いてみたり。

まだダーレンは見付からないようで、皆ちょっとピリピリしてる。
エルバート様の件とかで色々あったから無理もないよね。

ちなみにヘクトル様はエルバート様に謀反の疑いがある事を、リキア同盟国の盟主でありご自身のお兄様でもあるウーゼル様に報告してないらしい。
立場上、本来なら真っ先に報告しておかなくちゃいけないだろうけど、
エリウッド様を気遣って、何よりヘクトル様もエルバート様を信じているから、その事についての報告はもっと情報が集まってからだと遅らせてるみたい。
友情だねえ……。


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